仕事旅行づくりを手伝ってくれている編集職人の皆さんが、みずから仕事旅行を体験。そこで学んだこと、感じたことを自分の言葉でレビューします。参加する旅選びのご参考に。
秩父銘仙と出会う
自分の「好き」と向き合う人に会ってみたい。それがこの旅に参加した理由でした。
私の本業は、数字やロジックの飛び交う仕事。1日の大半を使うのに仕事が好きになれず、くすぶる毎日。それでもいつかは、自分の感性を大事にして好きなものに触れる暮らしをしたいと思っています。
将来に向けてヒントを得られればと思い、今回の仕事旅行の舞台である秩父へ向かいました。
今回旅の案内をしてくださるのは、秩父市地域おこし協力隊として活動する岩野倫代さん。
岩野さんは秩父銘仙に魅せられて地域おこし協力隊員になり、秩父銘仙のPR活動を行っています。この旅では、秩父銘仙の魅力と好きなことを仕事にするキャリアを学ぶことができます。
銘仙は、かつて養蚕業が盛んだった埼玉県の秩父地域で作られてきた絹織物です。明治中期から昭和初期にかけて最盛期を迎え、女性の間で手軽なおしゃれ着として全国的に人気が広まるようになりました。
銘仙の魅力は、レトロでバラエティ豊かな柄。そして普段着にもできるほどカジュアルな感覚で着られることです。
秩父市の中心街にある「レンタル銘仙イロハトリ」(秩父ふるさと館内)でに岩野さんと待ち合わせし、銘仙を着ることから旅は始まります。
「レンタル銘仙イロハトリ」では、100着以上のカラフルな銘仙からその日着るものを選ぶことができます。どれも可愛くて目移りし、時間をかけて選びました。
どれを着るか迷ったら岩野さんに聞いてみましょう。銘仙マニアの目線から、きっとおすすめの1枚を教えていただけます。
着付けができたらさあ、秩父の街へ。
人生の経験はどこかでつながる
昔ながらの建物が残るレトロな街並みを通り抜けると「ちちぶ銘仙館」に到着です。
ちちぶ銘仙館は、銘仙の技術や魅力を現在に伝えている資料館。岩野さんの職場でもあります。普段はスタッフとして館内の案内や、縦糸に模様をつける捺染(なっせん)の修行を行っているそうです。
手織りのコースターを作るために体験工房へ行きました。ずらりと並んだカラフルな糸の中から、コースターに使う横糸を自分で選びます。糸を5本選んだら、強度を上げるために糸を撚(よ)っていきます。
糸の撚り方も織り方も人それぞれ。同じ色の糸を選んでも、織る人が違えばまったく違うコースターに仕上がるそうです。
織機に座り、岩野さんのレクチャーでコースターを織っていきます。
横糸を通しては織っていき、1枚の布になるまでとても地道な作業です。手作業ならではの繊細さがあり、今に残る貴重な伝統工芸であることを目の当たりにしました。
岩野さんは、かつて勤めていた印刷会社で機材を扱った経験が、銘仙を織るときにも役に立っているそうです。「回り道はしたけれど、これまでの経験は無駄にはならない」とお話ししていたのが印象的でした。
着物のお店でアルバイトを始めて着物業界に飛び込まなければ、地域おこし協力隊に応募しようと思わなかった。人生で秩父に住むことになるとは思わなかった。岩野さんはまさに銘仙に導かれて秩父にたどり着いたのです。
役に立つと思わなかった経験もどこかでつながる。今までやってきたことがいつか活きるのかもしれないと、私も希望が持てました。
巡ってくるタイミングを大切に
私は絵を描いたり文章を書いたりといった、クリエイティブな作業が昔から好きでした。できることなら仕事にしたかった。でも好きなことはお金にならないと思い込み、まったく分野の違うIT系の仕事に就きました。
就職してから数年経って転職活動をすることになり「やっぱり好きなことに関わりたい!」とさまざまな場所に応募するも、結果は惨敗。
「これまでの仕事経験を活かしながらチャンスを待とう」と何とか自分を納得させて入ったIT系の転職先。それでも転職してからは「この仕事に向いていない。本当はやりたくなかった」と思う瞬間がたくさんあり、辞めることまで考えました。
会社を辞めて好きな世界に飛びこんだ岩野さんなら、ヒントをくれるかもしれない。
そう思ってキャリアの話を聞いてみることに。『レンタル銘仙イロハトリ』の店主の方も、IT系会社員をへて地域おこし協力隊になった経歴をお持ちの方。会社員時代から、着付け教室に通うことで好きなこととつながりを持っていたそうです。
会社以外にもさまざまな居場所を持つことが大事。好きな分野にアンテナを張っておけば、チャンスが広がってタイミングが向こうからやってくるかもしれない。そんなお話をしていただきました。
情報収集を欠かさず、今いる場所で得られるものは得ておき、チャンスが来たときに行きたい場所へいつでも移っていける準備をすることが大切なのかもしれません。
自らチャンスを取りに行くだけでなく、急がずにタイミングを待つ方法もあるのだと、お2人から学びました。
周りのライフステージが変わっていく中、自分も何かを成し遂げなくてはと焦っていました。今できることにじっくり取り組んでいくことが、やりたいことへと進んでいく第一歩なのだと思います。
「好き」を仕事にする一歩を見つけたい方、着物が好きな方、地域おこし協力隊に興味のある方におすすめの旅です。
楽しいだけではなく、実りある時間にできるかは自分次第。訪れるときには、聞いてみたいことや知りたいことをたくさん用意してみてください。
美しい秩父銘仙とキャリアのヒントに、きっと出会えます。
記事・写真:馬場史織
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