2018年12月14日更新

学びのサービス「仕事旅行式」を開発するー経験×越境の短期学習における効果と実践ー(後編)

3章:仕事旅行は社会人のOSをアップデートさせるー留職との比較ー


一瞬でも基本を忘れたら、根本から崩れ去ってしまう(マイケル・ジョーダン/バスケットボール選手)

前編では「経験学習」と「越境学習」の2つの要素を兼ね備えた学習プログラムーー仕事旅行について解説してきた。当サービスの目指すものは、働き方が多様化するVUCA時代の要請に応え、様々なメニューの職業体験を通じて、働く人が自分らしく持てる力を発揮できるよう、社会人としての成長を促すことである。

言い換えるならそれは、仕事を通じて"自己表現"ができるようになるということである。

「経験×越境」を成長のバネとする学習サービスは仕事旅行以外にも存在する。一例を挙げると、NPO法人クロスフィールズが運営する新興国「留職」もこれにあたるだろう。「留職」とは、「社会課題に取り組むNPOや企業とともに、本業を生かして課題解決に挑む」プログラムだ(NPO法人クロスフィールズウェブサイトより)。新興国の様々な職場に社員を1~2ヶ月派遣し、スキルを生かして現地に貢献すると同時に、体験者にも成長をもたらすことで、多数の企業が導入しているという。

この両サービスが「経験×越境」の学びであるならその違いは何か? 本章では「留職」と「仕事旅行」を比較することで、学習プログラムとしての仕事旅行のアイデンティティを、さらに明確にしたい。

① 留職は海外で既知のスキルを磨く。仕事旅行は国内で未知の自分に出会う。

留職も仕事旅行も、これまでとはまるで異なる環境に赴き仕事をするが、留職において求められるスキルは学習者の本業である。エンジニアはエンジニアの、企画職は企画職、生産管理職は生産管理職の知見を生かして現地で働く。その意味で留職は、海外という"越境環境"でいまの仕事をより幅広い視点で捉えなおしながらも、本来のスキルをさらに磨く学びに重きを置いていると言えるだろう。

一方、仕事旅行では、多くの参加者は本業とほぼ関係がないとさえ思われるような職場に赴く。見たことがなかった仕事の現場で、いまの仕事を客観視するきっかけを得ながらも、それまでの自分にまるで存在しなかった知見への気づきを重視する。その職場で役に立つ仕事ができるかどうかは二の次であり、学習者は未知の世界でまるで"使えない"自分に出会うことによって、働き方やスキルの多様性を身をもって知ることになる。

② 留職は長期掘り下げ・スペシャリスト育成型、仕事旅行は短期バランス・ジェネラリスト育成型

2つ目として学習期間の長短期の違いは大きい。留職の場合、1名の参加者が体験を終えるまでに、実施検討から調整、準備、現地業務、帰国後の振り返りまでを含めて約1年を要するという。派遣社にとっても派遣者にとっても、一大プロジェクトである。時間をかけて深く学ぶという意味では、その効果影響は大きいと想像されるが、大人数を派遣するにはハードルもある。

一方で仕事旅行はほとんどのプログラムが1日完結型である。調整・準備などにも比較的手間がかからないため、一般的な研修と比較して費用なども割安であり、大人数が参加できる。そのぶんスキルという意味では、1回の体験で習得しうるものは本格的なものとなりえず、自己啓発的な学びの色彩が強くなる。後述するが、参加者の中に眠る新しい力への確かな気づきを得るためには複数回参加することが望ましい。

このように考えると、留職は長期掘り下げ型の学び、仕事旅行は短期バランス型の学びである。どちらかというと前者は専門職(=スペシャリスト育成)に適し、後者は総合職(=ジェネラリスト育成)に適する。さらに言うなら留職は「社会人応用力」を身につけための学習プログラム、仕事旅行は「社会人基礎力」を身につけるための学習プログラムと言い換えることもできるだろう。

ここで、近年注目を集める「社会人基礎力」について考えたい。社会人基礎力とは経済産業省が提唱する概念であり、職場や地域社会で仕事をしていく上で重要となる基礎的な能力を指す。「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力を柱とし、「主体性」「発信力」など計12の能力要素で構成される。

「社会人基礎力」自体は2005年から2006年にかけて作成されたものだが、このたび「人生100年時代の社会人基礎力(新・社会人基礎力)」として改定され、あらゆる世代に必要な仕事の基礎力として再定義された。経産省がリリースしている資料によれば、以下のように位置づけられている。

「『新・社会人基礎力』は、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力と定義され、社会人基礎力の3つの能力/12の能力要素を内容としつつ、能力を発揮するにあたって、目的、学び、組合せのバランスを図ることが、自らキャリアを切りひらいていく上で必要と位置付けられる。」(経済産業省・産業人材制作室 平成30年2月 資料6より)


同省による別資料では、「人生100年時代に求められるスキル」を「社内スキルと専門スキル」及び「社会人基礎力とキャリア意識、マインド」の二つに大別し、前者を「業界等の特性に応じた能力(アプリ)」、後者を「社会人としての基盤能力(OS)」とした上で、「人生100年時代の働き手は、【アプリ】と【OS】を常に“アップデート”し続けていくことが求められる」としている。

「経験×越境」の自己啓発型の学びである仕事旅行は、ここで言うところの「OSアップデート」のサービスである。対して留職はアプリ開発型の学びなのではないだろうか。

だが、前章でも触れたように、現状の課題として仕事旅行は、働く人のOSアップデートのカリキュラムとして最適化されているとは言い難い。次章ではサービスの改善点を挙げるとともに、「新・仕事旅行」の"取り説"として、効果的な活用法を考えてみたい。学習メソッド「仕事旅行式」を開発するための試論だ。

4章:1基礎力×3サイクルで効果が上がる「仕事旅行式」とは?


まず、仕事旅行に約150ある各職業体験の内容に応じ(2018年現在)、参加で高まることが期待される12の能力要素を抽出して、それぞれに紐づける。もちろん、仕事はひとつの能力で成立するわけではなく、ここで抽出したものはその体験において身につくことが期待される主な社会人基礎力という捉え方だ。

以下は「社会人基礎力」で12の能力要素である。

(社会人基礎力)

「①前に踏み出す力」:主体性・働きかけ力・実行力
「②考え抜く力」:課題発見力・計画力・想像力
「③チームで働く力」:発信力・傾聴力・柔軟性・状況把握力・規律性・ストレスコントロール力


サンプルとして、ここでは仕事旅行で人気の「ブックセレクターになる旅」を挙げよう。この職業体験に紐づく(それに参加することで高まる)能力要素は「想像力」とする。先に触れたように、選書の仕事においては「課題発見力」「計画力」なども重要なスキルではあるが、もっともフォーカスしたいスキルを抽出することが必要だ。ブックセレクターは知識だけでなく想像力を働かせることで選書を行っている。

12の能力要素に関しては、仕事旅行の各プログラムに合わせたオリジナルを開発することも検討したいが、本稿では経産省のそれに準拠しつつ論を進める。

仕事旅行参加者は、職業体験前に「仕事基礎力診断」をオンライン上で受ける。仕事基礎力診断は、社会人基礎力の12の要素が各10点満点で評価される仕組みだ。それを元にみずからに足りない仕事力、あるいはさらに伸ばしたい仕事力を得られる体験を選んで参加する。

現状、仕事旅行の潜在参加者の多くは、「職業体験に興味はあるが、どの旅を選べばいいのかわからない」「どんなモチベーションで参加すればいいかわからない」といった不満も抱えている。「仕事基礎力診断」によって参加者に足りないものを明確にすることで、こういったストレスを解消することもできるだろう。

すでに得意な能力分野をさらに伸ばす、あるいは興味関心が自然と湧く体験を選ぶのも悪くはないが(楽しみ、趣味としての参加の場合、むしろそれが望ましいが)、仕事旅行を1日の越境的体験を行うことで、社会人基礎力を全体的に高めるバランス重視型の学習プログラムと規定した場合、現業とできるだけ異なる領域、あるいは苦手な領域の仕事体験を選ぶことが望ましい。

コルブの『経験学習モデル』の第一段階である職業体験中(具体的経験)は特に社会人基礎力を意識することなく、向き合った仕事に集中したい。むしろこれまで体験したことがない珍しい環境の中で、やったことがない作業を楽しもう。いつもとは違う"カラダや脳の筋肉"を動かしている感覚も得られるだろう。体験終了後には、各参加者のマイページにセットされた「振り返りノート」に、体験で感じたことをありのままに記す(省察的内省)。

体験したこと、日頃の職場での仕事とどんな違いがあったか? 受け入れ先の言葉で記憶に残ったことなど、断片的な感想や日記のようなもので構わない。体験先で撮影した写真をマイページにアップロードするのもいいだろう。ビジュアルは記憶をリアルに呼び起こすトリガーとなる。

重要なのは次のプロセスだ。上記を受けて、体験先で得た刺激を現業や自分の人生に何らかのために活かすには、何が必要かを考え結論をワード化する(抽象的概念化)。比喩として言うなら、この結論ワードはみずからの仕事の指針となる「格言」、あるいは「キャッチフレーズ」のようなものである。体験から教訓を導き出す作業とも言えるだろう。

経験学習モデルで大切なのは、PDCAと同様にサイクルを回すことである。一回だけの体験では、刺激こそあっても何かが身についた実感まで得ることは難しい。選んだ体験との相性の良し悪しもある。そこで1度目の体験から2週間から1ヶ月のタイミングで、2度目の職業体験に出かけることが推奨される。1度目とは別ジャンルの社会人基礎力が必要とされる職場を選んでもいいが、できれば近接領域の体験を選びたい。

例えば、一度目に「考え抜く力」ジャンルの"想像力向上"をテーマとする体験を選んだのなら、2回目は同じ「考え抜く力」ジャンルから、"計画力"が得られる体験を探してみよう。

ここでは例として「野鳥プレゼンターになる旅」を選ぶ。身の回りの野鳥観察をビジネスにしているホストは、どのようにその事業を発案し、計画したのだろう? そういった関心で参加してみよう。

体験後は一度目と同じ振り返り作業を行い、両者を比較することが極めて重要だ。本に対する豊富な知識を持ち、想像力を働かせることでそれらを結びつける仕事を行う"ブックセレクター"と、思いがけないビジネスアイデアを企画した"野鳥プレゼンター"の仕事には、どういった違いが存在するのか? あるいは共通項は何か? 自分ならどちらが向いていると感じたか? 

体験を重ねるたびに、気づきは立体的かつリアルなものになっていく。このプロセスが短期の学びを濃密にする。そこで得たものの中で、いまの仕事に活かせる要素はないだろうか? ワード化してみよう。

ワード化で終わってはいけない。振り返りノートに自分なりに考えて記入したコンセプトワード(仕事の教訓)が、どのように働き方や実生活を変えるか? 参加者みずからテストしてみる必要もある。そこで得られた気づきも振り返りノートに記入しよう。やってみて振り返り、異なる2つの体験を比較した上で、実際に試すことが重要だ。

しかし、この段階にいたっても、参加者の中には、まだ何かを得られたという実感が得られたと思えず、モヤモヤが解消されない人もいるだろう。ホップ・ステップのジャンプに相当するまとめを行う必要もある。仕事旅行は基本的に3回完結のプログラムとして参加することが望ましい。

3度目の体験先も「考え抜く力」のフィールドから、未体験の能力要素を選ぼう。この場合では「課題発見力」を掲げる職業体験に参加する。体験終了後には前回、前々回と同じく、振り返りシートに気づきや感想を記入し、自分なりの結論をワード化する。

学びのサービスとしての仕事旅行で、もっとも重要なのはこのワード化(概念化)の作業である。体験によって得た貴重な気づきの数々も、それを教訓化した"自分の言葉"としてとどめ、仕事や生活のシーンで活用できる状態にまでもっていき、試してみなければ価値がない。それこそが生きた知恵となる。それがなければせっかくの職業体験も、珍しいツアーに参加して「楽しかった」「刺激が得られた」の感想レベルに終わってしまう。

だが、体験から教訓を抽出し、次に活かすプロセスを独力で行うことには困難も伴う。仕事旅行のマイページに設けられた一連の記入シートは、参加者の学習の手引きとなるものではあるが、一人で記入しているだけではみずから導き出した結論の妥当性を判断しにくい。第3者のフィードバックが必要だ。

そこで仕事旅行では、様々な職業体験に参加した学習者がそれぞれの旅の気づきをシェアする少人数制の共有会を随時開催する(企業研修のケースでは、定着のワークショップを開催)。両者とも専任のファシリテーターの元、参加者同士が意見交換することで、気づきを定着させ仕事に活かす。一連のプロセスの中でも最重要な仕上げの作業である。

3回の短期職業体験を行うことで、学習者は自身に足りない社会人基礎力のフィールドのうち、「考え抜く力」の能力要素にバランスよく触れることができる(想像力・計画力・課題発見力)。繰り返しによって学びのサイクルを回す感覚も身につけることもできる。1基礎力×3サイクルで効果は最大化できる。

結びにー働くことで"自己表現"をー


本論においては学びのサービスとしての仕事旅行を、おとなの学びが必要とされる社会的背景(1章)、「経験×越境」を併せ持つ仕事旅行の学びとしての特徴(2章)、類似サービスとの比較(3章)、社会人基礎力を高める効果的な学びの展開例(4章)の4つの観点から論じてきた。ここで述べた本サービスに特有の学習メソッドを「仕事旅行式」と命名したい。

繰り返しになるが、「仕事旅行式」は社会人基礎力をバランス良く身につける学びをサポートするメソッドだ。「バランスの取れた社会人基礎力」は言い換えるなら、時代の変化への対応力である。かつての終身雇用時代のように、社会が安定的に成長している時代であれば、多くの人はひとつの専門領域を生涯掘り下げていくことで、"自己実現"することができた。だが、そういったアプローチでの働き方が限界を迎えつつあることは、多くの人が気付き始めていることでもある。

見たことない仕事を短期体験する仕事旅行での学びを通じて、みずからの基礎力の足りない部分に気付き、高めていく。さらには「経験×越境」の学習サイクルを回すことで未知のジャンルの"学び方を学ぶ"。これは例えるなら、パレットの絵の具のカラーバリエーションが増えていくようなものだ。そのことで人はより鮮やかな人生像を描くことができる。それは仕事を通じて"自己表現"する力を身につけることでもある。

執筆:河尻亨一(東北芸術工科大学客員教授)

仕事旅行ニュウス: 2018年12月14日更新

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