2018年08月17日更新

“3つのS”で実現できる「半職人半X」。伝統技術ディレクター・立川裕大さんがみた、秋田の豊かさとは?

この記事を開いたあなたは、イキイキと働けていますか?


「働いているよ」と答えることができる方は、この記事を閉じてしまってもいいでしょう。でも、「そんなことないな」と少しでも思ったら、イキイキと働くためのヒントが、「秋田の職人の働き方」にあるかもしれません。

今回インタビューしたのは、日本各地の職人の技術や伝統の素材を生かし、建築家やデザイナーとのコラボレーションにより現代的な家具や照明、アートオブジェなどを生み出す、ものづくりプロジェクト「ubushina」を手がける伝統技術ディレクター・立川裕大さん。

立川さんは、秋田で伝統工芸をつくる職人たちのもとを訪ねる中で、美しい伝統工芸が生まれる背景にある、独特な働き方に気づいたと言います。いったいその働き方とは? 

地方でこそ、大地・心・社会とつながれる


--立川さんは伝統技術ディレクターとして、日本各地に足を運んでいますね。地方に注目するのは、どういった理由からなのでしょう?

立川裕大さん(以下 立川):日本はもう、成長国家ではなくて成熟国家だという考えが背景にあります。国の経済が成長過程にある時期は、放っておいても経済は成長し、毎年給料は上がることができた。そういう成長国家は、ヒト・モノ・カネが都市に集まるんですね。実際に、現在でも途上国の多くの国々では地方から都市部に人が集まっています。


ところが日本はというと、もう成長国家ではないんです。GDPが年間5%伸びることはあり得ないでしょう。人口も減っていきますしね。つまり成長国家ではなく、成熟国家になっていっている。すると、今度は都市ではなくて地方に目が向いていくんです。

他国に目を向けてみると、フランスやイタリアは、成熟国家のトップランナーです。もうとっくに、田舎の方が豊かだという価値観になっている。「都市の人たちはあんなごちゃごちゃした所で暮らして、人間らしい生活も諦めちゃって、そこまでしてお金が欲しいのかね?」ぐらいの事を言うんですよ、イタリアの方って。どこのワインが好きか聞くと、必ず自分の土地のワインが好きって言うしね。みなさん、それぞれの地域に根付いてる特徴を、すごく誇りに思ってるんです。

--日本も成熟国家になるなかで、フランスやイタリアのように地方に目が向けられるようになってきているんでしょうか。

立川:そう思いますね。テレビでも『秘密のケンミンSHOW』って、県民性を紹介する番組がずいぶん長いこと放送されていますし。僕は長崎出身で、1988年に社会人になったんですが、その頃は仲間と飲みに行っても自分の方言を隠そうしてました。でも、今は立場が逆転しちゃってるじゃないですか。みんなが方言の話をする中で、「東京出身だから、方言ないんですよ」って人の方がうしろめたい思いをする、みたいなふうにね。

--そういう経験は、確かにあります。でも、なぜ成熟社会になると地方が注目されるのでしょう?

立川:豊かさの定義が物質的なものから変わってきたからじゃないかな。僕が「いいなぁ」と思った考え方で、サティシュ・クマールというインド出身の思想家が唱えた「3つのS」というものがあるんです。3つのSとは「ソイル(大地)、ソウル(心)、ソサエティ(社会)」のこと。この3つのバランスが取れていると、幸せな状態でいられるんじゃないかという考え方です。

--もう少し詳しく教えてください。

立川:ソイルというのは大地のこと。自然と言い換えてもいいと思うんですが、そうした自然とのつながりを考えて生きるということです。それから、ソウルは心。感謝や愛情を感じながら、平穏な気持ちで生きるということ。そしてソサエティは社会。地域社会と言ってもいいかもしれませんが、自分の周りにいる人や社会とつながりながら生きるということ。これらのバランスを取ることが豊かさじゃないか、とサティシュ・クマールは言っているんです。

--なるほど。その豊かさを得るのは東京だとむずかしそうですね。

立川:むずかしいですよね。自然とつながろうにもコンクリートの地面のせいでヒートアイランドに苦しめられて、忙しくて精神的にも余裕がないし、地域コミュニティも希薄になっています。だけど地方では、「ソイル(大地)、ソウル(魂)、ソサエティ(社会)」とのつながりを感じながら生きやすいんです。だから、成熟社会での豊かさは地方のほうが得やすいのだと思います。

大地のギフトからつくられた、秋田の伝統工芸品


--立川さんは先日、秋田で伝統工芸の職人さんのもとを訪ねてまわったそうですね。そこでもやはり「3つのS」とつながっている豊かさは感じましたか?

立川:感じましたね。特にソイル(大地)とも関わりますが、秋田の伝統工芸の大きな特徴は、その土地に根付いた素材から作られていること。僕はそうした素材を「ギフト」という呼び方をしているんですが、秋田には「ギフト」を尊重した伝統工芸が多いんです。

たとえば、「大館曲げわっぱ」の製造・販売を行う株式会社りょうび庵という事業所を訪ねたのですが、「曲げわっぱ」を製造できるのも秋田杉があったからこそ。また、200年以上前からつくられている「十文字和紙」は、今は佐々木清男さんがただ一人で、地元の楮(こうぞ)にこだわって紙漉きをしています。

株式会社りょうび庵の「大館曲げわっぱ」。平成29年に設立されたりょうび庵では、デザイン、形状など既存の概念にとらわれない製品を開発している。

長い時間を経ても丈夫で、経過年数により味わいが深まる十文字和紙。現在十文字和紙の紙漉きを行っているのは、佐々木清男さんただ一人。

50年にわたって「あけびのかご」を作り続けている、全国唯一のあけびづる職人・中川原信一さんは、奥羽山脈の豊かな自然にはぐくまれたあけびづるを採取し、材料の一本一本と対話をしながら「あけびのかご」を作っているそうです。そして、日本古来の伝統美を持ち、現在は「由利本荘市御殿まりを愛する会」というサークルのみなさんの手で伝統が守られている 「ごてんまり」も、秋田の風習、慣習と紐づいているものに他なりません。

あけびづる細工の第一人者、中川原信一さんがつくる「あけびのかご」。有名百貨店でも高価格で販売されており、入手は数年待ちといわれる人気ぶり。

一般的に「手まり」と呼ばれる「ごてんまり」は、秋田ではかつて多くの主婦が内職として製造していた工芸品。しかし、現在では製造に携わる作り手が十数名と激減したうえ、高齢化が進んでおり、継承が課題となっているそう。

これらの伝統工芸品は、秋田という土地が持つギフトからつくられている。だから、「あけびかごが手に入らないから、ほかのものでいいや」というふうに、替えがきくものではないんです。現在のように大量生産大量消費の商品が出回る中で、「替えがきかない」というのは貴重なことですよね。

“働かされてる”とは対極にある、自然体な働き方


立川:あとは秋田の職人さんとお話しするなかで、「働く」ことが「営み」になっているなぁというのは、すごく感じましたね。

--「営み」というのは?

立川:なんというのかな。すごく言い方が難しいんですが、自分にとってその行為が違和感なく、自然の一部になっているというか。成長社会の都市に住む方だと、お金のために働くのが当たり前だと思いがちじゃないですか。けど、大半は経済成長とか、会社の成長のために「働かされてる」から、違和感を持っちゃうんですよね。でも、秋田の職人さんは「働かされてる」感じはまったくない。とても自然体なんです。

たとえば、あけびづる細工職人の中川原信一さんって、すごく綺麗なんです、働いている姿が。「よく見せてやろう」とか「売れるものをつくろう」とか考えていなくて、ひたすらあけびづると向き合ってらっしゃるんだと思うんですね。だからこそ、出来上がる工芸品も綺麗になる。あけびのかごもそうですが、秋田の伝統工芸って、「買ってくれ」「見てくれ」とわれわれを誘うような、変な色気をまとってなくて、純粋な綺麗さがある。それは、職人の方が綺麗な気持ちでつくっているからだと思います。



--一般的に、「働くのは商品を売って稼ぐため」という感覚があると思いますが、秋田の職人さんたちにとって「働く」ということは、そうではないということでしょうか?

立川:「稼ぐ」というより、「つなげる」ために働いているんだと思いますね。「つなげる」というのは、後世に伝えるという意味が一つ。親父の代から引き継いだ技術を引き継ぐとかね。あとは、人と人をつなげるため、もう少しわかりやすくいうと、だれかに喜んでもらうためのコミュニケーションの方法として、働いているような気がします。

たとえば佐々木清男さんが漉く十文字和紙は、十文字町で幼稚園と中学校の卒園、卒業証書に使われています。だから佐々木さんは、「この卒業証書をなくしたくないから、辞められない」とおっしゃっています。あけびづる細工職人の中川原さんも、「あのお客さんは、10年も出来上がるのを待ってくれたんです」と、いつも買ってくれる人の話をします。そんなふうに、だれかに喜んでもらいたいという気持ちが秋田の職人さんたちの根底にはあるんでしょうね。

--先ほどの「3つのS」の話でいえば、まさに「ソウル(心)」と「ソサイエティ(社会)」とつながりながら働いているのだと言えそうですね。

秋田で実現できる、「半職人半X」という生き方


--そうした秋田の職人の生き方・働き方に興味を持った方が、秋田に移住して伝統工芸に関わる仕事をすることも可能なのでしょうか。なかなかハードルが高いのではと思ってしまいますが。

立川:いや、秋田の伝統工芸にも課題はたくさんあるので、移住者だからこそできることはありますよ。特に、秋田の職人さんはもっと稼ぐ必要があるとは思うんですよね。先ほどの話と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、稼ぐ事は決して悪い事ではない。稼ぐことによって後継者を雇うことができたり、得られる副産物はいっぱいあるんだから。そういう意味では、たとえば都市でPRの仕事をしてた方が、秋田に移住してPRのスキルを活かしながら伝統工芸に関わって、ビジネスとして成長させるとか、移住者だからできる仕事はたくさんあると思います。

--伝統工芸に関わる仕事と聞くと、四六時中製作のことを考えている職人のようなイメージがありますが、そうでもないと。

立川:今は職人でも、専業じゃない方もたくさんいますからね。「半職人半X」みたいな生き方は可能です。たとえば全国には、農作物を育てながら陶芸をつくる「半農半陶」という生き方をしている人もいます。秋田でも、遊休農地はたくさんありますから、農業をしつつ伝統工芸に関わることは可能なはず。それから、今であれば「半職人半カメラマン」とか、「半職人半デザイナー」みたいなキャリアもありえるでしょう。秋田はそうした生き方がしやすいと思いますよ。

--それはなぜでしょう?

立川:さきほど「ギフト」と言ったような、地域の資源がたくさんあるので、それを活用すれば、職業として成り立つ仕事をたくさんつくることができるからです。そして、生活コストが安い。秋田で月に20万円稼げたら、かなりいい生活ができますし、余った野菜はもらえるような地域コミュニティもありますからね。

さらに、人々が新しいチャレンジに対して寛容でもある。秋田にUターンしたある方が、「秋田は言霊の楽園だ」って言っていたそうです。「やりたいと思った事を口にすると、みんなが協力してくれて、実現するんだ」と。

--「言霊の楽園」というのはいい言葉ですね。「半職人半X」みたいに、なにか実現したい生き方がある方には、秋田はすごくいい土地なのかもしれません。

最後に


いかがだったでしょうか?

成熟社会の豊かさは、「大地・心・社会」とつながれること。そして、それらとつながる生き方・働き方が、秋田で伝統工芸に関わる仕事にはあるようです。

もしみなさんが、「イキイキと働けていないな」と思ったら、秋田の職人さんのもとを訪ねてみてはいかがでしょうか? その伝統工芸の美しさや、職人さんの働き方が、「働く」ことにとって大切ななにかを気づかせてくれるかも知れません。

<イベント情報>

今回ご紹介した秋田の職人さんと、実際に会って話すことができるイベントが9月1日に都内で開催されます。立川さんもゲストとして登壇予定。秋田の伝統工芸や働き方に興味がある方は、ぜひ足を運んでみてください!


日時:9.1SAT 14:00~17:00(受付開始13:45~)
場所:Patia新お茶の水店
東京都千代田区神田駿河台3-1-1大雅ビル6F

何百年も前から引き継がれてきた伝統工芸品、そして地域ならではの特産品を活かした仕事。秋田には、そんな「地域のタカラをつなぐ仕事」があります。

「地域のタカラ」の仕事に携わり、恵まれた自然や食に囲まれ、心が豊かになれる秋田で暮らす。そんな「くらし」と「しごと」についてセミナーとトークセッションを通じて考えるイベントです。

詳細はコチラ

<ゲスト・プロフィール>

立川裕大(たちかわ・ゆうだい)
株式会社t.c.k.w 代表取締役 伝統技術ディレクター / プランナー。1965年、長崎県生まれ。

日本各地の伝統的な素材や技術を有する職人と建築家やインテリアデザイナーの間を取りなし、空間に応じた家具・照明器具・アートオブジェなどをオートクチュールで製作するプロジェクト「ubushina」を実践し伝統技術の領域を拡張している。「東京スカイツリー」「八芳園」「CLASKA」「ザ・ペニンシュラ東京」「伊勢丹新宿店」など実績多数。

長年に渡って高岡の鋳物メーカー「能作」のブランディングディレクションなども手がけており、高岡鋳物・波佐見焼・長崎べっ甲細工・甲州印伝・因州和紙・福島刺子織などの産地との関わりも深い。

2016年、伝統工芸の世界で革新的な試みをする個人団体に贈られる三井ゴールデン匠賞を受賞。

自ら主宰する特定非営利活動法人地球職人では、東日本大震災復興支援プロジェクト「F+」を主導し、寄付付きブランドの仕組みを構築し3年に渡って約900万円を被災地に送り続けた。

<インタビュアー・プロフィール>

山中康司
働きかた編集者。ソーシャル領域のキャリアをテーマに、採用支援、編集・ライティング、イベント企画運営、ファシリテーション、カウンセリングなどを行う。国家資格キャリアコンサルタント。
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