2018年07月06日更新

仏教の発想に学ぶ転機の生かし方ー本当の変化は"手放す"ことから生まれてくる

みなさんの中にはいま、人生の転機に立っている人もいるかもしれません。自分の可能性がもっと開かれるような仕事を探すために求人情報に目を通している人もいるでしょう。
                           
私は2017年に特に新しい仕事の見込みがあるわけではない状況で仕事を辞めました。それからフリーランスとして生活していますが、関わっている人、住んでいるところ、読む本の種類、自分自身のアイデンティティに至るまで、環境も内面も多くの点で変化したように感じています。

私は九州のお寺に生まれました。子供の頃から26歳過ぎまで仏教なんてくだらないと考えていましたが、ここ1年ほどで仏教的な視点は面白いと思うようになってきました。仏教の考えは2500年の時を経て現代まで残ってきているもので、時代ごとに価値を感じてきてもらえたからこそ長く継続してきました。

人生やキャリアの話を考える時にも、とても有用な哲学を見出すことができます。資本主義社会一辺倒で動く世界に違和感を持つ人を中心に、仏教的な考え方から人生を豊かにするための視点を見出そうとしている人たちが増えてきている印象もあります。
                                      
この投稿では、仏教の考えを参照しつつ、人生という視点から「転機をいかに乗り越えていくのか」について書いてみたいと思います。
        
苦痛と期待が入り混じる人生の転機をよりよく乗り越えていく時の参考にしてみてください。
         

しっくりこない感覚にどう向き合うのか?


私は働いている時から「いつかは独立したい」と思い続けていました。

しかし現実はすぐにそうなってくはくれません。納得していないことをなんとかこなし、どこか「これでいいのだろうか」としっくりこない日々でした。

独立したいと思っているのにできないという時、私はいつも「まだスキルが足らないと思う」という言い訳にまみれ、新しい環境に出ることをいつも恐れていたのです。自由への道を恐れるがあまり、日々の安寧に飛び込み続けていました。      
                              
私が恐れていたのは、実力で生きるしかない世界に出て「無能だと評価されること」でした。

別にそんなに周りの人たちから無能だと言われてきたわけでもありません。ですが、頭には職場の人や知り合いたちが「批判してくるイメージ」が何度も浮かび上がっていたのです。何度もリフレインするたび、いやな気分になって思考が停止し、普段の日常から抜け出すことはできませんでした。
                   
人間は不思議なもので、頭の中に虚像を作り出して、自分で自分のことを批判してしまいます。「こう言われた」という記憶に苛まれることもありますが、虚像をありのまま感じることで自己抑制をし続けることもあるのではないかと思います。

思考・行動の癖から抜け出ないと転機は活かせない


私たちは入学・卒業・就職・結婚・死別・昇進など、死ぬまでに多くのライフイベントを体験します。またそのような大きなライフイベントだけではなく、毎日通勤して、仕事をして、家に帰って料理をするというような日常のさまざまなことも小さなライフイベントだと言えるでしょう。

ここでは比較的大きなライフイベントを想定して文章を進めていきます。
         
大きなライフイベントをへるたびに人が内面の変容を遂げていくことを、臨床心理学者であり組織コンサルタントであるウィリアム・ブリッジズは「トランジション(転機)」と名付けました。
                         
時にトランジションは苦痛を伴います。大きなトランジションを体験している時、私たちは多くの葛藤や思い通りにならない感覚を抱きます。

その時の葛藤は、たとえば過去の慣習をひきずってしまうことや、未来への不安から生み出されます。よって人生の転機において、これまで続けてきた思考の癖・行動の癖から逸脱することが重要になります。
     
前と同じような慣習を続けていくと、ライフイベントが「何かしらを転じる機会にならず、しっくり感を得ることができない」構造に入ってしまうのです。

転職してもどこか核心に迫ることがなく、たんに横スライドしていく状況を思い浮かべてください。「職場を変えたのに根本的に問題が解決した気がしない」というしっくりこない気持ちに、思い当たるところがある方もいらっしゃるかもしれません。
    
つまり転機を活かすためには、環境の変化とともにこれまでの構造にあてはまらない内的な変容を進める必要があるのです。

では、どういう風にそれらのパターンから抜け出ていけばよいのでしょう? 実は仏教にはこの問いを解くためのヒントがあります。それは「手放す」という発想です。

基本戦術は手放していくこと


「手放す」のは次に挙げる3つです。もちろん、みなさんは仏門に入るわけではありませんから、以下すべてを実践する必要はないのですが、様々な執着を手放すことはいままでのパターンから抜け出すきっかけになりますので、参考までに読んでみてください。
  
空間の手放し:前通っていた職場や住んでいる家など、自分が無意識に行動していた舞台空間を手放します。人は環境にある物や人をトリガーにして、いつも通りの考えを繰り返してしまいます。

同じ場所に通っていると、トランジションの弊害になってしまうこともあります。内的には変化したい気持ちがあるのに、その変化がせき止められてしまい、過去の慣習に戻ってしまうのです。
          
物の手放し:過去使った資料や本などついつい溜め込んでしまっているものはありませんか? 「いつか使うかもしれない」という風に思うかもしれません。その通りだと思います。

しかし、新しく育ちつつある思考が過去の思考習慣のループに引きずり込まれるのを避けるために、それらはバッサリと手放していくのが吉と出る時もあるでしょう。もちろん大事にしたいものはあるでしょうから、最低限の物は残しつつ、感謝をしつつ別れを告げましょう。
       
人の手放し:関係を一方的に切り、疎遠になるという意味ではありません。関わっていた人たちと会う機会を少なくしたり、人生において一時的に距離をおきます。

人生の中でそういう方々とまたひょっこり関わることもあるかもしれませんが、大きなトランジションの中で思考がより戻されているなと感じる時には、その関係性から物理的にも精神的にも離れてみるのが得策です。逆に何かこれまでの思考の仕方とは異なるけれどしっくりくる感覚で関わってくる人からの誘いなどには、一時判断を保留して自らを委ねてみるのもおすすめです。      
                  
とはいえ、それらを手放すといっても、空間・人・物に対する自分自身の想いを簡単に手放すのは難しいというのがトランジション時に経験することではないかと思います。ゆえにみずからの意志を強く持つことは大切です。
             
というのも、新しい思考の変化と行動の方向性を示した時、それを応援する人ばかりではないからです。応援してもらえるように行動することが重要ではありますが、仕事や家庭に関わらず、人は何かしらの依存関係の中で生きていますから、時には反発されたり、非難されたりすることもあります。家族がいる人はなおさらでしょう。子供の養育費を稼ぐ必要があるのに独立したいとなると家族やパートナーを説得するのも一苦労なのではないでしょうか?  
  

フリーになって自分が「ない」ことに気づいた


私の場合も一筋縄ではいきませんでした。独立後に関わった団体があったのですが、そこで気づいたのは前の職場でのふるまいを無意識に繰り返してしまう自分の存在でした。嫌だと思うパターンから外れ、より自分の可能性が開かれる形を模索したくて独立したのに、また同じような構造に巻き込まれるのはダメだと思い、その団体との関わりを終わりにしました。

しかし、それも仕事を辞めて環境を変えてみた中でようやくわかったことでした。動いていく中でチューニングしていくことの大切さを感じました。

自分で仕事を得ることができるようになるまで模索する時期が続きました。数ヶ月間動いているうちにポツリポツリとイベントデザイン等の仕事を得られるようになり、試行錯誤の末に受託ではない自主活動も同時にやっていくことになりました。

まさにトランジションです。その生活を始めた時には、これまでうまくいっていたことがうまくいかずその中で葛藤が続きました。
      
まずこれまで仕事をしている時に、当然のように行っていた自己紹介ができなくなりました。前職で行っていた仕事のプロセスは自分一人で作り上げているものではなく、仕事仲間との協働によって成立していたものだからです。

自己紹介で「このような仕事をやっていました」と話しても、それは必ずしも私が「今」何をできるのか、どういう価値貢献をできるのかということを正確に伝えることにはつながりません。もちろん前の会社が持っているブランドイメージも引き継ぐことはできず、個人の自分の何もなさが際立ちます。
                
ですが、初対面の相手には自分が何者であるかを伝える必要があります。もどかしい思いを抱えながらも、何度も自己紹介していくうちに、これまでの自分を手放していきながら、現在と未来の私にフォーカスした自己紹介に変えていかないとーーという思いへと変化していきました。

前職では仕事を作ってくるのは上司でした。私はアシスタントのようなポジションでしたので、仕事を作るとはどういうことなのか? 具体的イメージがないままに動き始めました。「仕事とは与えられるもの」という思い込みがありました。

自分で仕事を生み出さないと生活ができなくなるという状況に置かれて初めて、仕事は与えられるものという固定観念の中から抜け出ていきました。  
 

自分を縛るパターンを特定するために


私が抜け出たいと思っていたパターンの最たるものは「自分の意志決定がないままに、その作業をしないといけない」というものです。自分で仕事を取りまとめることができないまま、上司が言うものに半ば強制的に参画せざるをえないことは自分のモチベーションを大きく下げ続けていました。

それが仕事の常識だと思い続けていたのですが、実際はそうではありません。チューニングし続けた結果、現在ではフリーランスとして仕事をするかどうか、自分で意思決定することができるようになりました。会社でも上司との交渉をうまくやれればよかったのかもしれませんが、お金を払ってもらっていることへの引け目から、どうしても交渉で不利になってしまっていました。

これもある種の依存関係です。意識的に手放す必要があります。
                     
手放すことに意識を向けて過ごしていると、自分が手放していくべき行動や思考の癖を掴みやすくなっていきます。思考の癖に気付くことができないと、違和感ばかりが募っていく一方で不快な思いや満足できない状態を脱することができません。

パターンは自動化されてしまっていますから、そのパターンを特定して、はまり込む自分をそのパターンの外においてやる必要があります。
            
空間・物・人を手放しながら自分の想いまでも手放していく時、己が執着してしまっているパターン(行動と思考の連鎖)を何度も内省しましょう。手放すという発想に至らないものこそが、私たちの変化をせきとめていることもあります。それは社会的な名声や評価など、物理的に実体のないものかもしれません。  
                 

私たちは無我の世界を生きている


ここでもう少し話を深めたいと思います。この記事では「手放し」を強調していますが、そもそも私たちは何かを手に入れているのでしょうか? いや、実は最初から何も手に入れていないのです。 
                          
ここで参考にしたいのは仏教の「無我」という考え方です。仏教学者・魚川祐司氏の『仏教思想のゼロポイント』によると、無我は「世界が己の支配下になく、コントロールできない」ことを意味しています。世界に限らず、自らの身体も頭の中もコントロールするものではなく、あくまで調整することしかできないのです。
                                   
であるにもかかわらず、私たちは自分が手に入れてきたと思ったものや人、空間を手にいれたという感覚とともにそれらに執着してしまいます。当然それらを手放していく際には痛みを伴います。不安になったり、怒りが湧いてきたり、劣等感を抱いたり、ネガティブな感情を抱くことも多いでしょう。

そのたびに思い出してほしいのが、「そもそも私たちは思い通りのいかない、コントロールできない無我の世界に生きている」ということ。自分から切り離すのがとても痛いことだとしても、最初からそれらをさも所有していると思い込んでしまっているだけなのです。
                                       
人生の転機に差し掛かっているあなたは、生まれてから今の一瞬に至るまで変化し続けています。転機だと感じているのは、あなたが変化の予兆を感じ取っているからです。生まれつつある変化に身を委ねることができるように、過去の慣習を手放していくのはいかがでしょうか? 自分をせき止めているものを手放していくだけで、おのずと変化は生まれていくのだと思います。

Photo credit: wildrosetn39 on VisualHunt / CC BY     

執筆者プロフィール


三浦祥敬 Yoshitaka Miura
フリーランス・ラーニング・プロデューサー。1991年佐賀の禅宗・曹洞宗のお寺生まれ。京都大学卒。仏教を参照した人生の転機を乗り越える思想・技術を「Transition」という言葉から探求している。TRANSITION PROJECT主宰。https://note.mu/shokei612

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