2018年08月29日更新

「成果を出せる仕事」と「ワクワクする仕事」は違う。at Will Work藤本あゆみさんが語る、カオスラバー型キャリア選択のススメ

現代は「VUCAの時代」と言われるような、不安定な時代です。

「VUCA」とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字を取った言葉。

この言葉にあらわされるように、現代人のキャリアを取り巻く環境はかつてないほど不安定なものとなっています。こうした環境の中で、わたしたちはどのように自分らしいキャリアを選択していけばよいのでしょうか。

今回は仕事旅行社の代表・田中翼が、“働き方を選択できる社会づくり”の実現を目指す一般社団法人at Will Workを立ち上げた藤本あゆみさんに、不確実性が増す現代の「キャリアの選び方」について話を聞きました。

インタビューの中で出てきたのは、以外にも“混乱”というキーワード。いったいどういうこと? 2人のトークを聞いてみましょう。

「1億2000万人の図鑑」を作りたい


田中翼(以下 田中):藤本さんはat will workで、「働き方を考えるカンファレンス」の開催や、“働くストーリー”を集めるアワードプログラム「Work Story Award」の実施を通して、“働き方の選択肢を増やす”ことを目指しているそうですね。実は仕事旅行も、“働き方の選択肢を増やす”ことは意識しているので、すごく共感しているんです。

藤本あゆみさん(以下 藤本):ありがとうございます。もともとわたし、at Will Workを始めるときに、「1億2000万人の図鑑をつくりたい」って言ってたんですよ。

田中:「1億2000万人の図鑑」っていうのは? 

藤本:たとえば自分の半径5メートルには、キャリアの参考になるロールモデルがいなかったとしても、日本には1億2000万人もいるんだから、日本中どこかにはいるはずですよね。だから、「1億2000万人の働き方や考え方が集まる図鑑」があったら、だれもがキャリアの選択をしやすくなるんじゃないかって思って。

田中:ああ、わかるなぁ、それ。

藤本:でも、1億2000万人を一人一人取材するのは無理ですよね。だからどうやって図鑑をつくろうかなと思って、思いついたのがカンファレンスでした。カンファレンスなら、1億2000万人は無理だけど、800人参加したら800人分の図鑑ができるので、面白そうだなと思って。

田中:なるほど、それでさまざまな働き方を実践する方が集まる大規模なカンファレンスをやっているんだ。藤本さんは前職がGoogleだということですけど、やってることがその頃と結構違いますよね。

藤本:いや、実はGoogleと同じことをやっている感覚なんですよ、わたし。

田中:へー! それは意外です。

藤本:Googleのミッションって、「organize the world's information and make it universally accessible and useful.(世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること)」なんですね。わたしはGoogleで勤めた期間が長かったので、もうすっかりその考え方が染み付いてしまって(笑)。

田中:たしかに、そう言われてみればいまやっていることも、「働き方の情報を集めて、整理して提供して…」ってことですもんね。

藤本:そうなんですよ。「実はやってることは一緒だった」って、あとで気づいたんです(笑)。

「混乱の中に、ちょっと光が見出せている」くらいがちょうどいい


田中:やっぱりカンファレンスに参加した方は、働き方の選択肢を見つけてスッキリして帰る方が多いですか?

藤本:いや、スッキリではなくて、混乱した顔になる方は多いですよ。

田中:え、スッキリではなくて?

藤本:そう。わたしとしても、混乱した顔で帰ってもらえるように場づくりをしているんです。「今日は刺激を受け過ぎて、ちょっと頭がクラクラする」っていう感じの表情で帰ってもらいたいので。

田中:おもしろいなぁ。スッキリして帰りたいって方、多くないですか? 「キャリアに悩んでるから、答えが欲しい」っていう方。

藤本:たしかに、皆さん答えを求めていますね。なのでカンファレンスの冒頭でわたしがしゃべるときに、「今日は答えはないですから」って言うんです(笑)。

田中:会場は「え?」みたいな感じになると思うんですけど(笑)。



藤本:ザワッとしますよね(笑)。「答えを探しにいらっしゃった方には、本当に申し訳ないんですけど、ここには答えは何もないです。」って主催者が言うんですから。

田中:キャリアに悩んでいる方からしたらかなり意外な気がします。

藤本:でも、そうお伝えするのにはワケがあって。わたしは、キャリアの選択をするうえで、「混乱しているけど、その中にちょっと光が見いだせている状態」が理想だと思っているんですよね。

田中:混乱の中にちょっと光が見出せている状態。

藤本:はい。なんでかというと、混乱すると「考えなきゃいけないモード」になるんです。自分にとってなにが楽しいのか、逆になにが違和感を感じるのかとか。そういったことの中に、それまで気づいていなかったキャリアの選択肢のヒントがあると思うので。

逆に、何となく理解したつもりで、その場ではスッキリして帰るんだけど、あとで振り返ったら「あれ、何だったけな?」って、あまり記憶に残っていないことってありますよね。

田中:あー、ありますね。

藤本:だったら、スッキリするよりも、もんもんと考えるきっかけをつくれるといいなって。

田中:実は仕事旅行を体験した人も、スッキリはしない人もいるんですよ。だって、思い描いていた理想の仕事を体験してみたら「現実こんなんだよ」と突き付けられて、「何じゃこりゃ」ってなることってあるわけですから。

藤本:そうですよね。

田中:だけど、ちょっと困っちゃう反面、ワクワクしちゃう自分もいる…みたいな状態になって欲しいんですよね。それはまさに、藤本さんがおっしゃった「混乱の中に、ちょっと光が見出せている状態」で、そこにキャリアを選ぶヒントがあるはずなんです。

藤本:「うわー、その価値観はなかったな!」とか、「なるほど、それは自分の選択肢になかったわ!」って混乱しているときって、その混乱を超えた先に、それまでの自分にはなかった選択肢が開けて、光が見出せるんですよね。



「成果を出せる仕事」と「ワクワクする仕事」


田中:藤本さん自身も、「混乱のなかにちょっと光を見出した」経験があるんですか?

藤本:そうですね。わたしのキャリアは混乱だらけですよ、本当に。9年間勤めたGoogleを辞めようか迷っていたときって、実は仕事がすごい楽しくて、客観的に見たら辞める理由はなかったんです。でも、何か新しいことをしたいっていう、モヤモヤ感があって。

その時期に、キャリアアドバイザーの方や知り合いに相談したんですけど、「広告事業やってました」「マネージャーもやってました」「そんなに流暢じゃないけど、英語もしゃべれます」って言うと、オススメされる仕事って、だいたいどこかの外資系の広告事業部の仕事なんですね。

田中:そうなりますよね。



藤本:そういう仕事をしたら、たぶんわたしは成果を出せますよ。でもね、まったくワクワクしないんです。成果が出せるのと私が楽しいかどうかは、まったく別の話で。ワクワクしないのは、やっぱり、混乱しないからなんですよね。

田中:なるほど、そこで今日のキーワードの「混乱」が出てくるんだ。

藤本:そうなんです。外資系の広告の仕事は、もう自分の中で「あれとこれをこうして、あの人を動かせば成果がでるよね」っていう方程式が見えてました。けど、わたしがワクワクするのは方程式が見えている仕事じゃないという気がして。

そんなふうに悩んでいたときに、「お金のデザイン」っていう会社にいたGoogle時代の同僚に「ちょっと遊びにおいでよ」って言われて、遊びに行ったんです。実はGoogleの営業人生の中で、ありとあらゆる業界をやったのに、金融だけやってなかったんですよ。

田中:ちょっと混乱の兆しがありますね(笑)。

藤本:そうなんです。案の定、話を聞いていても、今まで聞いたこともない単語がたくさん出てきて。みんな普通に、「ボラティリティが」とかいうけど、わたしは「え? ボラティリティって?」みたいな感じで(笑)。

田中:僕も前職が金融業界なんですけど、専門用語むずかしいですよね(笑)。

藤本:でも、それがいいなって思ったんですよね。だって、「金融とか難しくて、無理なんです」っていう人が使ってくれるサービスをつくるのは、たぶんその人たちと同じ目線に立てるわたしだからこそできるわけですから。

田中:あぁ、そこにワクワクしたんですね。混乱の中に光を見つけたというか。

藤本:そうです。混乱はめっちゃしてるんですけど、「ちょっと何か面白そう!」って、光を見つけた気がしたんですよね。だから「お金のデザイン」にPRマネージャーとしてジョインすることに決めました。

田中:金融業界で、しかもPRという未経験の領域に飛び込んで、さらにその時期に一般社団法人at Will Workも立ち上げて。現在は「お金のデザイン」から世界中でスタートアップ支援を行なうPlug and Play Japan株式会社に転職して、また新しい領域での挑戦をされていますね。なんだか藤本さん、混乱した状況を好む「カオスラバー」的なところがあるような気がします。

藤本:まさに、カオスなほうがいいですね。だから、会社の立ち上げ期に関わるのがすっごい好きなんですよ。「どうしよう、もう全然無理なんだけど」みたいな状況に投入されると、すごい頑張れるんです。

田中:そういうカオスラバー的な要素は、キャリアを選択するうえで大切なのかもしれないですね。混乱する領域にこそ、それまで自分でも気づいていなかった選択肢があるわけだから、混乱を怖れすぎない方がいいんだろうな。

藤本:ただ、混乱が「恐怖」にまでいってしまうとダメだと思います。混乱が強くなりすぎると「恐怖」になってしまって、縮こまって何もできなくなっちゃう。だから、「混乱の中にちょっと光が見出せている」くらいがちょうどいいんです。


「なにもやらない時間」をつくると、判断できる


田中:とはいえ、多くの方にとって混乱って怖いと思うんですよ。

藤本:わかります。だから変化が怖いっていう人には、「ちっちゃい変化を楽しむ癖をつけたらどう?」ってアドバイスしています。

田中:ちっちゃい変化というのは?

藤本:例えば、いつも降りる駅の1個先の駅まで行ってみる。手前で降りて歩くことはあっても、先に行くことって、あんまりないですよね。そうすると、「こんなお店あったんだ」とか「思ったより遠いな」とか、いつもと違う発見がありますよね。それが楽しめるのか楽しめないかっていうのも、キャリアを選ぶうえでの一つのヒントなんです。



田中:あぁ、なるほど。ちっちゃい変化をつけてみて、自分が楽しいと思えることを仮説検証していくんですね。

藤本:そうそう。しかも、ちっちゃい変化なら何のリスクもないじゃないですか。

田中:たしかに、仕事旅行に参加したり、at Will Workのカンファレンスに行くのだとハードルが高い人は、まずちっちゃな変化をつけてみるといいかもしれないですね。

藤本:あともうひとつオススメしているのは、なにもしないこと。

田中:むずかしいんですよねぇ、それ(笑)。

藤本:そうなんです。むずかしいので、あえてやるんですよ(笑)。やっぱりどうしても、キャリアについて悩んでいるときって、情報を詰め込みがちでしょう。でも詰め込むと、やりたいことが増え過ぎて、結果なにもできなくなるので。

田中:めっちゃわかります。僕もしょっちゅう詰め込みすぎます(笑)。

藤本:(笑)。だから、なにもしないことが大事なんですよね。たとえば1日何もしないのは耐えがたいという方は、カフェに行ってなにもしない時間をつくるのをオススメしています。本も読まない。考え事もしない。ずーっと音楽を聴いているか、もうずーっと人の観察をしてるだけで、何もしないんです。

田中:なるほど。なにもしない時間をとると、結構変わりますか?

藤本:変わりますね。そういう時間を30分でもつくると、すごいスッキリして、「あっ、あれやろう!」とか、「やろうか迷ってたことがあったけど、まぁやらなくていいか」みたいなふうに、いろんな判断がサササって片付くんですね。

田中:なるほど。今度「なにもしない時間」つくってみようかな。

“働くをひも解く”


田中:at Will Workの話に戻りますけど、またカンファレンスは開催するんですよね?

藤本:はい、来年の2月20日にカンファレンスを開催する予定です。テーマはもう決まっていて、“働くをひもとく”っていうことです。

田中:おお、また面白そうなテーマ!

藤本:何となくみんなが当たり前だと思っている、歴史や価値観って、本当はいつどのように生まれたの? っていうことをひも解きたいんですよね。そうすると、「えーっ、そうなんだ!」っていう発見があって楽しそうだなと思って。

田中:週休2日とか、別に当たり前じゃないですもんね。

藤本:そうなんですよ。たとえば松下幸之助が週休2日を唱えていたらしいんですけど、当時は「1日学んで、1日休もう」という意図で言っていたらしいんです。つまり週「休」2日じゃなかったそうなんです。

田中:へぇー! それは知らなかったな。

藤本:だけど、今では週休2日っていうと、月曜から金曜まで忙しく働いて、家族サービスを土日やって……っていうふうなイメージがあって。それがもしCMだったりとか、ドラマだったりとか、テレビの影響でそうなってるんだとしたら、いつからどんなふうに週休2日イメージがかたちづくられてきたのか、ひも解いたら楽しそうだよねと。

田中:おもしろそうですね!

藤本:あと、家族の描き方がどう変わってきているのかをテレビ局の人から聞くとか、オフィスビルがどんな変化を遂げてきたのかを不動産会社の方に聞くとか。いろいろな角度から“働くをひも解く”カンファレンスを今、準備をしています。

田中:働き方に関するイベントはたくさんありますけど、そうした切り口のものは他にないので、すごく興味があります。それまで当たり前だと思っていた自分の価値観が、当たり前じゃなかったんだと気づく機会になりそうですね。今からすごく楽しみです。

藤本:ありがとうございます! まだ先ですが、ぜひ参加してみてください。 

聞き手:田中翼
記事:山中康司(働きかた編集者)

Profile


藤本あゆみ(ふじもと・あゆみ)
1979年生まれ。東京都出身。大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職を経て、入社3年目に、当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPR マネージャーとしての仕事を経て、2018年3月予定Plug and Play株式会社でマーケティング/コミュニケーションのディレクターとしてのキャリアをスタート。

Interviewer

田中翼(たなか・つばさ)
1979年生まれ。神奈川県出身。米国のミズーリ州立大学を卒業後、国際基督教大学(ICU)へ編入。卒業後、資産運用会社に勤務。在職中に趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返すうちに、その魅力の虜となる。気付きや刺激を多く得られる職場訪問を他人にも勧めたいと考え、2011年に「見知らぬ仕事、見にいこう」をテーマに仕事旅行社を設立し、代表取締役に就任する。100か所近くの仕事体験から得た「仕事観」や「仕事の魅力」について、大学や企業などで講演も手掛けている。
ロングインタビュー: 2018年08月29日更新

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