2017年02月20日更新

売上30億の社会起業家、ボーダレス・ジャパン田口一成氏に訊く(後編)これからの「安定企業」と「日本の社会課題」とは?

売上30億の社会起業家、ボーダレス・ジャパン(以下ボーダレス)社長・田口一成氏へのロングインタビュー後編。

決して容易な道ではないものの、ソーシャルビジネスを通して「稼ぐこと」と「社会貢献」は両立できるーーそのことを自らの業績を持って証明した田口氏。後半は同氏の考えるこれからの時代の「安定企業」と、ボーダレスの「日本の社会課題への挑戦」について訊いてみた。

前編はコチラ:売上30億の社会起業家、ボーダレス・ジャパン田口一成氏に訊く (前編)「稼ぐこと」と「社会貢献」に国境はない

聞き手:寺崎倫代(シゴトゴト編集部)
(※写真提供:ボーダレス・ジャパン)

これからの時代の「安定企業」のポイントは、"顔の見える小さい組織”であり続けること


――昨今、一生安泰だと思われていた日本の有名企業の倒産や買収といったニュースが続いてます。「あんな大企業がなくなるなんて…一体”安定企業”って何なんだろう?」っと感じる人は少なくないのではと。そんな中、創業以来10年連続で成長を続けるボーダレス田口さんの考える、これからの“安定企業“とはどんな会社でしょうか?

田口:
これからの時代は、“変化に対応できる企業”が生き残るというのはよく聞く話ですよね。じゃあ、どんな企業だとその変化に対応できるのか?っというと、僕らは「小さい組織」であることが圧倒的に重要だと考えます。

――不確実性がどんどん高まるこれからの時代、「大きい組織」だとその変化に対応するのが厳しくなってくる、と?

田口:
そうですね。人は拡大志向を持っているので、組織は放っておくとどんどん大きくなりがちです。ところが、大きな組織だとどうしても階層が増えて、必然的にその間を「中間管理」するポジションがたくさんいないと回らなくなる。

そうやって組織がブクブク大きくなると、人件費を始めとした組織管理のコストも膨らんで、階層がなかった時には不要だった仕事も発生するし、社内の風通しも悪くなってくる。

そういった「顔が見えない」組織は働いてる人も楽しくなくなって、誰も自分ゴトとして仕事しなくなるんですね。

何より、一度大きくなった組織を小さくするのはとても難しい。ちょっと仕事減ってきたから解雇ね、とは言えないですからね。なので「どれだけ小さい組織を維持できるか?」というのはとても大事で、いつも意識していることです。

――「組織を大きくしよう」とするのはよく聞きますが、「小さい組織であり続けようと努力する」っていうのはなんだか珍しいですね。小さくあり続けるためのポイントってあるんですか?

田口:
そのためのポイントは二つあると思ってて、一つは組織を「管理しようとしない」ことです。もう一つは、「全員の顔が見えるコミュニティとして仕事をする」ということです。僕らの思う小さな組織の最適な人数は、7~8人くらいかなと考えています。

――なるほど、何か具体的な例はありますか?

田口:
例えば、僕らの事業の一つにバングラデシュの革製品をビジネスパーソン向けに販売している「ビジネスレザーファクトリー」という事業があります。現在全国に6店舗お店があって、各店舗のスタッフは大体に5~7名なので全部で40名近くになります。


2017年2月に新オープンしたビジネスレザーファクトリー・大阪梅田店。これまでバングラデシュで有効活用されていなかった牛革に着目したレザーグッズは、お手頃な価格と高い品質で人気を博す

もしこの”6店舗で40人”、という事業を全部まとめて「一つの組織」として管理しようとしたら、各店舗の店長たちは中間管理職のような立ち位置になりますよね。これが大組織への一歩につながる訳です。そうすると”顔が見えない”状態になってきて、組織を“管理しよう”とする負のスパイラルが始まる、と。

だから、ビジネスレザーファクトリーでは、彼らは「店長」ではなくひとりひとりが「社長」なんです。実際にみんな「社長」という名刺を持っています。各店舗それぞれが一つのコミュニティとして、自分たちの会社を運営する、ということです。

――昨今話題の ホラクラシーも、そういったガチガチに組織を作らない“非管理型”ですよね。でも、それは結構思い切ったことのように聞こえるのですが・・・本当にそれでも経営的に大丈夫なのでしょうか?

田口:
大丈夫です。むしろ僕は管理よりも「やりたい人任せ」にすることが一番だと思っています。会社に言われるんじゃなくて自分自身が自発的に本当にやりたいことをやる、そして、皆が楽しく自分ゴトとして仕事を続けられるように「顔の見える」コミュニティが保てる「小さな組織」であり続ける。それが重要なんです。

また、よく新規事業はどうやって選定しているか?という質問も聞かれますが、そこも「やりたい人任せ」なんですね。僕らは会社としてこういう事業をやろう、と先導することもありません。

あくまでも「この社会課題を解決したい」という強い意思を持った人間がまずいて、その人がプランを持ち込み、この会社を利用して自分の事業を始める。そして、そこに共感した人たちがそのチームに入って一緒に頑張る。ボーダレスという“会社”はその「集いの場」として存在するまでです。

そうなると、俗に言う“本社”の役割というのは、資金、人材、マーケティングや経営戦略など、僕らがこれまで築き上げた資産・ノウハウを新しくソーシャルビジネスを起そうとする起業家たちと共有して、彼らの事業が成功するのをバックアップすること。

だから、ボーダレスでは「本社」という言葉はなく、「バックアップオフィス」と呼んでいます。だから、僕も”本社の社長”ではなく、“バックアップオフィスの事業戦略サポート担当”なんです。

――社員の“やりたいこと”を原動力にして事業を成長させていく、結局そのことが巡り廻って社員にとっても会社にとってもプラスに働くんだと。

田口:
前回もお伝えしたように、僕たちは「成長マーケットだからこれをやる」というのではなく、「この社会問題を解決したいからビジネスを考える」。

社会問題に取り組むものであれば、正直事業は何だっていい訳です。それよりも大切なのは、その事業を本気でやり抜きたいという気持ちを持った人がそこにいるかどうか、です。

「気持ちが大事」というのは一見月並みに聞こえるかもしれませんが、事業というのは良い時もあれば、悪い時もあるんです。そこに自分が本気で叶えたい姿がなければ、苦しい時にみんな辞めちゃうんです。いろいろな難しい理由を並べて結局、諦めちゃう。

でも、そこに自分の夢があれば、最後までやり抜くことができる。だから、事業は成長マーケットだから云々とかじゃなくて、そこに夢があるから始める方が成功する確率が高いんです。

――なるほど・・・そういうことなんですね。確かに中途半端な気持ちでやり始めたら、途中で「なんでわざわざこんな大変な事を!?」っとなりますね。でも“管理をしない”となると、マネジメントの仕事は一体どうなるんですか?

田口:
僕らは小さい組織を維持しますが、同時に大きな社会インパクトを出したいと考えています。だから、仕事のやり方には結構こだわっています。

管理しようとするのではなく、逆にみんなに大きな権限をしっかり渡して「インパクトの大きい仕事だけに集中させてあげる」。インパクトの小さい仕事や無駄なことにメンバーの貴重な時間を費やさないようにリードしてあげること。これが僕らの思う本当のマネジメントです。

また、短時間集中して働くこと。長く働くことの美学、みたいなものは一切ないですね。インプットなしには高いアウトプットは生まれないので、残業する時間があるくらいなら早く帰って勉強しよう、といつも言っています。


自分の口癖や部下からのメッセージを刻印したオリジナル誕生日プレゼントをもらって喜ぶ田口氏。ビジネスレザーファクトリーの名入れは1点追加500円~(税抜)気軽にできる人気サービス。

――ちなみに、そうするとボーダレスは1兆円企業を目指しているとお聞きしましたが、その意味するところは通常の大企業組織ではなく、こういう「小さな規模のビジネスをたくさん増やしていく」ということなんですか?

田口:
そういうことですね。目標は10億×1,000社=1兆円です。一つの事業規模は10億くらいでいいと思っています。100億円、1,000億円の事業を回そうとすると、大きな競合が必ず出てきますし、相当なリーダーシップが要求されます。もはや誰でもできる規模感ではありません。組織が大きすぎて変化に対するリスクも高くなる。

でも、10億くらいの事業なら小さい組織でまわせるし、この位の規模の事業体なら、ずば抜けたリーダーがいなくても、みんなで力を合わせながらやっていけます。

“一人の優れたリーダー頼みにならない”、そうやって回す事業は強いし、働いてるみんなも楽しい。こういう事業体を1,000社つくる方が断然現実的ですし、ソーシャルインパクトを出すために必要な継続性・安定性も高まります。

――なんだかお話を聞いているとボーダレスで働くには、自分で仕事をコントロールできる器量がないと、やっていけない会社のように聞こえますね。

田口:
そんなことないですよ(笑)とても素敵な人間たちが集まっていますがいわゆるデキル人たちばかりじゃないですよ。

ただ一つ言えることは、僕らは「自分はどの分野でプロフェッショナルでありたいのか」を各人が明確に持つようにしているのでただ漫然と仕事をしている人はいないですね

――それは具体的にはどのように取り組まれているのですか?

田口:
「自分がやりたいことがあって入社する」というのは先ほど言いましたが、「自分は具体的にどの役割・どの立ち位置でそれをやりたいとのか」ということまで明確にすることを大切にしています。

だから、3カ月に1度、事業社長はメンバーの一人ひとりと面談して、それぞれの「現時点での自分の夢・志は何か?」を確認する時間をとっています。あなた本当は何がやりたいの?と聞き続ける会社は少ないですよね(笑)

でも、ボーダレスではメンバーが何をやりたいか、を明確にしてあげるのが上司の一番大切な仕事だと考えています。僕ら経営者は、メンバーよりも事業のことをよく知っているし、経験も豊富。

だから、メンバーよりも広い視野が持てるはずなんですね。彼らがやりたい方向性を理解した上で、その人が具体的になりたい・やりたい絵を描くことは、本当は僕らの仕事なんじゃないか、と。

本人が目を輝かせてその姿を目指したい!と思える絵を提示してあげられるかどうか、経営者の思いやりと力量が問われるところです。

やりたいことがよくわからなくてモヤモヤする罠、への対処法


――でも、意外と夢や志を描くことが苦手な人って多そうな気がします。何かモヤモヤするんだけど、それが何かっていうところまでがわからないというか・・・。そういえば田口さんは以前、TEDxHimiで登壇された際、「モヤモヤ=何かやりたいことがある」ことだとお話しされていましたね。


昨年行われたTEDxHimiでの田口氏の登壇模様。

田口:そうですね。モヤモヤしているっていうことは、逆に言うと「他に何かやりたいことがある」っていう証拠だと思うんですね。それって素晴らしいことですよね。

だから、そういう今に対する違和感とかモヤモヤは、大切にした方が良い。次に進むチャンスだと思うんです。

――でも、モヤモヤするばかりで、具体的にやりたいことが出てこない人って多いと思います。そういった人たちへ何かアドバイスはありませんか?

田口:
“べストな一つ”を探そうとするから行き詰っちゃうんじゃないかな、と。自分が現時点で純粋に興味があること、面白そうと思えることを並べて、その中で一番やりたいものからピックする。

そこに出てこない選択肢は、一旦無視ですよ。何かベストなもの探しをしても、隣の芝が青く見えるようなもんで、そこには何もない。

――なるほど。最初っから何か“唯一無二なベスト”でないとダメだと思いこみすぎないで、ベターから始めてみるということですね。

田口:
“今の自分”が出せる選択肢と、“未来の自分”が出せる選択肢は違うんです。いくら考えたって、人は今まで自分が見聞きしてきたこと以上の選択肢は出せないんです。

だから、今ある選択肢の中で、一番ベターなものをシンプルに選んで、自分自身にいろいろな経験・体験をさせる。そうやって、自分が出せる選択肢を広げていけばいつか自分にしっくりくるものが必ず見つかります。

その自分探しの“過程”を楽しむ、それが人生だと思います。どうせ一度の人生ですから、あまり眉間にしわ寄せてもしょうがない。どんな時もそれを楽しもうとすることが大切です。

ボーダレスが挑む、日本の社会課題解決


――最後に、ボーダレスが現在手掛けられている事業は海外のものが多いように思いますが、日本の社会課題でこれから事業を立ち上げていく予定はあるのでしょうか?お聞かせください。

田口:
はい、もちろんです。たくさんありますよ。児童養護施設の子供たちの就労支援や、シングルマザーの経済的自立支援のためのコミュニティハウス、障がい者の雇用を作るための工場設立など、これからいろいろな事業が国内で立ち上がろうとしています。

――日本でも近年、「最貧困女子」という本が話題になるなど、国内でも貧困というのは深刻な問題になっていますよね。こういった層へのアプローチは何か考えているのでしょうか?


「貧困」はただの経済的な問題だけではなく、家族・地域・制度(社会保障制度)という三つの無縁も大きな要因である、という考察が印象的だった鈴木大介氏の著書・「最貧困女子」

田口:はい。その本の中でも取り上げられているように、若年層の貧困問題は大きな課題ととらえています。この貧困問題には、家庭環境だけでなく、発達障害や精神疾患なども複雑に絡み合っていますので、その部分も含めてどのようなアプローチが一番良いのか、この社会課題を解決したいと言っているメンバーと今、話し合っているところです。

とても良いアイディアが出てきていますので、あと数か月以内には事業としてスタートできると思いますよ。若者たちが夢を持って楽しく生きられるように、なんとしても成功させます。

――――――――――――――――――
尚、ボーダレス・ジャパンでは少しでもたくさんの社会貢献を志す人々の背中を押すべく、SEEDという社内外問わず誰でも応募が可能なソーシャルビジネス創出制度を設け、随時応募者を募集しているとのこと。

田口氏の話を聞いていると、社員や取引先に対する厚いサポートや築き上げる信頼関係から、一見すると日本旧来の非常にウェットとさえ思える家族主義な印象を受ける。

だが、残業はしない、小さな組織を維持し続ける、社会課題の解決は重視するが1つのビジネスにこだわらない、といった姿勢からは非常に最先端を行く新しいタイプの経営者であることが窺い知れる。

「こういう会社が、世の中に1つくらいはあってもいいと思う」そういった彼の言葉に納得するインタビューだった。


Profile

田口一成(たぐち・かずなり)
1980年生まれ。福岡県出身。株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長。
早稲田大学商学部卒。大学2年時に、発展途上国で栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。
株式会社ミスミ入社後、25歳で創業。現在は、日本・韓国・台湾・バングラデシュ・ミャンマーで世界を変える10個のソーシャルビジネスを推進中。
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