2018年05月11日更新

蒼井ブルーさんに聞く【後編】:職場帰りにハーゲンダッツ。「本当にゴメン」の気持ちから写真の仕事は始まりました

文筆家・写真家の蒼井ブルー(あおい・ぶるー)さんへのインタビューを引き続き。

前編はコチラ→【前編】真面目ウジウジな自分をエンタメにして、僕はだれかの"暇つぶし"になりたい

前編では蒼井さんの新著『ピースフル権化』の話をメインに質問したが、ここからは文章を書く活動しながら写真家でもある蒼井さん自身の仕事について聞いてみたい。

プレゼントにもらった一眼レフを無駄にしたくなくて写真を始める


——蒼井さんはフォトグラファーなんですよね? 本職と言っていいのかわからないけれど。

蒼井:そうです、写真家。カメラマンをしています。写真のお仕事は、職場があるんですけど。

——写真家になろうと思ったのは? どこかのインタビューで「たまたま」みたいなこと言ってましたけど。

蒼井:えー、ざっくり言いますと、僕、もともとカメラや写真への興味が人並みくらいしかなくて。いいカメラ持っている人がいたら、「いいな〜、ほしいな~」くらいだったんです。カメラってファッションとかオシャレのアイテムになっているのかな? っていうのがあって。僕もオシャレだったりカッコいいものは人並みに好きなんですけど、「いい写真を撮りたい」とか「カメラ機そのものに魅かれる」とか、そういうのはほんとにほとんどなくて。

——そういう人がなんで写真家になったのか? 興味あるんですけど。

蒼井:『ピースフル権化』にも書いたんですけど、当時付き合っていた人とテレビを一緒に見ていたときに、某一眼レフのCMが流れてまして。そのときほんとテキトーにチャラい感じで、「ほしいな~」みたいなことを言ったんですよ。

実際はそこまで絶対ほしいわけじゃなかったんですけど、「カッコいいカメラに興味あるオレってどうよ?」みたいな感じあるじゃないですか(笑)。オシャレな人だと思われたいみたいな。

——わかるわかる(笑)。

蒼井:ところが彼女がそれを僕の特別な日にサプライズで贈ってくれまして。うれしさもあったんですけど、僕、ほんとに申し訳なくなって。入門機種とはいえ結構いい値段するものなんですね。それで喜ぶ前に、僕、ちょっと逆切れみたいに怒ってしまったんです。「こんな高いものを、何も言わないで買ってくるのやめて! 無駄になったらどうすんの?」って。

いま思えば「本当にごめん」って感じなんですけど、そのときの自分からしたら、無駄にする可能性高いわけですよね。それでカメラを無駄にしないために、「じゃあ、ちゃんと始めてみようか」っていうのがスタートなんです。

——ほう。そうやってカメラが職業になる人もいるんだ(笑)。

蒼井:「ごめん」っていう気持ちがすごく強かったんだと思います。でも彼女から貰って始めたっていうのがすごい不純だと思ったので、その子にはカメラのお金を払って、僕が買ったことにさせてもらったんです。「僕が写真始めたくて自分で買ったんだ」ってことにしてしまおうと。

意識高すぎる系でしたね。目立ちたくて色々試してみたり


——カメラはどうやって練習したんですか。

蒼井:最初はその子をパシャパシャ撮るとこから始めたんですけど、入門機とはいえ実際に一眼レフをやり始めてみると、やっぱりすごい楽しくって。カメラを手にした動機は不純だったんですけど、やってみると、あ、面白いっていうのがどんどん出てきて。

で、僕は当時ファッションもすごい大好きで、いまでこそちょっと落ち着いてるんですけど、その頃は全身コム・デ・ギャルソンで、マントみたいな服着てたり(笑)。意識高すぎる系だったんです。

——意識高すぎる系(笑)。意識高いレベルは超えちゃって?

蒼井:はい(笑)。それでファッション雑誌とかウェブで、ストリートスナップを見るのが大好きで、ちょっと写真に自信がつきはじめてきた頃に、「あ、撮れるな」って。そんなこと言ったらエラソーなんですけど、そこで初めて写真と自分の好きなものがくっついたっていうか。

で、上京しまして。原宿のファッションアイコンな人たちをたくさん撮らせてもらってたんですね。当時は雑誌なんかはもちろんなんですけど、有志のスナップ撮影チームがあったり、個人でやってる人もいたり、インディーズみたいな表現に近いと思うんですけど、そういうのをやりたがっている人たちがたくさんいたんです。

——ありましたね、そういう時代。でも、たくさんいる中でどうやって仕事に?

蒼井:きっかけはブログですね。有り難いことに、ブログに上げて行った写真が結構、話題になりまして。そこからお仕事として依頼を受けるようになったのがスタートかな? っていう感じですね。

——このあいだもインスタで人気が出て写真家になった人のインタビューしたんですけど、「ブログやSNSがきっかけでそれが仕事に」というのは、わりと当たり前みたいな時代になってきましたね。

蒼井:当時はインスタはまだなかったですけど、いまはもうSNSってほとんどだれでもやっていて、人の目に留まりやすいってのはあると思いますね。何か面白いことをやっていれば、いつかだれかが引き上げてくれるというか、趣味が仕事になるような場を与えてもらいやすいというか。だから発信し続けるのは、すごい大事なのかな? って思ってるんですけど。

——やっぱり続けることが重要?

蒼井:すごい大事だと思います。身に染みてほんとに。今日最初のほうでお話しましたけど(前編)、自分が何をやりたいのかまだはっきりわからないけど、「売れたい」とか「目立ちたい」なんて強く思っていた時代に、興味を持ったことをあれこれ試したりしてたんですね。

その意味では、10代の人とか学生さんは、興味を持ったらとりあえずやってみるのは大事だと思っていて、何か「これだな!」って手応えがあれば、あとは続ける。そっちが大事になるのかなあと思います。

蒼井ブルーさんの著作:『世界はふたりのものだと思いたいのでまずは君が僕のものになれ』と『今夜、勝手に抱きしめてもいいですか?(共著)』

もっとモテたい、キラキラしたい。でも浮わついてもいられない


——でも、続けるというのはしんどいことでもありますよね。

蒼井:そうですね。仕事となるとなおさらですよね。お金を稼ぐって本当に大変なことで。精神的にもぐったりしたり。

で、職場からの帰り道に絶対ハーゲンダッツを買ってしまうんです(笑)。もう「買うのをやめたい!」と思うんですけど、頼っちゃいますね、そういうところに。でも、我ながら一生懸命やってる感じはあって、それってやりがいがあるってことなんじゃないかな? って思ったり。

——いや、やりがいはあるでしょう。肩書きは「文筆家・写真家」にされてますけど、そこは本人の中では違和感なく?

蒼井:自分の中ではどっちが本業でどっちが副業というのはなくて、いまは両方本業としてうまく捉えられていますね。ただ、2冊目3冊目と本を出させてもらうようになって文章の仕事が増え始めたとき、自分は何者なのか? っていうのはすごく思いました。「オレってだれなんだろう?」みたいな哲学っぽい話を、中二病になって以来くらいに考え始めて(笑)。いまは肩書きなんて記号でしかないと思ってるんですけど。

——写真のほうの仕事でこうなっていきたい! みたいなイメージはありますか。

蒼井:これは昔あるインタビューでお話させてもらったんですけど、カメラのお仕事は日々自分のやるべき仕事をきっちりやって、質素というのか丁寧というのか、ちょっと言い方がわからないんですけど、欲張らず自分のできることを淡々とやっていきたいですね。

だから、「これからどうして行きたいですか?」って言われたら、「いや、明日も通勤電車乗って、『おはようございます!』って言って、同僚や上司がいて」っていう絵が浮かんじゃうんですよ(笑)。なので「世界の人たちの目に触れるような広告やりたいです!」とか「有名アーティストのジャケットやりたいです!」みたいなことって、あんまり思い浮かばないんですよね。

——いやいや、わかりませんよ。そういう仕事も思いがけず。

蒼井:そうですね。うーん…いま言いながら思ったんですけど、もしかしたら、僕、すごい疲れてるのかも(笑)。夢がないっていうか。

——夢はないかもしれないけど、「モテたい」っていう気持ちはありますよね。本にも書いていたけど。それがあるから頑張れるというか。

蒼井:それはめちゃくちゃあります!(笑)男子でも女子でも、それがなくなったら一気に老けるんじゃないかな? って思うくらい。バンドマンとか芸人さんもそうだと思うんですけど、「モテたい」は糧になりますよね。

僕の場合、書いてる本も意識高い系でもないですし、なんかもっとモテ要素というか、キラキラ感を出して行きたいんですけど…なかなかね、身の丈に合ってなくて出せてなくて。でも本当はもっと出してモテたりしたいっていう(笑)。

——キラキラしたいんだけど、そんな自分を止めようとする何かが?

蒼井:なんですかね? さっきも言いましたけど、根っこは真面目なんで。ネガティブに見たら夢なさすぎというか。まあ、希望は持ってるんですけど、あまり浮ついてないみたいなのはあるかもしれないですね。でも、それって違うほうから見たら「夢や向上心はないのか?」みたいなことにもなりかねなくて。
 
——さっきも「自分vs自分」の話をされてましたけど、わりとネガ・ポジのあいだのビミョーなスキマで自分を表現してるところがありますね。目立ちたいけど、落ち着いていたい。ハーゲンダッツやめたいんだけどやめられない、みたいな(笑)。蒼井さんの書くものは、やっぱりそのバトルから生まれてそうだと。"自分格闘技"みたいなエンタメなのね。

蒼井:そうですね(笑)。多少モテたとしても、もう一人の自分がその自分と闘い始めるんですよ。

聞き手:河尻亨一(シゴトゴト編集長)

Profile

蒼井ブルー(あおい・ぶるう)
大阪府生まれ。文筆家・写真家
写真家として活動していた2009年、Twitterにて日々のできごとや気づきを投稿し始める。ときに鋭く、ときにあたたかく、ときにユーモラスに綴られるそれは徐々に評判となり、2015年には初著書となるエッセイ『僕の隣で勝手に幸せになってください』(KADOKAWA)を刊行、ベストセラーになる。以降、書籍・雑誌コラム・広告コピーなど、文筆家としても活躍の場を広げている。
Twitterフォロワー数19万人超(2018年3月現在)。著書に『僕の隣で勝手に幸せになってください』、『NAKUNA』、『世界はふたりのものだと思いたいのでまずは君が僕のものになれ』(全てKADOKAWA)、『君を読む』(河出書房新社)などがある。
Twitter @blue_aoi

Interviewer

河尻亨一(かわじり・こういち)
銀河ライター/東北芸工大客員教授。雑誌「広告批評」在籍中に、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。仕事旅行社ではキュレーターを務める。
ロングインタビュー: 2018年05月11日更新

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