2017年09月29日更新

建築家・山嵜一也のコラム連載「イギリス人の割り切った働き方」vol.4ー海外就活の中で見えたイギリス人のやさしさー

仕事ありませんか? 電話就活で鍛えたイギリス人とのコミュニケーション


電話の受話器をずっと当てていると耳がヒリヒリするのをご存知だろうか。ロンドンのフラットシェアしていた友人の地上電話を拝借し、朝から晩まで電話をかけていたら耳がヒリヒリしていた。

私は現地の建築事務所にコンタクトをし、『仕事ありませんか』と電話口で何度も繰り返していた。電話料金の請求書が友人に届いたときは驚いた。ずらっと並ぶ電話番号の通信記録。私はちょっと拝借気分だったが、チリが積もればなんとやらで、もちろん支払った。

天気の悪いロンドンには珍しく天気が良かった日だったのだろう。朝から始めた電話での就職活動も気付くと夕方で部屋の中がオレンジ色に染まっていた。私は何もないイギリスに単身乗り込み、就職活動を始めた。不安でしょうがなかったが、この時期に多くのイギリス人に触れたことが、その後の私の行動指針にもなった。

就職情報誌のようなものから求人広告を見つけてコンタクトを取ったり、出入りの激しい著名な建築事務所を狙ったりする要領の良さがあればよかったが、英語の不自由な私は、求人情報に集まる他の候補者を押しのけて採用されるとは思えなかった。

だから私は現地の建築事務所年鑑に掲載されている事務所を片っ端から電話で連絡していた。渡英最初は電話口での会話に苦労していたが、それまでに何社か解雇になりつつも働いていたからか、なんとなく相手の言っている内容がわかるようになった。しかも私は『仕事ありませんか』と尋ねるだけ。もし電話口で私に関して何か尋ねてきても、簡単な背景を伝えるぐらいは出来るようになっていた。その場で面接のように突っ込まれることはない。大切なのは面接にまでこぎつけることだ。メモ帳に殴り書きした定見文でなんとか乗り切れた。

もちろん、ほとんどの事務所は求人募集はしていない。それゆえ、その場で『無いよ』とそっけなく断られることが続いた。そんな中、面白いことに気付いた。イギリス人は意外と優しいのではないか、と。世界でのイギリス人の印象は「皮肉屋」「いじわる」「つまらない」などであった。しかし、そんなイメージは私の就職活動で簡単に打ち消された。

「うちは求人していないけれど、あの事務所にあるらしいから連絡してみたら?」とその連絡先を教えてくれたり、「他をあたって本当にダメだったらウチにまた連絡をくれ。」とか声を掛けてくれた。それらの言葉がどれだけ私に勇気を与えてくれただろうか。

優しさを感じられたのは電話口だけではない。「あなたにふさわしいポジションは現在ありません」という断りのレターを丁寧にくれた(ほとんどの求人応募に対しては音沙汰ナシだった)ときも、私のポートフォリオに対する感想、コメント、果ては「英文での履歴書の書き方」についてのアドバイスをくれた人もいた。

つたない英語だったからこそ伝わった想い


2016年に世界を驚かせたのは「イギリスのEU離脱の国民投票」「アメリカ大統領選」の結果だったが、その争点の一つが移民問題といわれている。私はEUとグローバリゼーションの恩恵を受けられたから00年代のイギリスで建築士として生き残ることができた。

しかし、私のような海外からの労働者がEU離脱の国民投票への影響を与えたのか、と考えるとやり切れない。もちろん、欧州大陸にあるEU官僚主義から主権回復などの大義もあった。しかし、移民という、その根底にある国籍というナイーブなテーマだからこそ、大衆を扇動しやすかったのだろうし、外野から見る分にはセンセーショナルなニュースとして取り上げたのだろう。

そして、わずかな差であったがイギリスはEU離脱を選んだ。12年間過ごし、感じたイギリス人の優しさは私の勘違いだったのだろうか? 人間はネガティブな側面を大きく捉えがちだし、引っ張られてしまう。

やはり海外で外国人として生活していていたのに「差別がなかった」と言えば嘘になる。しかし、私はあまり気にならなかった方だし、気にしない方だった。いくら頑張っても肌の色、髪の毛の色は変えられない。

もちろん、雇用の流動性が激しい職場で働いていたわけだから、突然の解雇に疑心暗鬼になったりもした。でも私はそれ以上に信じることが出来たのはこの渡英当初に就職活動を通し、多くのイギリス人とつたないながらもたくさんのコミュニケーションを取れたからだと思う。

いや、つたない英語だったからこそ『仕事ありませんか』というストレートな願いに対して、手を差し伸べてくれたのかもしれない。多様なイギリス社会の中でネガティブの反対、すなわち「外国人に優しいイギリス人はいる」。そのことを知っているだけで、私のイギリス社会で仕事をするときにずいぶん気が楽になったものだ。

正解を自分で見つけなければならないグローバル社会で働く際に大切なことは、疑心暗鬼の中、ひどい人に出逢ったとしても、他には優しい人がいるはずだ、と信じることが出来るか、だと思う。私がそのような気分になれるのは、あのオレンジ色に染まった部屋での就職活動の夕方があったからだ。

文・写真:山嵜一也

(当連載のバックナンバー)
★「イギリス人の割り切った働き方」vol.1ー勢いだけで日本を飛び出した私がロンドンで経験したこと
★「イギリス人の割り切った働き方」vol.2ーロンドンバス運転手に働き方の神髄を見た
★「イギリス人の割り切った働き方」 vol.3ー食の繋がりで仕事が回るのは世界共通?

執筆者プロフィール

山嵜一也(やまざき・かずや)

山嵜一也建築設計事務所代表。1974年東京都生まれ。芝浦工業大学大学院建設工学修士課程修了。2001年単身渡英。観光ビザで500社以上の就職活動をし、ロンドンを拠点に活動開始。2003〜2012年に勤務したアライズ・アンド・モリソン・アーキテクツでは、ロンドン五輪招致マスタープラン模型、レガシーマスタープラン、グリニッジ公園馬術競技場の現場監理などに携わる。2013年1月帰国。東京に山嵜一也建築設計事務所設立。第243回王立アカデミー・サマーエキシビション入選、イタリアベネトン店舗コンペ入選、大阪五輪2008招致活動で戎橋筋にオブジェ展示(DDA賞)など受賞多数。女子美術大学非常勤講。2016年『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方− “短く働く”のに、“なぜか成果を出せる”人たち−』を上梓。

★山嵜さんの書籍とTwitter

『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方』(ビジネス書:カドカワ):http://amzn.to/2ckShwI
『そのまま使える 建築英語表現』(建築書:学芸出版社):http://amzn.to/2bcJMjY

Twitterアカウント:https://twitter.com/YamazakiKazuya/
読みもの&連載もの: 2017年09月29日更新

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