「仕事とは?」「なぜ働くのか?」「どう働くのか?」を考える
仕事旅行社のホームページに、こんなことが書いてあります。
「変動の時代の中では、都会の一流企業に勤めることが 充実した人生につながらないかもしれません。これまで得た知識や情報が充実した人生を保証するとも限りません。誰も正しいことがわからないのです。
そんな答えのない時代だからこそ、私たちの『働き方』や『仕事』についても、これまでとは違う新しい『考え方』が必要なのではないでしょうか。
つまり、これまでの『常識』を疑うような『仕事とは?』『なぜ働くのか?』『どう働くのか?』というちょっと青臭い、根本的な問いを真ん中に、自ら頭で考えて、答えを出し、進んでいく。」
私はこの考え方に共感して、仕事旅行に興味を持ちました。そんな私が今回選んだ旅は「東京と千葉県南房総鋸南町の2拠点生活をされている塚田一未さんの旅
(二拠点居住のライターになる旅)」です。
私がこの仕事旅行を選んだ理由は・・・
・ベテランライターの仕事を見学することは、自分の仕事の参考になると思った。
・コロナ禍でテレワークや移住など、働き方に変化がおきています。「2拠点居住」もその一つですが、2拠点居住を実際にされている方の仕事や生活について知りたいと思った。
この二つです。
塚田さんは、東京と南房総鋸南町の2拠点居住ということで、今回の旅では鋸南町での仕事を体験させていただきました。
旅の紹介ページでは、鋸南町でライターの仕事をしているということでしたが、参加してみて私が思ったことは、塚田さんはライターの仕事をしているというより「ライターの技術やノウハウを活用して、鋸南町の町おこしをしているんだ」ということでした。
世の中では「SDGsや社会課題の解決」と言ったことが話題になることも多いので、私も関心はありますが、個人でそれに取り組んでいる人をほとんど見たことがなかったので、とても勉強になる仕事体験になりました。
保田漁港で旅の参加者に説明する塚田さん(中央)
海と山がある町、鋸南町
東京駅から高速バスで2時間弱。「ハイウェイオアシス富楽里」で塚田さんと待ち合わせし、そこから旅ははじまりました。今回は、以前、塚田さんの仕事の旅に参加し、この鋸南町に移住することを決めた「Yさん」も途中から合流しました。
この旅で案内していただいた場所は下記の通りです。
・「波の伊八」彫刻
・岩井海岸から岩井袋
・源頼朝上陸地の碑
・保田漁港
・「空き家」数軒
・佐久間ダム 近くの食堂
・「農家カフェ」になる予定の家
案内していただいた場所に、「空き家」が含まれているのはなぜかというと、そこに、塚田さんの仕事があるからです。
塚田さんは鋸南町で「野水仙つうしん」という情報紙を編集・発行しています。なぜ、鋸南町で暮らすようになり、「野水仙つうしん」を発行するようになったのでしょうか。
「出版した本の在庫を置く倉庫が千葉県木更津市にあったんです。それが使えなくなってしまって、新しい場所を探していたところ、見つけた倉庫が鋸南町にあり、住まいも借りられるというので住むことにしました」
『野水仙つうしん』を発行することになったのは、昔、来たことがあった鋸南町が、昔ほどの活気がなく、住民の減少などの課題があることを知って、情報を発信することが町おこしにつながると思ったからだそうです。
塚田さんは町の住民の方と親しい関係を築かれているようでした。空き家のオーナーの方や、食堂の主人との会話から、そう感じました。
もし2拠点居住して、新しい町に住むとしたら、その町の人達とどのように付き合うのがよいか考えることになると思います。塚田さんのように地元の方と積極的にコミュニケーションを取ることができたら、生活がより楽しくなるだろうと思いました。
自分ができることを、小さなことでも良いからやってみる
旅の最後は、塚田さんが住んでいる借家で懇談会です。
塚田さんの高校時代の失敗、若い時に働いていた出版社で学んだこと、高校時代の部活で一緒だった二人の友人が社会人になってからの話、映画監督・山田洋次氏の話などを聞きました。
自分より人生経験が長く、また70歳を過ぎてなお、町おこしという社会課題に取り組むバイタリティがある塚田さんの話はとても興味深く勉強になりました。
塚田さんの話のなかには、鋸南町や自分が住んでいる町をもっと活気ある町にしようと尽力している方が何人か登場します。
例えば、JR内房線保田駅の駅前で「鋸南エアルポルト」というアーティストインレジデンスとコワーキングスペース、本屋などを組み合わせた施設を立ち上げた佐谷さん。世田谷で「世界初のパクチー料理専門店」をつくり、パクチーブームをおこした方です。「パクチー銀行の本店」もここにあるそうです。
この施設は、保田駅を利用する鋸山の登山客、パクチー銀行に興味を持った人など、いろいろな人が訪れる場所になっているそうです。
オリンピック史上初めて行われたサーフィン競技の会場となった千葉県一宮町の町長。町長はサーフィンを中心とした町おこしをどのように行って、一宮町でオリンピックを開催するためにどんなことをしたのか。
彼らに共通していることは「自分ができることを、やってみる」。
そしてビジョンがあれば、そのビジョンについていこうと思う人が一人、二人と増えて、町を動かす力になっていったようです。
塚田さんも、現在、農家カフェのオープンなど、鋸南町の町おこしプロジェクトのいくつかに関わっています。
農家カフェを改修中
こんなエピソードも話してくれました。
ある日、塚田さんがバスの中で、一人のおばあさんと会話をした時のこと。塚田さんが「野水仙つうしんを作っている者です」と言うと、おばあさんはこう言ったそうです。
「鋸南町は暗い話題ばかりだったけど、野水仙つうしんには明るい話題がのっているから、読むのを楽しみにしています」と。
塚田さんが、自分の取り組みが町の人の希望になり、町おこしに貢献していることを実感した瞬間です。
「町おこし」というと、例えばイベントを開催する、ご当地キャラクターを有名にする、というようなことを思い浮かべますが、現実的には、減る人口をどうするのか、空き家問題をどうするか、など地味だけど、取り組まなくてはならない課題に向き合うことになります。
その課題に自分がどうアプローチして、解決していくのか。塚田さんが、仕事の旅を行っているのも、課題を解決する一つの方法です。
塚田さんの仕事の旅に参加したことがきっかけで鋸南町に移住した人は今までに7人。Yさんが移住すれば8人目ということです。
今回の旅に空き家があったのは、塚田さんが鋸南町に移住を希望している人に空き家を紹介しているからです。
移住というと、人の人生に大きな影響を与える決断が必要です。問題意識を持った塚田さんのような人が地域の住民と協力し、真剣に取り組むと、その決断を後押しする力になれるのだと思いました。
そしてそれが、町の活性化の役に立つというのは、とても素晴らしいことだと思いました。
ちなみに、今回、鋸南町に移住予定のYさんが一緒で、また、私も2拠点生活を検討していると言ったため、空き家の見学などの時間が多くなりましたが、旅への参加の目的などを事前に塚田さんにお伝えすれば旅の内容はある程度はアレンジしていただけるようです。
この記事の最初に書いた「答えのない時代だからこそ、私たちの『働き方』や『仕事』についても、これまでとは違う新しい「考え方」が必要なのではないでしょうか。
つまり、これまでの『常識』を疑うような『仕事とは?』『なぜ働くのか?』『どう働くのか?』というちょっと青臭い、根本的な問いを真ん中に、自ら頭で考えて、答えを出し、進んでいく。」
これを塚田さんは実践されていると思いました。
塚田さんへの旅に参加したことは、私に自分で考えて、答えを出し、進んでいくきっかけを与えてくれました。
記事:ケニー田中(編集職人)
※写真は塚田一未さん提供、港の写真のみ著者が撮影。
【この連載のバックナンバー】
★一緒にご飯を食べたい人を採用する。食業プロデューサーの仕事論に学んだことー編集職人による仕事旅行レビューvol.1
★会社以外の居場所を持つ。焦らず気長に時期を待つ。秩父銘仙の仕事旅行で学んだことー編集職人による仕事旅行レビューvol.2
★息苦しさをつくっているのは、自分かもしれない。精神保健福祉士の仕事旅行で学んだことー編集職人による仕事旅行レビューvol.3
★胸の中まで熱くなる。旅行家の言葉と生き様に学んだことー編集職人による仕事旅行レビューvol.4
★悩みの堂々巡りになってしまったので「質問カードコーチの旅」に出かけてみたー編集職人による仕事旅行レビューvol.5
★仕事は足し算じゃなくかけ算でときには引く。作詞家のキャリア論から得た気づきー編集職人による仕事旅行レビューvol.6
★瓦割りには自分の殻さえ割れるようなスコーンと抜ける爽快感があったー編集職人による仕事旅行レビューvol.7
メルマガ登録いただくといち早く更新情報をお伝えします。
メルマガも読む
LINE@はじめました!