ファクトリエ代表・山田敏夫「仕事」を語る(後編)ードキドキと不安があるから本気になれるー

様々なジャンルで、世の中が面白くなるような仕事をしているトップランナーたちが、その人の「仕事を語る」インタビューシリーズ第3弾。今回のゲストは山田敏夫さん(ファクトリエ代表)です。

※前編はコチラ→仕事が私事になるとき新しい価値が生まれる

メイドインジャパンの工場直結ファッションブランド「ファクトリエ」を立ち上げ、「日本の工場から、世界一流ブランドを作る」ことを目標に活動を続ける山田さん。

後編では山田さん自身の働き方やファクトリエのこれまで、そして「これから」についても聞いてみました。

聞き手:河尻亨一(銀河ライター/仕事旅行社・キュレーター)
撮影:内田靖之(仕事旅行社・旅づくりニスト)

会いに行き、膝を交えて話さないと


ーーファクトリエは立ち上げから何年目ですか。山田さん自身の働き方の軌跡についても聞いてみたいと。

山田:会社ができて4年半です。創業して2年半くらいは私一人で、それこそお金がなくて自転車で移動していましたね。電話も携帯に転送されているので、高架下とかで電話をとって「はい、ファクトリエでございます」なんて言っていましたから、お客さんからしたら「すごくうるさいオフィスだな」思われたんじゃないかと(笑)。自分の給料を払えないので週末アルバイトしながらやっていました。この2年です、仲間たちができたのは。

服をつくってくれる工場を探して、設立して半年で60か所くらい回ったんですね。工場はアナログでホームページなどないので、情報があまりなくて、産地の駅まで行って、そこにあるタウンページを見て「あ」から順番にひたすら電話したりしました。

ーーいきなり電話して、うまくいくものなんですか? 向こうにしたら、よくわからない若者が「服をつくってほしい」って言ってきているわけですから。

山田:最初50工場以上は断られました。「やっぱり工場の名前が出るのは怖い」とか、「自分たちがそれをやると今の取引先から切られる」とか。

ようは「現状維持力」が強いんですよね。日本の工場は仕事が少ないわけじゃなくて、実は山ほどあるんですよ。でも単価が本当にとても安い。その状態でこの20年続けている工場が多いんです。かろうじて維持はできているという状況でしたので、そのマインドを変えていくのはすごく大変です。「すみません、それ単価いくらですか?」なんて聞いても、先方からすれば「よそ者が何を言っているんだ?」という話ですから。

ーーどのへんが突破口になったんですか。

山田:なんでしょうかね? いろんなケースがあるんですけど、やっぱり膝を交えて話したってことでしょうか。その工場を「将来息子に継がせたいんだ」とか「ずっと残していきたいんだ」っていう本音を聞かせてもらえるようになっていきました。「続けていく」という前提に立つのであれば、ファクトリーブランドを作ったほうが絶対いいんですよね。

ファクトリエなら利益率が良いですし、閑散期・繁忙期関係なくものづくりができる。ですが、やはり一番大事なのは、自分たちの名前で製品が世の中に出て、思う形で技術を活かせて、お客さんの喜ぶ顔が見られるところだと思うんです。職人さんやその会社の人にすれば、そんなうれしいことないですから。

その意味ではやはり「会いに行く」ってことが大事ななのではないかと思います。電話やメールも使うんですが、それだけだと薄っぺらい気もしてしまいます。私、手紙書くんですよ、会いたい人には。将来の出会ったときにちょっといい想い出になるといいな、という思いもあって。

ーー会うときの相手の本気度も変わってきそうですね。

山田:こんな時代だからこそ、人としっかり向き合いたいし、それを美しくしたいと。九州男児ですからね(笑)。

いまファクトリエに競合が現れていないのって、やっぱりしんどいからなんだと思うんですよ。地道に工場回らないといけないし、回ったときに本気じゃないと言葉が合わなくてコミュニケーションが全然うまくいかないですから。

いろんなことが簡単になった時代に、ある意味とても泥臭いことをやっていて、みんなそこまではやりたがらないんですよね。ある種、勝ち負けがない仕事なんです。


山田敏夫氏

ビジネスモデルではなく“商い”だと思ってます


ーーこの「仕事を語る」シリーズは、結局そこの話に落ちてきますね。キングコング西野さん、メディアアーティストの落合陽一さんの回もそうだったんですけど、どんなジャンルでも「『その人にしかできない』ことをやっているかどうか?」 が「面白く仕事ができるかどうか?」にリンクしていて。

山田:その意味では私、「ビジネスモデル」って言葉が好きじゃないんです。いまファクトリエが伸びていて、そのビジネスモデルみたいなものがあったとして、それをだれかが真似しようとしてもたぶん失敗すると思うんですよ。

イノベーションとかブルーオーシャン戦略なんて言っても、世の中って結局99%が改善で、革新なんて1%くらいだと思うんです。水の上で足をばたつかせながら、ちょっとでもよくしようと思って1mmずつ進んでいく。その繰り返しですから。

そう考えると、ビジネスモデルなんて結局後づけの話であって、まず本気じゃないとうまくいかないと思います。だから「起業家を増やそう」みたいな動きも私は違和感あります。例えば、流行りだという理由でとりあえずスマホのゲームなんかを作ったとしても、世の中が変わったときに「あれ?なんでこれやっているんだろう」ってなってしまいますますよね。

ーー「本気」というのはキーワードでしょうね。でも本気になるためにはやっぱり、その動機というか原点みたいなものがあると思うんですけど、山田さんの場合はそこは何なんですか。ご実家が洋服屋さんという話は以前うかがいましたが。

山田:それは大きいでしょうね。生まれ育ったのがそういう家だったというのは。実家は熊本の婦人服屋だったので、子供のころはしょっちゅう店番をしていましたし、年始はだいたい店の前で福袋売っていました。

それで言うと、“商い”なんですよね、ファクトリエのやっていることって。きちんと売ることに命をかけています。セールは絶対やらないんですけど、100パーセントちゃんと売り切ることを大事にしているんです。

原点的なことで言うと、グッチのパリのお店で見習いをした体験も大きいです。ここで学んだこともたくさんありますが、一番大切なのは「ものづくりからしか本当のブランドは生まれない」ということ。あと「日本にはブランドがないよね」って言われたのがほんと悔しかったですね。

ファクトリエを100年後に世界一流のブランドとして認められていたいんです。これからも仲間たちみんなで会社を大きくして日本のものづくりの価値をどう創造していくか? っていう、そこに関しては妥協なく続けていきたい。もう腹の底からファクトリエを好きでやっていますよ(笑)。

ーーさっきの言葉で言うと(前編)、山田さんにとって「私事」は「仕事」になっているわけですね?

山田:ええ、自分の事としてやれています。だから私は「休みがあるかないか?」と聞かれるとなくて、極端な話、365日仕事(私事)でもある。もちろん、仲間にそれを強要するってことは全然ないんですけど。

それでも私はすごく幸せだったし、いまこうやって仲間ができているのも幸せだし、4年前の自分といまって何も変わってなくて。自宅のアパートで資本金50万で始めたことを、工場を回りながらコツコツやっているってだけなんです。

一枚のシャツで仕事も人生も変わる


ーー最初にお目にかかったのは、確か3年くらい前だと思うんですが、そのときからするとファクトリエは遠くまで進んで来ましたね。1mmずつ進んで10mくらい来たんじゃないですか。

山田:いや、全然、まだまだです。もがいています。変わらないですよね、アパートで一人でやっていたときと。常につま先立ちで、ふくらはぎがプルプルしているというか(笑)。人から見るとわけがわからないと思われかねないチャレンジもしてしまうんです。

最近お店を横浜に出したんですけど、ファクトリエの事業規模であんな一等地に出すと「数字として合うのかな?」とか、しかも私達の商品ってその場で持ち帰れなくて、iPadで買ってもらって翌日発送ですから、「そのやり方を受け入れてもらえるだろうか?」みたいな気持ちもあるんですよね。でも、そういうのってやってみるしかないんです。

ドキドキしますし、不安がないわけじゃないんですよ。でも、むしろ不安なことが私達の存在の証拠でもあると思うんです。、安心ということは結局、だれかの真似だったり、どこかと一緒だったりということでもありますよね? だから不安でも、その上で「仕事をどこまで楽しめるか?」ということが大事だと思うんです。

その意味では、プレッシャーというのも悪いものじゃないと思ってます。余裕がある中で考えててもいいアイデアなんて思いつけないのではないかと。

ーービジョンなんて言葉も好きじゃないかもしれないけれど、なんて言うんでしょう? 海外にも通用する100年ブランドにするための方策みたいなものはあるんですか。今後の戦略というのか。

山田:未来に向けての私達の考え方はふたつあって、ひとつは自分たちの市場は1割だと割り切ることです。約10兆円あるアパレ市場のうちの10パーセントで戦っていくことが大事だと。

さっき100均の食器とろくろで作った食器の例え話をしましたけど、世の中にはレトルトではなくちゃんとダシをとった味噌汁を飲みたいという人も1割くらいはいるんです。趣味嗜好はなくなりませんから。ほとんどの人が自動運転車に乗るようになっても、高級スポーツカーに乗りたい人はいなくならない。美味しい日本酒を飲みたい人もいなくならないでしょう。

だから、私達はそういう人たちに向けて、ちゃんとした出汁を出せるつくり手を目指す。それが「価値創造」をなすための大きなポイントでしょうね。時代と逆行しているように思われるかもしれませんけど、そういう存在が生きうる場所もちゃんと残ると私は思っています。

考え方のふたつ目は、やっぱり良いものの価値をきちんと伝えていくこと。私は一枚のシャツで人生が変わると本当に思っているんです。いいシャツを着ると、気持ち良くシャキッと働けますよね。周囲の印象も変わるかもしれない。いいシャツはいい仕事につながります。

シャツ1枚が1万円と言うと高いと思われるかもしれないけれど、何年も着られると考えれば、2000円のものを5回買うより、1万円のモノを4~5年着たほうがいいんじゃないかと。そう考える人を増やしていく必要があります。

いずれにせよ、どこに向かうのかもわからないランニングマシーンの上で走らされ続けて、「もっと頑張れよ」なんて言われるような仕事とは別のやり方を探したいです。もし、仕事のことで悩んでいる人がいるとしたら、私事に重なる仕事と出会うことをあきらめないでほしいですね。


インタビュー風景

Profile

山田敏夫(やまだ・としお)
1982年:熊本生まれ。1917年創業の老舗婦人服店の息子として、日本製の上質で豊かな色合いのメイドインジャパン製品に囲まれて育つ。
2003年: 大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。
2012年1月:ライフスタイルアクセント株式会社を設立し、「ファクトリエ」をスタート。
2014年4月:中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員。
2015年2月:経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」受託者

Interviewer

河尻亨一(かわじり・こういち)
銀河ライター/東北芸工大客員教授。雑誌「広告批評」在籍中に、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。仕事旅行社ではキュレーターを務める。

あの人が語る仕事論:2016年11月30日

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