2015年12月17日更新

「勝手に仕事旅行」な日々―僕が“本屋”を仕事にするまで―(前篇)

「好きを仕事に」は魅力的ですが、独立には不安や苦労もありそうです。現在、本の魅力を広める活動をしている和氣正幸さんに、「好きなこと(本)」を仕事にするまでの道のりをふりかえってもらいました。(「仕事旅行」編集部)


はじめまして。こんにちは。和氣と申します。本の世界を応援する「BOOKSHOP LOVER」という活動をしています。

BOOKSHOP LOVER

今年の10月。ぼくは独立しました。いまやっていることは本に関わることばかり。でも、つい3カ月前まで出版業界とは縁もゆかりもない一介のサラリーマンに過ぎませんでした。

仕事旅行には「自身の成長のため」はもちろん、「将来独立したい」という気持ちでサービスを利用する方も多いと聞きます。主なユーザー層も20代後半~30代前半と、僕とほぼ同世代の方々とうかがいました。

そこでこの記事では、ぼくがどうやってメーカーのサラリーマンから独立し、出版業界の片隅に居場所を見つけたのか? そこにいたるまでにどんなハードルや悩みがあったのか? を書いていきたいと思います。





気付くのが遅すぎたやりたいこと



まず、自己紹介から。東京生まれ東京育ちの30歳。いまの仕事である「BOOKSHOP LOVER」の主な業務内容としては、ライター活動やウェブサービス・ウェブメディア運営、編集、イベント企画などがあります。

先に書いたように、つい3カ月前までぼくは出版や書籍の業界とは無縁の某メーカーに勤めていました。新卒の時から約6年半お世話になりました。

皆さんここでひとつ疑問に思うかと思います。本が好きなら、なぜ初めから出版やその関連の業界に就職しなかったのか?

ごもっともです。ぼくも今から振り返るとそう思います。なにせ就職活動のとき、ぼくは出版業界を志望してすらいませんでしたから。ですが、これはぼくにとっては仕方のないことでした。

というのも、就職活動の際に「自分のやりたいことが分かっていなかった」からです。

え? 自己分析はちゃんとしたのか?

もちろんちゃんとしました。自分ではそう思っていました。ただ、そのときは必死で「自分が将来にわたってやりたいこと」まで考えることができていなかったのだと思います。

そうやって無事就職し、勤務地である大阪での新生活にもだいぶ慣れ、社会がどんなものかその入り口を分かってきたころでした。ふと「この先、定年までこの会社にいるのか?」という疑問がよぎります。自分がこの先ずっとその会社にいるイメージがどうしても持てないということに気付いたわけです。

それなら、自分は何がしたいのか?

考えたときに出てきた答えが本屋でした。小さいころから当たり前のように本を読んできたので意識していませんでしたが、将来を考えるときのイメージには常に本がそばにありました。それを仕事にするというわけではなく、「本に囲まれた生活がしたい」とずっと思ってはいたのです。

一冊一冊の本ももちろん好きですが、読んだことのない本に囲まれるあのワクワク感を感じていたい。そのワクワクを多くの人に知ってほしい。これが自分が本屋を目指す原点です。

就職してから気がつくなんて遅すぎたものですが、なってしまったものは仕方ない。そこからは、会社員としての仕事のかたわら、「どうやれば本屋になれるのか?」を考え実践する日々に入りました。

会うことから始まる



とはいえ、最初はどこから手をつけていいのかまったくわかりません。出版や本の業界の人たちとのつながりも、まったくありませんでした。

そこで、まずは調査だろうと思いました。

本屋がどういう仕事なのか? どうやって始めればいいのか? 書店員になった場合はどうか? 気になることばかりです。こういうときインターネットは本当に便利で、これらの疑問の答えはすぐ見つかりました。

例えば、本の利益率が2割前後と非常に少なく商売としては難しいものであること。始めるにも新刊書店の場合、開店資金が何千万円単位で必要なこと。書店員の仕事は毎日入荷される本の品出しなどの肉体労働もあり、やることは多いのに給料は少ない大変な仕事であること、などなど。

さらに、出版市場自体が縮小傾向にあることも分かりました。

状況は相当厳しいようで、出版業界を目指す人でもここまで調べて諦める人は多いのではないかと思います。でも、やりたい。どうにかやりようはないのでしょうか。

あきらめずに調べていると、厳しいと言われている中でも魅力的な本屋さんを開業しているひともいることが分かってきました。

「これだ!」と思いました。小さいながらもキラリと光る個性的な本屋さん。これを目指そう。

ですが、ぼくは出版に関することは全くの未経験です。学生時代に雑誌をつくるようなこともしませんでしたし小説を書いたりするようなこともしなかった。しかし、大体の場合、個性的な本屋さんは元出版業界の人間であることが多い…。

今すぐ会社を辞めたところで彼らに追いつけるとは思えません。正直に言えば、会社を飛び出すことが怖かったということもあります。果たして、夢みて飛び出したはいいが本当にものになるのか。まだ会社員としても未熟で自分に自信が持てませんでした。

ならば、と興味を持った小さい本屋さんに行ってみようと思いました。ネットだけでは分からないことが多かったのです。どんな店なのか? どんな品揃えなのか? 店主はどういう人か? 街の雰囲気は? などなど行ってみなければ分からないことばかりです。

いま考えてみると、この選択は大きかったと思います。ネットは便利ですが、情報は情報にすぎません。よく言われることですが、やはりリアルな空気まるごと、その仕事やその仕事をしている人たちにふれて、初めて自分にできそうなことが見えてきますし、それがモチベーションアップにもつながるのだと思います。





体験を発信する



実際に訪れることで“個性派書店”と“そこの人々”の魅力にハマった僕は、そうやって本屋巡りをした際のメモをブログに書くことにしました。BOOKSHOP LOVERの前身である「本と私の世界」です。

ブログを始めようと思ったのは、出版業界と無縁の自分が何かをするためには、「まず知ってもらうことが大事」だと思ったからです。書いているうちにもっと読んで欲しいと思い、読まれるような工夫もしていきました。

すると、某大手新聞の地方版に掲載されていたコラム「あのブロガーに会いたい」に僕のブログが取り上げられます。さらに、それを読んでくれた大阪の本屋スタンダードブックストアの中川社長が声をかけてくださったのです。

小さくても発信し続けることの重要さをこのとき身をもって知ったのでした。当時は気づいていなかったのですが、もしかすると、「行って、見て、会って体験した」ことを書くという情報発信のやり方が、その道のプロの方々にも面白いと思ってもらえたのかもしれません。つまり、自分でも意識しないままに“取材”をしていたのです。

スタンダードブックストアは大阪にあります。現在3店舗とサテライト店舗を1つ構える有名な書店です。「小さい」とは言えませんが、個性的でセンスの光る棚づくりやイベント、コーヒーも食事も美味しいカフェが特徴で、実はぼくが一番好きな本屋さんでもあります。

このお店との出会い、そして中川社長との出会いはぼくの活動に大きな広がりを与えてくれました。

「憧れのお店」ができたこと。「尊敬できる人」が見つかったこと。活動をするにあたって目指す場所が見え始めたのです。

週末ごとにスタンダードブックストアに通うようになってきたころ、急に東京に戻れることになりました。地元に帰れることは嬉しいことでもあったのですが、せっかく大阪での活動が面白くなってきたころだったので残念な気持ちもありました。なによりスタンダードブックストアにもっと通いたかった。「東京になぜ無いのだろう」と悔しがったものです。

東京に戻ってから思ったのは「出会いときっかけの多い街」だということ。学生時代までは東京で漫然と生きていましたが、「いざやりたいことが決まるとこうも見え方が違うのか?」と帰京してから驚いたものです。

そうやってなにか面白いイベントはないかと思って見つけたのが、下北沢にある本屋B&Bでのゼミ「はたらくキュレーターLAB」です。



編集者で銀河ライターとして活動している河尻亨一さんによって開講されたこのゼミは、既存組織や特定メディアにとらわれず、自走する「編集者×ライター×プランナー=キュレ―ター」になるためのもの。ちょうど本屋には編集力が必要だと思い始めたころでしたので迷わず受講しました。

このLABではテーマ設定(企画)や生の取材、情報を取捨選択することで生まれる文脈の重要さ、その手法などたくさんのことを学びました。中でも河尻さんの立ち居振る舞いを近くで見ることが出来たのは、いま考えても大きいことでした。

何しろ普段の仕事では編集者と話す機会などまったくありません。そんな状況の中でプロの編集者がどういうひとなのか。LABが続く3ヶ月のあいだ間近で見て話して聴くことができたため、「編集」というものがどういうものなのか朧げながらもイメージを掴むのに役立ちました。

河尻さんとはこのLABのあとにもイベントを一緒に開催させていただいたり、氏主催の読書会に参加したりと、いまでも編集の師匠としてお付き合いさせていただいています。

文・写真:和氣正幸(BOOKSHOP LOVER主宰)

記事の後編はコチラから
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