「勝手に仕事旅行」な日々―僕が“本屋”を仕事にするまで―(後篇)

「好きを仕事に」は魅力的ですが、独立には不安や苦労もありそうです。現在、本の魅力を広める活動をしている和氣正幸さんに、「好きなこと(本)」を仕事にするまでの道のりをふりかえってもらいました。後編です。(「仕事旅行」編集部)。

前篇はコチラ


「大抵の人は『やりたい!』と言うけれど本当にやるひとは一部だけ」



前篇でふれた「はたらくキュレーターLAB」で、「気になる人にインタビューして記事を書く」という課題が出ました。その際インタビューさせていただいた古田靖さんにはそれ以来、フリーランスの大先輩としてよくお話を伺います。

古田さんは『アホウドリの糞でできた国―ナウル共和国物語』で有名なフリーランスのライターです。なんと一度も就職したことがなく20年もの間、フリーランスとして生きてきた方。

「大学を卒業して企業に就職すること」が普通だと思っていた自分にとって、古田さんとの出会いは衝撃的なものでした。転職や独立ですらなく、はじめからずっと独りでやってきたというのはどういうことなのか。自分には想像もつかないものだったのです。きっとすごい人に違いない。

ところが、はじめはインタビューからでしたが、その後、他の場面でも仲良くさせていただきお話を伺っているうちに、あることに気が付きました。

古田さんは「普通」だったのです。

フリーランスのひとというのは、見るからに分かるような「特別なすごいひと」がなるものだと勝手に思い込んでいました。「自分もそういう人にならないと、独立はできないのではないか?」と思っていたのです。

でも、そんなことはない「普通」な古田さんを見て、もしかしたら「独立する」ということは特別なことではないのかもしれないと思うことができました。
(古田さんはもちろんすごい人なのですが、「すごいオーラを放っていて見るからに普通ではない」ひとではないという意味です。)

考えてみれば、会社にも優秀なひとはたくさんいて、そういうひとが見るからに特別というわけではありません。みんな普通のひとです。でも、そんな優秀で普通なひとたちが価値を提供して会社は動いている。

フリーランスでも会社員でも立場は違えど一緒です。価値を提供することで自分の居場所を確保している。

古田さんと話していくうちに、「自分に提供できる価値さえあれば独立をことさらに怖がる必要はない」と思えるようになりました。


はたらくキュレーターLABも終わった頃、ある同年代の知人から連絡がありました。

「本屋を開いたから見に来ない?」

やられました。まさか同年代で自分より早くはじめる人がいるとは。

その店の名前は「双子のライオン堂書店」。ぼくよりひとつ下の竹田信弥くんによって2013年4月に文京区白山にて開店、2015年10月からは赤坂で営業しています。元々10年間ネットで古書を売っていたとはいえ本当に開店するとは。彼の行動力には驚きました。

「大抵の人は『やりたい』と言うけれど本当にやるひとは一部だけ」

そう言われたとき、ハッとしました。「BOOKSHOP LOVER」として各地の本屋のルポやイベントを配信し、読んでくれているひとも増えてきました。大好きな本屋さんを回った感想をブログに書いて反応が返ってくる。イベントも自分で開催できるようにもなってきて楽しくなってきました。でも、ぼくは本屋をやりたかったんじゃないのか? 

「そろそろ開業に向けて動かなければ!」。焦る気持ちが募りました。

ただ、「BOOKSHOP LOVER」として活動していると、世間には本屋になりたい人が意外と多いことに気付かされます。ここ最近でも2016年1月に荻窪に「Title」という新刊書店、根津に「ひるねこBOOKS」という古本屋がオープンするようですし、地方でも10月10日にオープンした「汽水空港」などがあります。

それと同時に、いわゆる本を売るだけの「本屋」だけが本屋じゃないと思うようにもなっていました。一箱古本市が各地で盛り上がっていますし、セレクトショップなのに本を売っているURBAN RESEARCH DOORSなどの試みも気になっていました。

しかも、そういう本を売るだけじゃない本屋の方々がとても楽しそうにしているのを見て、自分がいわゆる「街場の本屋」をやりたいのかどうか自信が持てなくなってきました。



いつの間にか一歩は踏み出されていた




そんなとき、『本の逆襲』という本と出会いました。

『本の逆襲』は刺激的な本です。いま手元にないのでそのまま引用というわけにはいきませんが、概要を書くとこんな感じ。

”出版業界の未来は暗いかもしれないが、それとは別に本の未来は明るい。なぜなら、今までのやり方にとらわれない本屋が日本各地に現れてきているからだ。”

これには大賛成でした。

BOOKSHOP LOVERとして出版業界の外側から、先に書いたような本屋の社長や編集者、フリーライターのほかにも読書会を開いている方やデザイナー、起業家などいろいろな方に会ってきましたが、本の可能性を信じて行動している方がたくさんいます。それはもしかしたら市場規模には現れないものかもしれませんが、それらの活動は確実に本の世界を豊かにしていると感じました。

「今までのやり方にとらわれない本屋」。これを仮に広義の“本屋”としましょう。本のある場所はすべて本屋であるという考え方です。そう考えると実は今まで置かれなかったような場所に本が置かれるようになったり、読書会など本を媒介にしたコミュニケーションが活発になったりしていることが見えてきます。

本を売っている「本屋」にしても、雑貨やカフェ、イベントといっしょに本を提供したり、中にはお酒や映画、音楽といったものとも一緒に本を売るお店も増えてきました。

『本の逆襲』には、ぼくがそれまで出会ってきた人や物事から得たおぼろげなアイデアがまとまって書かれていたのです。そこでふと気づきました。「本の世界に関わるひとはすべて本屋じゃないか?」と。さらに、こうも思ったのでした。

活動を始めたときは「街場の書店」というイメージしか持てなかったけど、実はこういった「本の世界に関わる人」にぼくはなりたいんだ。

それから自分の活動を定義し直しました。それまでは本屋になるための活動だと思っていたのですが、むしろ既にぼくは“本屋”なのではないか。本屋や本のある場所を応援し、その魅力を広める活動。本の世界の広報ですね。いまの自分がやれる本屋はこれじゃないかと思いました。

実は自分でも知らぬ間に一歩は“踏み出されていた”のです。その気づきにいたって、ようやく決意がかたまりました。ぼくは人一倍怖がりで思い込みも激しい方だと思います。憧れの本の仕事をやりたいという気持ちは強くても、起業や独立のノウハウに詳しかったわけでもないですし、辞職願いを出すまでは本当に不安で怖かったのです。そして、いまも不安がまったくないわけではありません。

しかし、実際始めてみたところ、自分の大好きなものの魅力を伝える仕事というのは、とても楽しいということを想像以上に実感しています。難しいことももちろんありますが、毎日が充実しています。不思議な言い方になりますが、「やっと自分になれた」という気さえします。


“勝手に仕事旅行”だった




いまは「BOOKSHOP LOVER」の活動を続けるかたわら、本の魅力を伝えるふたつのウェブサービスのお手伝いをしています。書評投稿サイト「本が好き!」とユーザーが自分のおすすめ本をキュレーションできる「ホンシェルジュ」です。

「本が好き!」は一冊一冊の本に対して会員が書評を書き、その本を元にコミュニケーションができるサービス。書評を書いたり本をネタに盛り上がったりすることで、一冊一冊の本を一人で読むとき以上に味わうことができるようになります。

本が好き!

一方「ホンシェルジュ」では、ユーザーがみずからテーマを設定し、自分のおすすめ本を“本棚”のスタイルで共有できます。たとえば「新しい自分に出会える5冊」とか「留学に行く前に読むべき3冊」といったぐあいに表紙写真とコメントで紹介していく、言ってみれば“本のまとめSNS”ですね。特集や読み物も充実しています。

ホンシェルジュ

「本が好き!」が一冊一冊の本の魅力を伝えるものだとすれば、ホンシェルジュは本と本とのつながりに着目したサービス。しかしECと連動しているという意味では、両者とも「新しいスタイルの書店」を志向する取り組みと言えそうです。

そして、BOOKSHOP LOVERは「『本と本とのつながりが無数にあるリアルな空間=本屋さん』の魅力を伝えるためのメディアとして、自分の中では位置づけています。


ぼくが独立した経緯について書いてきました。こうやってあらためて振り返ってみると、ひとりで色んな“仕事旅行”をしてきたんだなと思います。新しい自分に出会うためには、外で人と会うことが大事。背中を押してくれるヒントは、「自分で踏み出した一歩外の世界にある」というのが、僕にとっての学びでした。

文・写真:和氣正幸(BOOKSHOP LOVER主宰)

読みもの&連載もの:2015年12月18日

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