2019年12月18日更新

"二拠点女優" 手島実優は、群馬・東京を行き来しながら考えた。芸能人の新しいはたらき方とは?

平凡ながらも充実した日々を送る高校の天文学部の仲間たちが、
数十年に一度観測される彗星の到来を前に浮き足立つ姿を描いた青春SF群像劇『赤色彗星倶楽部』。

国内の映画祭で数々の賞を受賞したこの映画の中で、
ヒロイン役として鮮烈な印象を残したのが、女優の手島実優さんです。

映画やドラマなど東京での仕事をしながら、拠点は地元である群馬・前橋市に置き、
地域おこしの活動にも積極的に関わる手島さんは、自分の働き方をこんな風に紹介します。

「芸能事務所でマネジメントされたことはなく、フリーランスでずっと活動しています。
 行政のプロモーションなどの仕事も、自分で受けて担当者の方と直接やりとりしながら進めているんです」

甘く柔らかな顔立ちとは対照的な、しっかりとした話しぶり。
22歳とは思えない、地に足の着いた大人の印象を受けます。

働き方の多様化が言われる中、ふたつの地域を行き来しながら暮らす「二拠点生活」や「二拠点ワーク」に注目が集まっていますが、こと芸能の仕事に関しては東京一極集中の傾向は変わっていません。
手島さんのように、”二拠点女優”として芸能活動を行う人はまだまだ少数派です。

手島さんはなぜ、このはたらき方を選んだのでしょうか? 二拠点で女優として活動することのメリットとは?
2020年に仕掛ける上映イベントの話題も含めて話を聞いてみました。



二拠点活動での経験が、感性を豊かにしてくれる


手島さんは10歳のころにお芝居を始め、地元のアマチュア劇団に入団して演技を学びました。
群馬在住の美少女を取り上げる「群馬美少女図鑑」などでモデルの活動もしていましたが、
14歳のとき、突然の病が手島さんを襲います。診断の結果、突発性脊髄側湾症(せきずいそくわんしょう)であることが判明。背骨が生涯曲がらないという、重いハンデを負うことになります。

手島さんのストーリーを語る上で、病気のことはどうしてもネガティブな出来事として取り上げられがちです。しかし、このハンデがあったからこそ「群馬に残るか、上京するか」という二者択一ではない、現在の働き方を自ら選び取ることができたといいます。

とはいえ、東京のほうが圧倒的に仕事量が多いのは事実。
健康面での課題をなんらかの方法でカバーして、上京を目指すのも、ひとつの選択肢として取り得たかもしれません。1カ所に腰を落ち着けたほうが、移動による負担が軽減できるという考え方もあるでしょう。
しかし、手島さんは女優として幅広い表現力を身につけるために、あえて二拠点を選んだと言います。

「東京は情報が多く、満たされるものが多い。なんでも東京で解決・完結できる。でも、そんなふうに自分たちの周りだけでスムーズに動く世界は、かえって孤立しているように見えます」

一つの場所だけに身を置くと、自然と付き合う人々も限定的になり、知らず知らずのうちに見える世界が狭くなってしまう。
さまざまな人物を演じる女優にとって、都会と地方を横断して多様な人の価値観にふれることは、表現の豊かさに繋がります。

「様々な経験を重ねることで、感性の引き出しが増えていくと、いろんな演技ができるようになると思うんです。演出家とのやり取りの中でも、経験の乏しさから、相手の意図を理解できないこともある。だから私は経験を粗末にしたくなくて。ご縁があって出会った人や言葉の中から、自分の感性がピンと来たものを大事にしたいですね」

現に手島さんは女優の活動のみならず、東京の映画の仕事で群馬のロケ地やキャストの手配をすることもあるそうです。これは、単に東京の芸能事務所に所属しているだけでは得られない経験といえます。
ときに「いっぱいいっぱい」になりながらも、二拠点活動の中で身につけたさまざまな経験が、手島さんの演技に厚みをもたらしているのかもしれません。

地方創生の課題に、女優としてどう取り組むか


「俳優の中でも、私はかなり行政と近い距離にいると思います」と語る手島さん。

東京での出演実績が増えてきたこともプラスに働き、県や市のプロモーションでお声がかかることが多くなってきたそう。高崎市の農業の魅力を伝えるYouTubeチャンネル「農Tube高崎」の出演者に起用されたり、さらには県政運営の指針づくりを行うための「計画策定懇談会」の有識者メンバーに選ばれるなど、徐々に群馬県の新しい顔として知られつつあります。

ただ、さまざまな地域活性化施策に関われば関わるほど、その難しさを感じる瞬間があるといいます。

「どうしても有名な人を呼ぼう! というやり方に陥りがちです。ですが、そういう何かを目的に群馬に来るという人は、結局もといた場所に戻ってしまいます」

さまざまな施策で一時的な交流人口は増えるものの、それがなかなか定住人口の増加や転出者の減少に結びつかない。多くの地方自治体が抱えるこの難題に対して、女優としていったい何ができるのか。

手島さんがいまたどり着いている答えが、「生き方」を示すことだといいます。

「私ができることは、私のやり方を話すこと。私自身が群馬にいながら東京でも働いているように、自分の生き方は自分で自由に選択することができます。地方に住んでいるからといって諦めなくていい。逆に、東京にいるからといって地元を完全に捨て去る必要なんてない。自分が楽しいと思えるような選択をしていければいいなって。生き方の広さを、女優という職業を通して伝えていきたいと思っています」

即効性はないかもしれない。目で見て量れる効果はないかもしれない。
けれど、もし彼女自身が群馬で新しい働き方を実践する若者のロールモデルになれたなら、
きっと群馬で暮らす人々の人生の選択肢はグッと広がるはず。

そのために彼女は、「”東京で商業映画の主演をやる”といったこととは違った意味で、私は影響力のある人になりたい」と語ります。



インディペンデント映画の聖地が仕掛ける上映企画「the face」とは?


多様性という意味では、昨今のエンタメにおけるヒットの震源地も一様ではなくなっています。
なかでも熱気に包まれているのが、現在の手島さんの主戦場であるインディペンデント映画業界です。

インディペンデント映画とは、いわゆる自主映画のことを指します。
かつては商業映画に対置される、単に低予算で商業ベースに乗らない作品の総称でした。しかし近年、自主制作だからこそできる自由な発想を活かした作品が数多く生まれ、次世代の若手監督・若手俳優たちを次々と輩出しています。

その最たる例が、昨年大ヒットを記録した映画『カメラを止めるな!』でした。

『カメラを止めるな!』はSNSを中心に話題を呼び、その人気が徐々に全国へと飛び火していきました。
怒涛の “カメ止め旋風”によって、最終的に全国約350館にまで上映館を広げることになりましたが、最初は東京都内のたった2館のミニシアターから始まっていたのをご存知でしょうか? そのうちの1館が、池袋シネマ・ロサでした。

池袋シネマ・ロサは、これまでもインディペンデント映画の良作を多数上映しており、
昨年からインディペンデント映画で活躍する若手俳優の特集上映「the face」をスタートさせました。

「いつか映画の“顔”になってほしい」という想いのもと、ネクストブレークが期待される若手俳優を毎回1人セレクト。これまでの代表作を日替わりプログラムで連日、一挙上映するという特集企画です。

この企画の第3弾として、2020年1月11日から17日にかけて手島さんが取り上げられることになりました。

冒頭でも触れた『赤色彗星倶楽部』(監督:武井佑吏)や、LGBTをテーマに国内の映画祭でグランプリ6冠を含む計13冠を受賞した『カランコエの花』(監督:中川駿)など、インディペンデント映画の今を知ることができるショーケースのようなラインナップとなっています。

全9作品のうち、手島さんの一押しは、今回の上映イベントのために撮り下された『実優ちゃんは群馬から来る』という作品だそうです。手島さん自身を追ったフェイクドキュメンタリーで、制作費となる協賛金を集めるため、手島さん自ら群馬県内の企業にアポを取ってプレゼンまで行ったといいます。

「群馬と東京を行き来する私の女優活動に対して、業界の人から批判を受けたり、やる気が足りないと怒られたりすることもありました。もしかすると自分は間違っているのかもしれない。その不安を『カランコエの花』の中川監督に腹を割って話したら、私の活動そのものを作品にして世の中に示したらどうかと提案してくれたんです」

芸能界にも確実に働き方改革の波が押し寄せている。
そんな動きが伝わってくるお話でした。
手島さん自身が芸能人の働き方のロールモデルになる日も、そう遠くないのかもしれません。

記事・写真:森正祐紀



the face vol.3 手島実優 特集上映
2020年1月11日(土)~17日(金)
東京都 池袋シネマ・ロサ
料金:一般 1500円 / リピーター割 1300円 / 役者割1100円(自己申告制)

<公式Twitter> https://twitter.com/thefacecinema

<上映作品>
「カランコエの花」
「実優ちゃんは群馬から来る」※初上映
「赤色彗星倶楽部」
「高崎物語-夏-」
「おかしなふたり」
「グリモン~DREAM OF FLYING CAR~」
「コーンフレーク」※初上映
「かく恋慕」
「世界の終わりとアダムとイヴ」

<手島実優コメント>
大切な出演作品が、特集を組んでいただけるにまで増えたことにびっくりしています。女優なんて無理かも...と思ったあの日から、今日まで楽しくやって来られたのは、私の生き方を肯定してくれた作品や、出逢った人たちのおかげです。たくさんの皆様にその姿を観に来て欲しいです。池袋で元気にお待ちしております!
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