服を買いたい、美容院に行きたい、ランチをしたい・・・特に行くお店を決めていないとき、お店の看板やチラシを見て「おっ、行ってみようかな」と引き寄せられるように入ることはありませんか?
お客を呼ぶ工夫について頭を捻るのは、いまも昔も同じこと。江戸時代もそうでした。
しかし、まだ現代のような印刷技術や写真がない時代のこと。看板などで客寄せに力を発揮したのは文字(フォント)でした。「江戸文字」と呼ばれる独特の看板文字が生まれ、人々の目を引いていたようです。
「笑点」のタイトルも江戸文字
ひと口に「江戸文字」といっても様々な種類があり、現在もその技法(書き方)を引き継いでいる職人さんたちがいます。歌舞伎や相撲、寄席などで江戸文字を目にする機会もありますから、意外と馴染み深い存在です。
例えば、歌舞伎の看板や相撲の番付で使われている江戸文字は「芝居文字」。通称「勘亭流」と呼ばれています。
その由来は、1779(安永8)年に書家・岡崎勘六が江戸中村座のためにデザインしたことから。太文字で丸みがあり、ハネは内側に入り込むのが特徴です。「大入」と書かれたお馴染みの赤いポチ袋の文字も、発祥は勘亭流なのだそう。
一方、落語や漫才が興行されている寄席で使われている江戸文字は「寄席文字」。太文字で隙間がないのは芝居文字と同じですが、字が右肩上がりになっているのが特徴です。人気のテレビ番組「笑点」のタイトル書体も寄席文字です。
かつては寄席の宣伝用ビラを書く専門の職人さんたちがいたそうですが、震災・戦災などで途絶えてしまったようです。噺家であった橘右近さんが復興させ、現在「橘流」と呼ばれているとのこと。
そのお弟子さんたちが現在でも職人として活躍されています。そのなかのおひとり、橘右之吉さんは寄席だけでなく、イベントタイトルや書籍・CDなど幅広く手がけているそうです。
千客万来の願いをこめて
芝居文字・寄席文字のデザインには、実は様々な縁起担ぎの意味がこめられています。
・太文字で隙間がない…「隙間なく客席が埋まるように」【芝居文字・寄席文字】
・字に丸みを持たせる…「興業が円満に終わるように」【芝居文字】
・ハネが内側に入り込む…「お客を招き入れるように」【芝居文字】
・右肩上がりの筆はこび…「客入りが益々発展するように」【寄席文字】
お客を寄せる願いが詰まっている縁起の良い文字であると同時に、広告として目に飛び込んでくるよう、ビジュアルとしてのインパクトを重視していることもわかりますね。
歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」に、勘亭流の書家である伏木寿亭さんのインタビューが紹介されていました。伏木さんはお弟子さんにできるだけ芝居をみて感性を磨くようにアドバイスをしているとのこと。
庶民的な演目であれば軽く、歴史的な演目であれば重々しくと、内容によって書き方を変えている芝居文字では経験や知識がダイレクトに反映されるのでしょう。
ちなみに現在では、PCで手軽に使用できる江戸文字のフォントも販売されているようです。イベントタイトルや年賀状などで使用すると、人の関心を寄せる粋な仕上がりになるかもしれません。
記事:清野瞳(シゴトゴト編集部)
参考記事
★歌舞伎公式総合サイト・歌舞伎美人
★江戸美学研究会-寄席文字
★江戸美学研究会-勘亭流
★江戸文字/株式会社UNOS 橘右之吉 アトリエ・工房
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