2018年06月18日更新

浅生鴨の「働かない働き方」Season2ーいきなり結論からいうと"職業とは乗り物"なのだということだ

やあ、待たせたな。またまた登場することになったぞ。それにしても俺が前回ここで連載したときに、散々っぱら俺はもう仕事がしたくないだの一日中ゴロゴロしながら海外ドラマを観ているだけでいいだのと書き続けていた筈なのだが、どうやら仕事旅行の中の人々は俺の記事をまるで読んでいなかったか、あるいは読んでも理解できていなかったらしい。

あろうことか、またしても俺に原稿を発注してきたのだ。まったくどうかしているとしか思えないし、その依頼を断れずにあっさり受けてしまう俺はもっとどうかしている。本当にわけがわからないじゃないか。

前回の連載以降も仕事やら就職やらについて考える機会が何度かあった。まあ、殆どはちゃんと考えてなんかいないんだが、ときには考えることもあるのだ。とはいえ、働きたくないとか、仕事を仕事でなくしてしまえばいいとか、他人ではなく自分のために働くとそれは仕事ではなくなるぞといった、基本的な考え方は変わっていない。だが、それとは別に最近ふと思ったことがある。

いきなり結論からいうと、職業とは乗り物なのだということだ。少なくとも最近、俺はそんな風に考えているのだ。職業とは、目的地に向かう手段でしかない。ところが、お前らの多くは、乗り物に乗ることそのものを目的だと思い込んでいないか。いるだろう。乗ること自体を目的にしてしまうと、うまく乗れなかったときに頭を抱えてしまうことになる。

新卒の学生が苦労している就職活動なるものを俺はやったことがないので、俺に聞くのもどうかと思うのだが。

どうせお前らは、その会社にウケようと思って志望動機を適当につくっているだろう



そろそろ世間は新卒の就職活動が本格的に始まっていると聞く。そう言われて街の中を眺めてみると、確かにリクルートスーツで武装した兵士予備軍たちが汗を拭きつつ交差点を急ぎ足で渡っている。

俺も何人かの若者から就職活動について聞かれたのだが、俺にちゃんとした答えなど出来る筈もないし、うっかり働く必要なんてないのだと言いそうになるくらいだから、そんな俺に聞く時点で、すでに大きな間違いを犯しているんじゃないかと心配になってくる。

彼らと話をしているときに「職業ってのは乗り物みたいなもんだからな」と、ポロリと口から出任せを言ったことがあるのだが、後から考えてみるとこれは案外悪くない、いや、なかなかいいことを言ったのかも知れぬと思っている。

どうせお前らは、その会社にウケようと思って志望動機を適当につくっているだろう。やりたいことなんて普通簡単には見つからないし、たいていの場合には一生かかったってわからないことの方が多いのだ。

やりたいことをあれこれ探すよりも、自分の得意なことや、自分に求められていることをやったほうがいいということは前回の連載で書いてあるから読んでおけ。それでも、自分がどちらの方角に興味を持っているかくらいはおおまかであればわかるだろう。その方角へ向かうバスに乗ればいいのだ。

分かりやすく極端な例を出せば、たとえば医者になりたいというヤツがいるよな。あるいは商社に就職したいというヤツがいるよな。何のために医者になりたいのか、どうして商社に就職したいのかが、本当はとても大切なことなのだ。だがたいていのお前らは、そこをあまり深く考えていない。

商社が実際にどんな仕事をしているか、わかっているわけじゃないだろう。所詮はいろいろなところで見聞きしたイメージで、何となく商社とはこういう仕事をしているんだろうなと考えているだけだ。それでも、なぜお前は商社で働きたいと思うのか。なぜお前は医者になりたいと思ったのか。考えるべきは、なぜその仕事をしたいと思ったのかではない。どんな仕事をしたいかはどうでもいいのだ。

乗り物には速いものも遅いものもある。目的地さえ見失わなければ、そちらへ進んでいくことはできる



お前らが、一番じっくり考えなきゃならないのは、自分がどんな人間でありたいかということだ。それが就職活動の第一歩だ。

もちろん親に言われたからだとか、金がたくさん欲しいからだとか、周りの人間に一目置かれたいだとか、人助けをしたいだとか、いろんな理由があるだろう。たった一つの理由しか思いつかないとしたら、それはちゃんと考えていない証拠だ。自分の気持ちに正直になっていないという証拠だ。いろんな理由があるが、その中で一番大切なのは、お前がどんな人間でありたいと思っているかということだ。それさえはっきり見えてくれば、就職活動なんてものに振り回されずにすむ。

乗り物というのはそういうことだ。医者になりたいお前は、医者になりたいわけじゃないのだ。本当は病人を治したいのだ。困っている人、弱っている人に手を差し伸べ、彼らを救うだけの力を持った人間でありたいと思っているのだ。そういう自分の望みがわかれば、医者になることが唯一の道ではないと気づけるだろう。研究者になって治療法を開発するという手もあるし、薬を売る仕事だってある。空港の検疫官だって病人を減らす仕事だし、もしかすると貧困対策のNPOがいちばん合っているかも知れない。目的は同じで、やり方が違っているだけだ。

ところが、医者になることそのものを目的にしていると、いろいろな事情から医者になる道へ進めなくなったときに、どうしていいかわからなくなってしまう。だが、それは医者という乗り物を選ばなかっただけなのだ。困っている人、弱っている人に手を差し伸べる者でありたい、そういう人間でありたいという目的地へ、他の乗り物を使って向かえばいいだけのことだ。他の乗り物を使えば、もちろん完全に行き先が一致するばかりではないが、それくらいの誤差は人生にはつきものだ。いちいちうろたえる必要はない。だいたい同じような方角へ向かっていればそれで充分なのだと思うほうが気分も楽になるぞ。

乗り物にはいろいろなものがある。速いものもあれば遅いものもある。一気に長い距離をかせぐ飛行機もあれば、のんびりと進んでいくローカルバスもある。いろいろな乗り物を乗り継ぎ、行きつ戻りつしながら、それでも目的地さえ見失わなければ、そちらへ進んでいくことはできるのだ。時には、ふと出会った風景が気に入って、途中で目的地を変えることだってあるだろう。だが、乗り物に乗ること自体が目的になっていては、それは不可能になる。

行き先をしっかり知ること。それができていれば、たとえ道の端に立って、しばらくぼんやり考えごとをしたってかまわない。乗り継ぐことを前提に、とりあえず行きたいと思っている方角へ向かうバスに乗り込んでしまえばいい。最終目的地さえわかっていれば、窓から見える風景だってきっと楽しめるに違いないのだ。

自分はどんな人間でありたいのか。一生かけて最後にどんな人間になりたいのか。それさえわかっていれば、あらゆる仕事は、その目的地へ向かう乗り物に見えてくる筈なのだ。

(Season1のバックナンバー)

★浅生鴨の「働かない働き方」vol.1ー仕事とは逃げても逃げても先回りして俺を捕まえにくるモンスターのような存在なのだ

★浅生鴨の「働かない働き方」vol.2ーそれは、ひとことで言えば、他人のためではなく自分のために働く働き方ということに尽きる

★浅生鴨の「働かない働き方」vol.3ー子どものころの"ごっこ遊び"の感覚を覚えているのなら、きっと仕事を楽しむことはできるー

★浅生鴨の「働かない働き方」vol.4ーその仕事が自分に向いているか向いていないかは、あまり自分では判断しない方がいいー

★浅生鴨の「働かない働き方」vol.5ースケジュール帳ってのはな、予定が何も書かれていなければいない方がいいのだよー

★浅生鴨の「働かない働き方」最終回ーいいか。職はお前らが選ぶものじゃないってことを知っておけ。職がお前らを選ぶのだー

執筆者プロフィール

浅生鴨(あそう・かも)
1971年神戸市生まれ。早稲田大学除籍。大学在学中より大手ゲーム会社、レコード会社などに勤務し、企画開発やディレクターなどを担当する。その後、IT、イベント、広告、デザイン、放送など様々な業種を経て、NHKで番組を制作。その傍ら広報ツイートを担当し、2012年に『中の人などいない @NHK広報のツイートはなぜユルい?』を刊行。現在はNHKを退職し、主に執筆活動に注力している。2018年3月スポーツ小説『伴走者』を上梓。
連載もの: 2018年06月18日更新

メルマガ登録いただくといち早く更新情報をお伝えします。

メルマガも読む

LINE@はじめました!

友だち追加
このページを気に入ったらいいね!しよう
見たことない仕事、見に行こう。

あわせて読みたい

【仕事旅行社の転職サポート】
まずは職場を体験。じっくり"天職"見つけたいなら「おためし転職」へ

Follow Me!


PAGE TOP