2018年03月05日更新

「お金とはなにか」の答えを求めて世界40カ国を旅した渡邉賢太郎さん。信頼を交換する時代のはたらき方とは?

「お金」とはなにか。

そう聞かれて、答えられる人はどれくらいいるだろう。

少なくとも私は、すんなりと答えられない。とくに昨今では、ビットコインの登場やFinTech(フィンテック)の広がりなど、お金をめぐる環境が大きく変わろうとしているため、余計にややこしい。

いったい、お金とは何なのか。私たちは、お金とどう付き合っていけばいいのか。今回の「仕事は人びとを幸福にするか」では、そんな問いを、『なぜ日本人は、こんなに働いているのにお金持ちになれないのか 21世紀のつながり資本論』の著者であり、「お金とはなにか」をテーマに2年間で世界40カ国を巡った経験を持つ渡邉賢太郎さんにぶつけてみた。

日本人は「お金とはなにか」を知らない


-- 渡邉さんは大手証券会社を退職したのち、「お金とはなにか」をテーマに世界各国を巡ったそうですね。旅に出たきっかけは何だったのでしょう?

渡邉: 2008年のリーマンショックがきっかけでした。当時証券会社に勤めていた私は、太平洋の向こうで行われた一部の人々によるある種のデタラメによって、目の前のお客様の資産が減っていく状況を目の当たりにしました。その時、自分は「お金」や「資本主義」についてなにも知らない、ということに気付いたのです。



私も含め、日本の団塊の世代以降は、お金のシステムが揺らぐことがない世の中で育つことができた。一方で日本では、お金に関する教育を受ける機会もありません。だからお金や資本主義のシステムを、「蛇口をひねれば水道水が出てくる」というくらい、盲目的に信用してしまっているのが今の日本人だと思います。

証券マンだった私も、「お金とはなにか?」という問いに答えられませんでした。だから、その疑問を解くために、「お金とは何か」を知る世界一周の旅に出たのです。


『なぜ日本人は、こんなに働いているのにお金持ちになれないのか 21世紀のつながり資本論』(いろは出版)

--お金について知ることが、なぜ必要なのでしょう?

渡邉:お金について知らないと、お金に振り回される人生を送ることになってしまいます。

私が証券会社に勤めているとき、お客様のなかにご年配の女性がいました。その方は、1億円以上の資産を持っているそうなのですが、普段の話し相手は、セールスマンしかいないそうなんですよ。友達ができそうになっても、ある程度深い関係になると「自分の資産を狙っているんじゃないか」と思ってしまうんだ、と言うんです。

「お金持ち=幸せ」という公式が正しいなら、この方は幸せなはずなのに、決してそうは見えない。その方はまさに、「お金とはなにか」を考えてこなかったために、お金に振り回されてしまった例だと思います。

お金は信頼の代替物


--では、お金とは何なのでしょう?

渡邉:お金は、「信頼の代替物」だと私は考えています。つまり、信頼関係のない人とでもモノやサービスを交換するため道具なのです。

経済的・物質的な豊かさとは、得られるモノやサービスの選択肢の多さだと思いますが、いまの社会において私達が一人で自らが望むものすべてを調達することはできないので、誰かと交換する必要があります。その「誰か」との関係性は、3つの階層があります。「見ず知らずの人」「友人や仲間、ご近所」「家族」です。



たとえば、私たちは、「見ず知らずの人」から消費財や余暇・観光などといったサービスを、「友人や仲間、ご近所」から食料や地域行事などを、「家族」から家事や衣・住などを得ているのが一般的だと思います。

この時、「友人や仲間、ご近所」「家族」は経験を共有しながらつくられてきた信頼関係があるので、互いに所有物や知恵・技術を共有したり、助け合いやおすそ分けによってお互いの望む選択肢を得ることができます。しかし「見ず知らずの人」とは、信頼関係がない。そこで、お金という「信頼の代替物」を介すことで交換をしているのです。

たとえば、私がアフリカの山奥の村にあった小さい露店でコーラを買おうと思ったとき、見ず知らずで言葉の通じないおじさんからでも、米ドル札を持っていればちゃんと買えるんです。これは、お金が信頼関係の代わりとなる役目を果たしたからです。

--お金が「信頼の代替物」だとすると、お金があればあるほど、信頼関係を必要とせずとも多くの選択肢を得られるので、幸せになれるのではないでしょうか?

渡邉:それが、そうもいかないのです。たしかに戦後の日本では、お金を増やすことによって、「友人や仲間、ご近所」「家族」が必要とされなくなってきた経緯があります。しかしそれで何が起きたかというと、先ほど紹介したおばさんのように、お金に振り回されてしまい、幸せになれない人が出てきた。というのも、物質的な豊かさはお金で得られますが、精神的な豊かさは信頼関係の量と質に左右されるからです。




--なるほど。お金は信頼の代替物として、見ず知らずの人と価値の交換を可能にする一方で、精神的な豊かさを得ようとするときには、お金が信頼関係の代わりになるというわけではないのですね。

たしかに、プリンストン大学の心理学者、ダニエル・カーネマン教授の研究によれば、感情的幸福は年収7万5000ドル(約900万円)までは収入に比例して増えるものの、それを超えると比例しなくなるそうです。アメリカと日本をひとくくりにはできませんが、少なくとも「幸福感は収入と比例するわけではない」とは言えそうですね。

渡邉:最近では、そのことに多くの方が気づき始めていて、信頼関係に基づくコミュニティに回帰するような動きがあります。しかし、気付いた時には地域の祭りや、ご近所づきあいのは無くなってしまっていた……ということが、全国で起こっているのです。

「経済資本」ではなく「信頼資本」を増やす働き方


--そのように考えたときに、この連載のテーマである「仕事と幸せ」の関係はどのようなものがあり得るでしょうか。

渡邉:僕たちがなぜ働くかといえば、「幸せになるため」というのはいまも昔も変わりません。ただ、これまでは「働いてたくさんお金を稼ぐこと」が幸せに繋がると考えられてきた。つまり、働く目的は「経済資本」を得ることでした。

しかしこれからはそうではなく、働くことは「他者との信頼関係」、つまり「信頼資本」を育むことで幸せになる機会だととらえ直すことが可能になるのではないでしょうか。

なぜなら、個人がもつ信頼の質と量が可視化され、それに基づいて価値交換がなされる仕組みが生まれているからです。たとえば、旅行者と、旅行者をもてなすホストをつなげる「カウチサーフィン」というサービスがあります。私が世界一周をした時にも、カウチサーフィンを通じて見ず知らずの人が、無料で家に泊めてくれました。僕がエジプトにいて、「ギリシャのテッサロニキに行くで、誰か泊めてください」と投稿したら、「ウチくるか?」と返事をくれるのです。

なぜ私が泊めてもらえたかというと、それまで泊めてもらっていたホストからの評価が、サービス上で可視化されていたから。それをギリシャのホストも見て、「信頼できるみたいだから泊まっていいよ」と言えるわけです。

--「信頼資本」が可視化されることによって、お金を介さなくても望むモノや
サービスが得ることができるようになってきているのですね。たしかに最近では、個人が擬似株式を発行できる「VALU」や、個人の時間を売り買いできる「Timebank」など、信頼を可視化し、交換できるようなサービスが次々に生まれています。


渡邉:そうです。私はこのような、信頼関係によって価値交換がなされる社会を「つながりキャピタリズム」と呼んでいます。「つながりキャピタリズム」の
社会では、信頼で価値交換ができるので、働くことの目的を、「お金を稼ぐこと」から、「他者との信頼関係を築くこと」へと転換させることが可能になるのです。今回のような取材も、私は取材するみなさんとの間で信頼関係が築くことができる機会だと捉えているのです。

--「つながりキャピタリズム」というシステムの中では、「経済資本」ではなく「信頼資本」を増やす働き方ができるようになると。お金を稼ぐことばかりを目指す働き方に違和感を感じる人にとっては、希望になりますね。

渡邉:ただ、「つながりキャピタリズム」には大変さもあります。極端な話ネットで繋がれる全ての人々という膨大な選択肢のなかから、誰と信頼関係を築くのかを自分で選ばなくてはいけませんし、自分がその人たちにとって信頼できて、関わりたいと思ってもらえる人間にならないといけないので、努力することも必要なのです。

なので、誰にとっても「信頼資本」を増やす働き方のほうがいい、ということではありません。ただ、お金を増やすだけの働き方に違和感を感じた人には、こうした働き方の選択肢があるのだということを知っておいていただきたい、と思っています。

渡邉賢太郎さんのプロフィール

SUSANOOプロジェクトプロデューサー
1982年生 大分県別府市出身 立命館アジア太平洋大学卒
リーマン・ショックを機に、三菱UFJモルガン・スタンレー証券を退職。
2011年5月から2013年4月まで、2年間で46カ国を訪れる世界一周の旅に出る。旅のテーマは「お金とは何か?」。ピラミッドがある国エジプトではなく、お金という概念が生まれた国エジプト。ウユニ塩湖のあるボリビアではなく、投資と投機を生んだ国ボリビア。ビッグベンよりイングランド中央銀行。自由の女神よりウォール街。というように「お金」を巡る旅をする。帰国後、2013年8月よりNPO法人ETIC.に入社。 Social Startup Accelerator Program 『SUSANOO』を立ち上げ。自分らしく生きる人々の挑戦が応援される社会をテーマに、次世代の起業家が育まれる「挑戦者の生態系」構築を目指す。特にソーシャルキャピタルシェアマーケットと呼ばれる資金提供の枠組づくりにむけて奮闘中。プライベートでは温泉馬鹿。第123代別府八湯温泉名人のほか、世界八十八湯を巡った旅の記録を執筆中。

インタビューアー・プロフィール

山中康司(やまなか・こうじ)
働きかた編集者。「キャリアの物語をつむぐ」をテーマに、編集・ライティング、イベント企画運営、ファシリテーション、カウンセリングなどを行う。

当連載のバックナンバー
1:夢があったほうが人は幸せ?キャリア教育学者・児美川孝一郎さんに聞いた-仕事は人びとを幸福にするかvol.1-
2:幸福度ランキングは鵜呑みにしない方がいい?青山学院大学経営学部教授亀坂安紀子さんに聞いた-仕事は人びとを幸福にできるかvol.2-
3:働き方改革からすっぽり抜け落ちているものとは?慶應大学前野隆司教授に聞いた-仕事は人びとを幸福にするかvol.3-
4:「幸福を”Be→Have→Do”で考える。」成瀬まゆみさんが語る、働き方に悩んだ時にすべきこと-仕事は人びとを幸福にするかvol.4-5:「より“土くさく”生きたい」髙坂勝さんがそう語る理由とは?-仕事は人びとを幸福にするかvol.5-
6:株式会社和える代表の矢島里佳さんが語る、「自分的職業」と「社会的職業」の違い-仕事は人びとを幸福にするかvol.6-
連載もの: 2018年03月05日更新

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