TVドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」が人気です。最近の人気ドラマですと「逃げ恥」のほうが何かと話題になってる感もありますが、実は視聴率では両者が激しいデッドヒートを繰り広げているとか。
★石原さとみの「校閲ガール」と新垣結衣の「逃げ恥」が視聴率で激しいバトル中(「exciteニュース」11月22日)
ところで、このドラマで「校閲者」という仕事を初めて知った方もいらっしゃるかもしれません。タイトルにもあるように、出版・報道系の仕事の中でも「校閲者」は「編集者」や「記者」より地味なイメージもあります。
しかし、校閲というこの仕事、完成度の高い本や雑誌を作るためにはなくてはならないもの。ドラマで「地味にスゴイ」とされている校閲者とはどんな仕事なのか? 収入や勤務時間はどれくらいなのか? などなど調べてみました。
目をランランと輝かせながら、原稿のスキマに赤字を入れまくる
「校閲」を辞書で調べてみると次のように書いてあります。「文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること」(デジタル大辞泉より)。
小説家や編集者が主人公の映画などで、彼らが原稿(ゲラ)に赤ペンで文章や誤植を修正するシーンなどが出てくることがありますね。これは一般的に「校正」と呼ばれる作業ですが、校閲者がやる仕事も基本的にはそれと似ています。
しかし、「確認と修正の超プロフェッショナル」である校閲者たちの直しは、ハンパなものではありません。例えば皆さん、以下の文章を「校閲」してみてください。
『2016年11月30日午後5時。彼女は東京タワーから夕焼けを眺めていた。』
いかがでしょう? 一読したところ誤植もなく数字の表記も統一されており、赤入れ(修正)の必要はなさそうだと思うかもしれません。ですが、ここで目がランランと輝いてくるのが校閲者というもの。
「うん? 今年の11月30日? 東京の日の入りって17時だっけ? 調べてみよう…(カチカチ)。ゲッ! 16時28分じゃん。ということは午後5時に夕焼けなんて見れないのでは。ヤバいなこの原稿…。その時間、雨降ってなかったかも確認しなきゃ」
こういった誤りに気づいた校閲者は、修正できるところは修正し、なおかつ解決しない疑問は赤字でゲラ(原稿)のスキマにドンドン書き込みます。校閲者を雇えない規模の編集部も多いため、編集者がこの役割を兼ねるケースも多いのが実情ですが、なんともライター泣かせの存在です。
いずれにせよ、スペルミスや表記ゆれだけでなく、書いてある内容が事実かどうか? の「確認」も含めての校閲作業なんですね。
となると、校閲者は原稿に出てくるすべての文章の一字一句に対して細やかな神経を尖がらせ続ける、なかなかヘビーな仕事なのではないでしょうか? 元雑誌編集者として校正・校閲の経験も豊富なシゴトゴト編集長に、そのあたりどうなのか?を聞いてみたところーー。
「校閲? できればやりたくないよね、正直なところ(笑)。①企画→②取材や発注→③執筆→④デザイン含めた諸々の進行→⑤校正・校閲→⑥販売・営業・PRと、基本的にはなんでも屋である編集という一連の仕事の中で、それはオレが一番苦手とするところで…。めちゃくちゃ時間もかかるしね。
あのドラマの中に、主人公(石原さとみ)がある女優さんの伝記本の校閲を担当して、事実確認のためわざわざその人の生まれ故郷を訪問するエピソードがあったけど、あれってドラマ向けに盛ってあるとはいえ、実は結構リアリティのある話で。ようは可能な限り信ぴょう性の高いソースや文献に当たらないとダメなんですよ。
10年くらい前までだと、『ネットの情報なんて信用しちゃいけない!』みたいな空気も紙媒体だとまだ強かったから、たった1文1ワードの事実確認のために、自分も色々行きましたよ。国会図書館とか大宅壮一文庫とか。時間ないときは詳しい人に電話しまくったり…。
あ、ネットの情報はいまも気をつけなきゃダメですよ。信頼性の高い情報もあるけど、某健康系キュレーションメディアの騒動とかもあるでしょう? これはネットだけじゃなく、あらゆるメディア全般に言えることなんだけど。
そう考えると最近は全般的にゆるくなってますよね。『シゴトゴト』にしても表記とかブレブレだしなあ。1回統一しようとしたんだけど、だれ一人ルールを守ろうとしないという(笑)。まあ、うちらもそろそろ締めていきますか」
ーーみたいなことをドヤ顔で言われてしまいました。
ドラマの原作となった『校閲ガール』(宮木あや子著)
まさに神ってる。99.9999……%の修正テク
校閲における確認作業は1回では終わりません。初校、再校(場合によっては3校、4校)、そして念校と果てしなく続いたりします。誤植や事実誤認はあとからあとから見つかるもの。それらを粘り強く何度も修正しながら、最終的にはパーフェクトな仕上がりを目指します。
ケースによっては印刷屋さんに原稿を入れたあとでとんでもないミスが見つかり、印刷屋さんまで赴いて現場の人たちの生暖かい視線を全身に浴びながらゲラを直し続けることも。一度入稿してしまった(印刷屋に入れた)ゲラを修正するのは、なかなか大変なのです。
しかし、真にプロフェッショナルな校閲者ともなれば、そのスキルはやばいレベル。ふつう絶対気づかないような間違いを一読で指摘してきたり。下にあげた参考記事にもあるように、技の精度は99.9999……%とも言われているそうです。
校閲者として働くにはどうすれば良いかも調べてみました。
大きくは「校正・校閲部門をもつ出版社や新聞社などで働く」か「フリーランスとして働く」かの2種類があるようです。校閲者にも「校正技能検定」といった資格がありますが、なにより経験がものを言う仕事のようで、まずは会社で働き、そのあと独立する方がほとんどのよう。
さらに、気になる収入と勤務時間について。これは入社する企業によっても異なりますからあくまで参考程度ですが。
【収入】一般的な企業の正社員として働く場合→月給18〜25万円からスタート。フリーランスとして働く場合→原稿の量に応じて決まるが、校正のみの作業なら2文字で1円が相場。
【勤務時間】一般的な企業の正社員として働く場合→通常はフルタイムで、繁忙期以外でも残業が多い。フリーランスとして働く場合→個人による。
となっているようです。
残業が多くなる理由としては、データが届くのが遅いなど、納期に間に合わせるためのしわ寄せが校閲部に来るからとのこと。「粘れる限界まで粘る!」を仕事が遅いことの言い訳にするシゴトゴト編集長のように、執筆者によっては締め切りに間に合わない人もよくいます。しかし、そうなると後の人はなかなか大変です。
納期と戦いながら、高い集中力を持続させ、校閲を行う—。校閲者とはまさに神ってる存在ですね。昨日覚えたばかりの言葉もつい使ってしまいたくなります。そして、これはどう考えても地味にスゴイ! 自分の大好きな本や記事の向こう側に、見えないだれかの仕事があると想像すると胸が熱くなります。
ーーということを思っていたら、ドラマに登場する主人公の一目惚れ相手、小説家の折原幸人くんも似たようなセリフを言っていて、今度は胸キュンとなりました。
自分の書きたいテーマが見つからずに苦悩していた折原くん。そんな彼がとった行動は、なんと「これまで見たことない仕事を見に行く」こと。某職業体験サービスをも彷彿させるこの展開も胸アツです。さて「校閲ガール」はどんな最終回を迎えるのか? 河野悦子と折原くんの恋の行方は? そちらのほうも注目です。
記事:河口茜(シゴトゴト編集部)
※TOP画像でご紹介している仕事旅行社(編集部)有給インターン募集の詳細は以下より。社会人の方も歓迎です。
「仕事旅行社『編集部』のインターン募集!「働く」って何だろう? 働く楽しさを発見する。」
(参考記事)
★角川文庫『校閲ガール(宮木あや子)』
★株式会社DTP出版 正しい校正の方法
★日本の人事部【校閲者】 “神業”の精度は99.9999……% 著者も気づかない原稿の誤りを正す出版界の匠
★転職ステーション「校正の勤務時間・残業・休日」
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