2018年12月12日更新

学びのサービス「仕事旅行式」を開発するー経験×越境の短期学習における効果と実践(前編)ー

1章:おとなの学び直しの時代に


「21世紀に重要視される唯一のスキルは、新しいものを学ぶスキルである。それ以外はすべて時間と共にすたれてゆく」(ピーター・ドラッカー)

「おとなの学び直し」という言葉をよく耳にするようになった。いまのように変化のスピードが激しい時代には、学校や職場で時間をかけて身につけたスキルもすぐ使い物にならなくなる。「AIで消える職業・なくなる仕事」といった内容の記事や番組が、世間にうんざりされながらも相変わらず量産されているのは、先の見えない社会に対する不安の表れなのかもしれない。

「仕事がなくなる」が声高に叫ばれる一方で、どういうわけか各所で人手不足が言われ、海外から労働力を迎え入れる体制づくりも進んでいるようだ。実際、人びとはどんどん長く、働き続けなければならなくなっている。

定年年齢は世界的に上昇、年金支給年齢も徐々に上がり、生涯何らかの形で仕事を続けることが当たり前の世の中になってきた。「人生100年時代」というキャッチフレーズを意地悪く読むと、これは「死ぬまで働きなさい」という意味にも取れる。

仕事がなくなる。だが、人手もなくなる。働き方をめぐる、ある種、矛盾とも言える社会状況が生じており、こういった時代を「VUCAの時代(「不確実・不安定・複雑・曖昧さ」の頭文字)」と呼び表すこともあるようだ。

経済産業省と中小企業庁が連名で発表した報告書「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(平成30年3月)」の冒頭には、以下のような記載がある。

「AI×データ」に牽引される第四次産業革命や人口動態の変化等を背景として、企業の事業環境が激変している。付加価値の源泉が、「資本」から「人材」へと移行する中、特に中小企業等を中心に、我が国産業界は構造的な「人手不足」に直面しており、今後も、この傾向が継続する可能性が高い。

また、グローバル化の進展により、事業環境の変化や人材の獲得競争が加速・拡大する可能性があるとともに、人材に求められる能力要件も大幅に変化してくることが予想される。我が国で、企業が今後も持続的に成長していく上では、これまで以上に、付加価値創出の担い手となる「人材」を確保し、活用していくことが生命線となる。
 

ここで言う「付加価値創出の担い手となる『人材』」が具体的にどのような働き手を指しているのかはわからないが、これまでのキャリアに対する常識が崩壊しつつあり、新しい状況に対応できる人材が求められているということに異論の余地はなさそうだ。

せっかく長く働くのなら、少しでも「楽しく、賢く、自分らしく」仕事を続けたいものだ。個人として、企業としてできることは何なのか?

そのために重要なのが「おとなの学び直し」である。

一度学んだことを着々と実行するだけでは時代の変化についていけないため、いくつになっても「新しいことを学び続ける方法」を学ぶ必要がある。つまり、"学び方を学ぶ"必要がある。学ぶことをやめた社会人は今後、人材としての価値を低く見られかねない。もちろん、「働く」ことそのものが「学び」ではあるが、日々の業務の中でそれを自覚することは難しい。

いまのような時代が来ることは、世界的に著名な研究者や作家によって20世紀から予言されていた。『第三の波』などのベストセラーで知られるアルビン・トフラーによる次の発言は、現代と少し先の未来を言い当てている。

「21世紀の非識字とは、読み書きができない人びとではなく、学んだことを忘れて新しく学び直すことができない人びとのことだ」(アルビン・トフラー)

学ぶことで仕事や生活は豊かになる。だが、学び方は様々。多様な学習メソッドが、世の中には存在する。「仕事旅行」もそのひとつではあるが、現状としてそういった認知が十分にされていない(学びなのか遊びなのかクリアではない)という課題がある。サービスの改善点も多い。

仕事旅行で果たして何が学べるのだろう? どのように参加すれば学びの価値を最大化できるのか? そういったメソッド化の試みはこれまでなされていない。

本稿はそういった課題もふまえながら、「学びのサービス」としての仕事旅行を、ほかの学習サービスと比較しながら、その効果的な活用法を考えた上で、学びのメソッド(仕事旅行式)を確立するための試論である。

2章:経験学習・越境学習としての仕事旅行


「旅」の目的地はたったひとつ。自分自身の中へ行くこと(リルケ/オーストリアの詩人)

未知の世界を旅しようとしない人に、人生はごくわずかな景色しか見せてくれないんだよ。(シドニー・ポワチエ/米国の俳優)


職業体験サービスとしての仕事旅行が学習プログラムとして特徴的なのは、まずこれが「体験型学習(経験学習)」である点が挙げられる。仕事旅行は、読書や座学で知識を覚えるのではなく、その仕事場の空気に身を置いてみずから「やってみる」ことにより、からだで気づきを得られるところに重きをおくサービスである。

子供の頃、補助輪を外した自転車に乗れるようになった、あのときの感触を思い出してほしい。どれだけ巧みに言葉で説明されても乗り方はわからなかったはずだ。乗れるようになるまでは。世の中にはこのようにして"体得する"タイプのスキルもあり、そのカバー範囲は広い。知識だけで解決できる課題は意外と少ないものである。

経験学習の有用性については、これまで多くの研究がなされており、効果的な学習メソッドも開発されている。もっとも著名なモデルとして挙げられるのが、「コルブの経験学習モデル」だ。

『人事労務用語辞典』では、この学習モデルは以下のように解説されている。

「人は実際の経験を通し、それを省察することでより深く学べるという考え方を、人材育成の領域では『経験学習』と呼びます。組織行動学者のデービッド・コルブはこうした学びを、体系化・汎用化された知識を受動的に習い覚える知識付与型の学習やトレーニングと区別し、『具体的経験→省察的内省→抽象的概念化→能動的実験』という4段階の学習サイクルから成る『経験学習モデル』理論として提唱しています」(『人事労務用語辞典』)


「①具体的経験→②省察的内省→③抽象的概念化→④能動的実験」と言うといくぶん抽象的だが、日常レベルの言葉に換えると「①まずやってみて」「②振り返り(気づきを得て)」「③応用可能な言葉にしてみて」「④また試す」といったことになるだろう。この①~④のサイクルを繰り返すことで人は学び、成長する。

仕事旅行は現状、1日の職業体験の中で主に①~②のプロセスを提供している。学習者はこれまでに見たこともないような仕事場で刺激的な体験をし、そのことで未知の自分(可能性)と出会う。そこで感じた事柄を「振り返りシート」に記入することで、気づきを認識(内省)する。

一方で③の「コンセプト化」と④の「再実験」の作業は、現状では体験者自身に委ねられている点を指摘しておきたい。体験者のモチベーションが高く、職業体験で得た気づきを現在の仕事や生活にみずから活かしていく力がある場合には、経験学習のサイクルは回転するが、そうでない場合には「(見たことない職場で刺激的な体験ができて)楽しかった」という感想に終わりかねない。

「楽しかった」という体験にはそれ自体に大きな価値があるため、必ずしも学びとして無意味ではないのだが、それではせっかくの体験を「具体的に何かに活かす」ところまでは到達しにくい。それは同サービスの今後の課題でもある。

もうひとつの課題は、1回完結型では学びのサイクルが持続しない点である。経験学習で重要なのは、PDCAサイクルと同様に4段階のサイクルを繰り返すことで持続的な成長をうながすことにあるが、1回の体験では1周回って終了ということになる。のちに検証するように少なくとも3回の体験を通して、参加者に「学習サイクルを回す感覚」そのものを学習してもらうことが重要だ。それは「学び方を学ぶ」ことにもつながってくる。

それらの課題については次章で詳述することとして、ひとまず話を進めよう。

「経験学習としての仕事旅行」についてここまで解説してきた。仕事旅行には経験学習以外の側面もある。学習プログラムとしての仕事旅行のもうひとつのユニークさは、これが「越境(的)学習」であることである。近年、注目を集める「越境(的)学習」だが、日本最大のHRネットワークを謳う「日本の人事部」では次のように説明している。

「『越境学習』とは、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を自発的に“越境”し、自らの職場以外に学びの場を求めることを意味します。企業内研修とも、自宅での個人学習とも異なる“サードプレイス”での学びと知的交流を重視することが越境学習の特徴で、働きながら社会人大学や民間のビジネススクールに通ったり、社外の勉強会やワークショップに参加したり、具体的な選択肢は多岐にわたります。 組織の外に出て学ぶことは、異質な他者や知見による触発を促し、その経験が結果として、本人のキャリア開発や組織のイノベーションにまでつながると期待されています」(「日本の人事部」より)


重要なのは太字部分だ。多くの場合、職場というものは閉鎖的な環境でビジネスを行うため、外からの風が入りにくい。組織を構成する個人にとっても、他ジャンルのナレッジにふれる機会が少なく、そのことで幅広い知見を得て個人が成長する機会が損なわれやすい。

先に述べた「経験学習」のノウハウは、OJTなど社内の研修でも取り入れられるようになっているが、これだけ変化の激しいビジネス環境においては、経験的知見でさえもすぐ時代遅れになりかねない。

急激な時代の変化についていくためには、組織としても、個人としても広く外部から刺激を受け、そこで得られた知見を活用できるようにしていく必要がある。組織における「ナレッジ・ブローカー(知識の仲介者)育成」の重要性が言われているが、これはわかりやすく言うと、「可愛い子には旅させよ」式の取り組みが必要であるということだ。

普通なら足を踏みれることのない職場を訪問し、そこで働く人々から仕事の手ほどきを受けたり、生の言葉にふれることができる仕事旅行は、その意味で「越境(的)学習」プログラムでもある。

ただし、これは1日完結型の"ライトな越境"であることにも留意しておこう。「越境(的)学習」において学びの場となる実践共同体は、仕事旅行の場合、体験の受け入れ先となるホストを指す。150以上ものホストが登録する同サービスでは、実践共同体も多様性に富むものとなる。

本章では、仕事旅行が「経験×越境」の掛け合わせによる学習プログラムであることを考察してきた。では、このプログラムを用いて得られる効果とは何か? 効果的に実践するための方法とは? 次章では「社会人基礎力」をキーワードに、より具体的に解説したい。

(後編は以下から)
https://www.shigoto-ryokou.com/article/detail/426

執筆:河尻亨一(東北芸術工科大学客員教授)



仕事旅行ニュウス: 2018年12月12日更新

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