2017年10月25日更新

突然の解雇通告への気持ち対策は“失意泰然、得意冷然”ー建築家・山嵜一也のコラム連載「イギリス人の割り切った働き方」vol.5ー

一年で一番憂鬱な月曜日「1月の第3月曜日」


2012年4月。上司が不敵な笑みを携えながら私のデスクに近づいてきた。嫌な予感。ロンドン五輪開幕まであと数か月。しかし、ここで私は解雇通告を言い渡されるのだろうか。様々な思いが去来する。

2016年に英国がEU離脱を問う国民投票で賛成多数となったが、その火種が顕在化したのは2011年後半に始まった欧州危機だった。英国では五輪が開催される2012年が明けたにも関わらず、その火種がいよいよ飛び火してきた。私が年末年始の日本への一時帰国から英国に戻り、出社すると全社員が地上階玄関ホールに集められ、解雇整理期間に入ると通達された。

ちなみにその日は1月の第3月曜日。一年で一番憂鬱な月曜日と英国では言われている。英国の冬の天気が悪い、日照時間が短い、クリスマスホリデーシーズンの散財、次の長期休暇であるイースターホリデーまで、しばらく連休がない、などの理由だからだ。そんな日に解雇整理の始まりを通達される。まさに英国の陰鬱な天気のような空気が玄関ホールに漂った。

私自身、英国で数々の解雇通告を受けてきた。渡英直後に働き始めた勤務先は、試用期間であまりにも言葉の問題があり、解雇。たどたどしい英語でしつこく解雇理由を問いただそうとして雇用主にキレられた。

幸い、すぐに次の働き場所が見つかるも、留守番電話の取れない人間はすぐに解雇される。次の事務所は2年近く働くことが出来たが会社の業績が上がらず(給料支払いの遅延頻発!)、従業員も維持できず解雇となった。

そして、4回目はリーマンショックによる景気低迷で、解雇通告を受けるものの、当時の担当プロジェクトのクライアントからの要請(!)で残れることになった。その景気の最悪期を脱出すると私の解雇問題もうやむやとなりそのまま会社に残った。その会社が五輪プロジェクトに携わっていので、世紀の一大イベントを担当している同僚の話を聞くのも面白かろうと、ロンドン五輪までのつもりでずぶとく残っていたのです。

社会情勢や経営不振で会社という“船”が傾くと、人員を早い段階で切り、残った人員で立て直す。それとも、沈む行く船に皆が仲良くしがみつき、ゆっくり水面下に行くのを待つか。危機への対応策としての解雇整理である。

自分は多くの解雇を受け、会社を去ってきたが、同時に様々な解雇を受けた人を見送ってもきた。

これから結婚する直前に解雇通告された同僚。しかし、彼は同僚たちに別れを告げるためにパブで送別会を開いた(イギリスでは送別会は離れる本人が開催する)。フィアンセもその送別会にやってきた。これから二人の門出となるはずだったのに不安だろう。『彼は良い奴だよ』と彼女に伝えるぐらいしか私にはできなかった。

契約社員として私の隣のデスクで働いた女性は、契約の延長が更新されなかった。しかし、彼女はそれまでそんなそぶりは一切見せずに働き、最終日、職場を去るときに『今日で私、終わりなんで。じゃあ』と突然の別れを告げた。私たちは茫然と見送るしかなかった。

以前、一緒のプロジェクトで働いていた同僚は私が長期休暇から帰ってきたら会社を辞めていた。自ら退社したと勘違いしていた私は『仲良くしていたはずなのに挨拶なしに辞めるとは寂しいな』と思っていたら解雇を受けていた、と他の同僚から聞いた。そのような突然の別れは日常茶飯事だった。

パブで送別会を企画するも感極まって泣いてしまう同僚。しょうがないよね、やるせなさやくやしさを心の奥底にしまい込み、最後まで笑顔を作る同僚。去るのも辛いが、見送るのも同じくらい辛い。



「解雇を味わう」というのも海外就労の醍醐味


解雇が当たり前の日常になると、その人の仕事への向き合い方があぶり出される。それはその人自身の生き方にも通ずる。

どうせ解雇されるのならば、会社や同僚を信用しないで適当にやり過ごす働き方? はたまた、会社に貢献すべく、自分のベストを尽くし、その先にある未来を作り出すという働き方?

実際、小さな会社では目の前のプロジェクトが取れないと、会社が立ち行かなくなり、そのまま自身の雇用も切られるということも起こりえる(私自身、背水の陣で臨んだコンペに勝ち、事務所に残れたことがあった)。それでも、仕事が取れず、業績が上がらず解雇されたとしたら、その時になって、その後のことを考える。

ある意味、その日暮らし。もし解雇にあっても振り出しに戻るのではなく、そこまでの往復した筋力は付いているはず。“3歩歩いて2歩下がる”は、1歩の前進でしかないが、同時に5歩分の筋力がついている、そんな考え方が必要だ。

一瞬先が読めない日常では他人の言説に惑わされることなく、内なる自分と向き合わなければならない。内なる自分と向き合うことで、適切な判断、心の拠り所が出来てくる。しかも自分の中にあるので揺らぎにくい。海外で身に付けるのは現地の言葉はもちろんのこと、大切なのは自分と向き合うこと、すなわち孤独に向き合うことである。

SNS上で日本語で発信するのではなく、誰にも受け入れられない孤独、不条理にとことん向き合えることが海外で生活する上での貴重な時間となる。母国語環境ではないからこそ向き合えるのだ。電車に乗っても過激な露出の写真や煽るような見出しコピーの中吊り広告はない。

解雇を味わうというのも海外就労の醍醐味と言える。そんな中、心の持ちようはこうでなければならない。

『失意泰然、得意冷然』(運に恵まれない時は、慌てず泰然として構え努力せよ。恵まれたときは、運に感謝し、冷然と努力せよ)

昇進した、いい案件を担当した、担当プロジェクトが評価を受けたとしても、冷然とすごす。例え不条理な人事にあった、果ては解雇に合ったとしても泰然と過ごす。得意になりはしゃいでも、失意のどん底に落ち込んでも、じっと時間をやり過ごし、平静に戻るまで待つ。

そんな心持ちが解雇が当たり前の世界で働くことであり、これから雇用の流動化と共に解雇が当たり前になる日本でも有効な心持ちだろう。たまたまプロジェクトの区切りのタイミングで解雇に合う場合があるし、同僚と比較せず単に順番が回ってきたぐらいに考えるのが大切だ。

結局、不敵な笑みと共に何かを伝えに来た上司は次のプロジェクトの知らせだった。「やりがいのあるプロジェクトだよ!」の笑顔。紛らわしいな、と思いつつも緊張感からの解放される。安堵。良いニュースによる上司の笑顔を受け止めると、私はディスプレイに目を移し、淡々と作業に戻った。

文・写真:山嵜一也

【お知らせ】
著者の山嵜一也氏による講演会が開催されます。ご興味ある方はぜひご参加を(入場無料)。

演題:オリンピックで東京をプレゼンする方法~ロンドン五輪に携わった日本人建築士による競技場の考え方~
日時:2017年11月21日(火) 19:00~20:30
会場:東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー7F
主催:d-labo ミッドタウン (スルガ銀行)

詳細、申し込みは以下リンクより
http://www.d-laboweb.jp/event/171121md.html


(当連載のバックナンバー)
★「イギリス人の割り切った働き方」vol.1ー勢いだけで日本を飛び出した私がロンドンで経験したこと
★「イギリス人の割り切った働き方」vol.2ーロンドンバス運転手に働き方の神髄を見た
★「イギリス人の割り切った働き方」vol.3ー食の繋がりで仕事が回るのは世界共通?
★「イギリス人の割り切った働き方」vol.4ー海外就活の中で見えたイギリス人のやさしさー

執筆者プロフィール

山嵜一也(やまざき・かずや)

山嵜一也建築設計事務所代表。1974年東京都生まれ。芝浦工業大学大学院建設工学修士課程修了。2001年単身渡英。観光ビザで500社以上の就職活動をし、ロンドンを拠点に活動開始。2003〜2012年に勤務したアライズ・アンド・モリソン・アーキテクツでは、ロンドン五輪招致マスタープラン模型、レガシーマスタープラン、グリニッジ公園馬術競技場の現場監理などに携わる。2013年1月帰国。東京に山嵜一也建築設計事務所設立。第243回王立アカデミー・サマーエキシビション入選、イタリアベネトン店舗コンペ入選、大阪五輪2008招致活動で戎橋筋にオブジェ展示(DDA賞)など受賞多数。女子美術大学非常勤講。2016年『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方− “短く働く”のに、“なぜか成果を出せる”人たち−』を上梓。

★山嵜さんの書籍とTwitter

『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方』(ビジネス書:カドカワ):http://amzn.to/2ckShwI
『そのまま使える 建築英語表現』(建築書:学芸出版社):http://amzn.to/2bcJMjY

Twitterアカウント:https://twitter.com/YamazakiKazuya/
読みもの&連載もの: 2017年10月25日更新

メルマガ登録いただくといち早く更新情報をお伝えします。

メルマガも読む

LINE@はじめました!

友だち追加
このページを気に入ったらいいね!しよう
見たことない仕事、見に行こう。

あわせて読みたい

【仕事旅行社の転職サポート】
まずは職場を体験。じっくり"天職"見つけたいなら「おためし転職」へ

Follow Me!


PAGE TOP