2017年08月18日更新

働きバチには働きバチなりの流儀がある〜デンマーク大人留学で見つけた予想外のペルソナ(後編)

社会人約15年目にして会社を辞め、“大人のギャップイヤー”と称して人生の休暇を過ごしていた筆者。この期間の目玉企画として、のんびり自分を見つめなおそうとデンマークの「人生の学校」と呼ばれる成人教育機関・フォルケホイスコーレ留学に旅立つ。

しかし、遠路はるばるデンマークの田舎までやって来たものの、いざ「のんびりしろ」と言われるとどうやってのんびりしていいかわからない。挙句の果てに働きもせずゆっくりしてることに罪悪感すら感じる。そして頭の中に勝手に押し寄せる「3か月後、お前は何を得て日本に帰るんだ?」というおおよそデンマークにいたら感じる必要のない、日本から持ってきた“世間体”のような誰のものかもわからない声。

…ゆるめに来たはずが、これである。結局、そんな謎の心の声に耐えかねて一か月後、より都会に近い政治やジャーナリズムといった勉強中心な学校に転校することに。既にこのギャップイヤー期間中に朧気ながら「編集者になりたい」という方向性を固めていたこと、そして次の学校の先生が国際関係のNGOでライターのインターンシップもやらせてくれる、という話も決定打だった。それがあればきっと「これをやってきました」と言えそうだ、という私にとっての”世間様への言い訳”だった。

どれだけ国境を越えようと、結局目的志向に走り、課題に勤しむ働きバチなペルソナに気付いた自分。そんな筆者が転校先で見つけた、新しいペルソナとは??

【前編】:働きバチは変われるか?〜デンマーク大人留学で見つけた予想外のペルソナ(前編)

働きバチ体質な国は日本だけじゃない~まさかの共通語発見


新しい学校は国際政治を学ぶコースがメイン。そんなわけで、前の学校よりもたくさんの国籍の生徒たちと授業を共にした。日本、アメリカ、オーストラリア、ウクライナ、ガーナ、韓国・・・。もちろん生徒の個性は様々で一概には言えないものの、その授業への姿勢はやはりなんとなくお国柄が出るもので。

毎度の与えられた宿題に対して、ちょっと失礼だが語弊を恐れずに言うと「120%で答えないといけない」、「大体できていれば良い」、「とりあえずやってあれば良い」という3つのグループへとなんとなく分かれ、日本人は大体最初のグループ。そして、距離も文化も近しいお隣の国、韓国の同級生女子も同じようなグループだったため協働作業する機会が多く、彼女とはたくさんのことを話した。

驚いたのは、昨年後半から海外メディアでも知られ始めた社会問題化したキーワード「過労死」。このキーワードの説明をしていた時に、彼女が「Oh!!!」っという至極驚いた仕草をしたので理由を尋ねたところ、なんと韓国でもほぼ同様の発音で「과로사/Kwa-ro-sa/カァロゥサ」という言葉があるのだという。

ちなみに、ある調査では韓国の学生の1日の勉強時間は平均13時間。そして、試験や仕事で失敗して社会から取り残されないよう、激しいプレッシャーとストレスに襲われるのだそうだ。「今の韓国の社会は一生ハードに働くか勉強するかしてないといけない風潮でしんどい。そんな社会は嫌だから、どうしたら変えられるか考えに来た。」そう彼女は語った。話を聞いていると日本以上な気さえしてきた。

まさかデンマークで、自分たち以上に働きバチな国のお話を聞くことになるとは…。韓国語と日本語にはいくつか同じ言葉があるのは聞いていたが、こんなところで発見するとはなんだか皮肉な運命を共にしている気分だった。

そんな彼女とは、資本主義の至上命題である「経済成長」のためにどれだけ自国の人々が生涯かけて凌ぎを削り疲弊しているか、そしてそれを改善するにはどうしたらいいかをよく話し合った。そして、二人とも北欧にその答えを求めて来ている点が共通だった。


*フォルケホイスコーレの学生寮に飾ってあった「資本主義反対」(Anti-Capitalism)を謳う垂れ幕。ホイスコーレのフリーダムさを感じた瞬間。

「無駄な学び、そうでない学び」~お金のため仕事のため?それとも人生のため?


また、学校の校長先生が先生や生徒との雑談の中でふと呟いた話に、興味深いものがあった。彼は某映画のクリップを見せてくれた。それはあるアメリカ人監督が世界中の国々に、アメリカにはない幸福の知恵を学びに行くドキュメンタリーなのだが、その中に「学力レベル世界一」とも言われるフィンランドの教育の秘密を探ろうとするシーンがある。

アメリカ人監督がフィンランドの教師陣に対し「今、アメリカでは芸術や詩、そして公民の授業さえ省かれ(削減され)ようとしている。何故かって?そんなもの勉強したところで、時間の無駄だからだ。詩で就職ができるのか?金を稼げるのか?・・・そういうことだ。」と伝えると教師陣はそれぞれ「信じられない」と驚愕の声を挙げ、一同皆唖然とした顔をしたシーンが印象的だった。

それに対しフィンランドの教師陣たちの反応は、「テストで高得点を取る訓練はもはや教育ではない」「学校は自分にとっての幸せが何かを考える方法を教える場所」「遊び、友達や家族と過ごし、美術や料理を楽しんだり自然探索をする。そいういったことが全て脳の発達に良い影響を与えるの」というものだった。



このことは北欧の教育がいかに「ビジネスで成功する人材、ではなく人としての幸福を追求できる人材」を育てることを重要視しているか、そして宇多田ヒカル的に言えば「人間活動」に専念することが尊重されている国がある。そのことを理解する良い機会だった。

ちなみにデンマークも元々はこういった教育のパイオニアだったが、昨今の政策の方針転換で再びビジネス寄りに戻りつつあるとのこと。フォルケホイスコーレの校長先生はそれに警鐘をならすべく「この映画に描かれているようなことを今一度意識していこう」と自戒の念をこめてこの話をしていたのだった。

働きバチには、働きバチなりの流儀がある~抵抗と適応の間で気付いたこと


結局今回の留学の3か月という短い間では、私の働きバチな有様はあまり変わらなかったように思う。

新しい文化への「抵抗」「適応」を繰り返し、やっと新しい環境のペルソナに適応し始めたか・・・?くらいの時に終了のホイッスルがピーーーッ!っと鳴る。そして強制帰国…的な、弾丸トラベラー気分だった。

そして転校した後に気付いた自分のペルソナは、いかにこれまで日本で”経済中心の社会で必要とされる人材”になるために心血を注ぎ、それ以外の価値観を重要視しないで生きてきたか、ということ。

働きバチ同士のような他国の実情を見たり、実際に北欧の経済としてだけでなく「人としての幸福」を国家レベルで追求している社会がこの世に存在する様を見てそう思った。

ただし、北欧の社会がそういった社会を追及しているとはいえ、実はそれでも「自分の幸せが見つからない」と言っている北欧人が多いのも事実。このような気付きを得たとはいえ私自身も「じゃあその"人としての幸福"って貴方にとって何なの?」っと直接聞かれると、まだうまく答えられない。

いくら自由と選択肢を与えられたところで、人間の幸せはどうやらそんなに簡単に見つかるものでもないし、逆に「これが幸せなんだ」ってテンプレートを提示された方が楽な事もあるだろう。でも、幸福の尺度が「経済中心の社会で必要とされるようになること」以外にも様々な多様性があっていいということ、それを知れただけでも大きな収穫だったと思う。



おそらくこれからもきっと、私の働きバチな側面はそんなに変わらないと思うし、日本人の基本路線としても変わらないだろう。だけど、もうひとつ気付いたことは「何かのために一生懸命努力する事自体、実は嫌いじゃない」ということ。そして今回改めて世界各国の人々と接して"日本人の勤勉さというのがどれだけ稀で貴重な強みなのか"を思い知ったということ。電車が時間通り来る、列に並んで待てる、小さなネイルに細かな絵を描ける(極めつけには米粒に絵を書く芸術まである)・・・そう、働きバチは本来良いことなのである。

でも、今の社会ではその一生懸命に働くエネルギーの矛先がほとんど経済成長という目的にしか向いていないがゆえ、伸び悩む現在の日本では行き詰まりやすいのかもしれない、と。だからもし、その矛先を例えば「+@人としての幸福を追求する方向」に向けてみるならば、また新たな発見と展開があるのかもしれないと思った。

働きバチには働きバチなりの流儀がある。その勤勉さは強みであるのだから、何も変わる必要はないのだ。ありのままに。ただ、これからの時代は盲目的に労働に勤しむのではなく、時々「蜜の仕入れルートを見直してみる」だったり、「作ってる巣がちゃんと快適な方向に展開できているか」といった「その勤勉さをちゃんとした正しい方向に使えているのか?」を意識してちゃんと見ることが大切なんだと思う。そうやってバージョンアップした働きバチは、きっと最強なのだから。

プロフィール

寺崎 倫代(てらさき・みちよ)
早稲田大学商学部卒。幼い頃より「国が違えば価値観も常識も異なる」ことから視野を広げてくれる海外に憧れ、大学在学中に米国ワシントン大学のインターンシッププログラムで留学。卒業後は、フランス系の商社やインターネット広告代理店などを経てBBC(英国放送協会)の国際放送における広告部門にて6年間勤務。2017年4月より、かねてより憧れだったデンマークの成人向け教育機関・フォルケホイスコーレへ3か月間留学。
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