2016年10月28日更新

ちょいと男前な“アネキ”とめぐる南の島々ー『あまみの甘み あまみの香り』(鯨本あつこ・石原みどり著)を読んで

11月半ばより仕事旅行の記事コーナー「シゴトゴト」で、お二人の著者に「仕事」や「働き方」に関するエッセイを連載していただく予定です。

お一人は鯨本あつこさん(離島経済新聞編集長)。鯨本さんは近頃、初めての書籍『あまみの甘み あまみの香り』(西日本出版社/共著)をリリースされたこともあり、ここでは執筆者のご紹介を兼ねて本のレビューを。

記事:河尻亨一(仕事旅行社キュレーター)

スイーツみたいな南の酒には、女子を復活させる力がある


『あまみの甘み あまみの香り』(鯨本あつこ・石原みどり著)を読んだ。

これは奄美群島の5つの島々(奄美大島・喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島)にある、黒糖焼酎をつくる全25の酒蔵を、「くじら」こと鯨本さんと、「くっかる」こと石原さんが3年をかけてめぐり、そこで出会った酒と人、島にまつわる様々なエピソードを紹介していくエッセイ風の紀行文だ。

タイトルにもあるように、南の島の焼酎は甘い香りがする。それでいてほんのり海の味もする(気がする)。「深い」なんていうとイージーな気さえするほどいろんなものがブレンドされているのだが、この本はその魅力をのびのびと伝える一冊である。

たとえば、黒糖焼酎「里の曙」をつくる町田酒造の訪問にあたり、くじらはこの酒をこんな風に紹介している。

「『黒糖焼酎といえば里の曙』だと思っている人が多いんじゃないかと思うくらい、『里の曙』は本土でもよく見かける。つまりそれだけポピュラーな黒糖焼酎である。

人気者なだけに、くじらもいろんな酒場でお世話になっていたが、いま一度じっくり深く香ってみると、頭に浮かぶのは、みずみずしくって、からっと明るい女の子のようなイメージ。くるくる、ぴょこぴょこ、野道を飛んだりはねたりしながら遊んでいる女の子のかたわらにある、まるまると太ったフルーツのような、ポジティブな香りがする。

口をつけると、今度は陽気な甘さがふわっと口内にまとわりつく。たとえ気持ちが沈んでいても、悩まなくたってもいいじゃない、と元気づけてくれるような。くじらにとって『里の曙』は、そんな酒である。」(本書より)
 

なんだかあっけらかんとしている。ほっこりするような絵が浮かんでもくる。「はてさて、どんな味なんだろう?」と飲んでみたくもなる。ここで紹介される「里の曙」以外にも奄美群島には知られざるたくさんの美味しい焼酎と酒蔵があるようだ。


店棚にずらりと並んだ黒糖焼酎たち(写真:鯨本あつこ氏提供)

そもそも酒のエッセイというのは、中高年、ぶっちゃけ言うならおっさんの「渋みや哀愁、ため息、そしてそれらを乗り越えたところにある洒脱さなどで勝負!」といったイメージもある。

しかし、この本はそういった昭和な呑んべえ感からは遠いどこかにあるようだ。訪ねる場所が南の島ということもあるかもしれないが、ここで描かれる焼酎はまるでスイーツ。そう考えると酒紀行として、なかなか新しいのかもしれない。

編集者であり、この本の語り手でもある「くじら」と、島酒担当記者であり奄美群島観光物産協会で働いていた「くっかる」のコンビネーションも、あうんの呼吸のようでほほえましい。

「巨大タンクに移された原酒は、3年以上の貯蔵期間を経て、私たちの手に届けられる。敷地内にそびえるタンク群を眺めながら、長谷場杜氏がタンクを指差してこう言った。

『これまであのタンクにのぼった女性は2人しかいないんです。誰だと思います?
誰かしら? とくっかるを見ると、顔に『わたしです』と書いてあった」(本書より)
 

酒もコトバも熟成するとより美味しい


こうやって二人旅が続いていく。訪れるのは酒蔵や地元の酒場と飲みの席がメインだが、それ以外のお楽しみも。

徳之島では闘牛大会を見物に行って「わいどっ!わいどっ!」の大歓声に包まれたり、喜界島でヤギの内臓と野菜を炒めた料理「からじゅうり」を食べて滋養まんたんのヤギパワーに満たされたり、与論島にあるまぼろしのビーチ「百合が浜」でゆったりと寄せる波に足をひたしながら「このまま溶けていくのも悪くない」と思ったりしている。

このように紹介していくと、読者の頭の中には「いわゆる女子旅エッセイみたいなものかな?」といったイメージも湧いてくるかもしれない。なんでも「女子」とか「ガール」をつければいいってものでもないだろうが、近頃では「焼酎女子」なる言葉まで生まれているらしい。

しかし、その印象は当たりでありハズレでもある。

この『あまみのあまみ あまみの香り』という本は、「女性×地元の焼酎」というやや意外感のある組み合わせが趣向として面白いわけだが、実は文章(ものの見方)の中に、推定30%くらいの“男子感”がブレンドされている気がする。

そして、そのことで読み物としてのコシがグンと強くなっている。随所にワイルドなキレがあり、ときに「スカっと男前」な匂いさえ漂うというか、そこが本書の隠し味となっている。

思うに筆者は、絶妙なバランス感覚で「女子」と「おっさん」のあいだに立っているのではないだろうか。その理由はやはり、この本のメインテーマが酒、しかも焼酎(蒸留酒)ということにありそうだ。

私も昨年、とある球磨焼酎の酒蔵の写真集づくりをお手伝いして、焼酎というものを痛飲&痛感したので想像できるが、お酒はその地域の歴史や風土、代々のつくり手の魂的なものが、大げさではなくあの液体の奥深くにギュッと濃縮されており、よそ者がそう簡単に理解、あるいは出入りできるものでもなかったりする。スピリッツ(蒸留酒)である焼酎は、その力がさらに濃い気がする。

そして酒の本は、文章にもその酒のような味わいが求められる。それと同時に、本書でも「サイエンティフィックな酒造り」を目指す蔵元が登場するように、実際その味の決めるのは科学や技術だったりするのだ。つまりロマンや情緒だけでは酒は語れない。

ゆえに文系と理系のバランスも大切で、読んで楽しめるだけでなく資料としての使用にも耐えうる中身でないと本として長持ちしない(各酒蔵の造りの特長やテクニカルな解説では、くっかるがいい仕事をしている)。


空から見た与論島(写真:鯨本あつこ氏提供)

もちろん、女性であれ男性であれ、文系であれ理系であれ、飲むだけならおいしく速攻でパラダイスに行けるところが、人類普遍のハッピーツールである酒の魅力。

でも、「カラダ」が知っているはずのそのおいしさや香りを「コトバ」で再現するのはとても難しい。実際、鯨本さんもあとがきで「これまで書いたどんな原稿よりも難しかった」と述べている。

それらのハードルをクリアするために、おそらく3年の月日が費やされることになったのだろう。奄美群島にある25か所の酒蔵全部をめぐるとなると、取材自体もなかなかハードだが、なによりものの見方や文章に熟成がいる。

酒だけでなく、書くだけでなく、キチンとした仕事は時間がかかる。

「じゃぼじゃぼと味がわからなくなるくらい大量の水でアルコールを割ってお客さんに出してもわりかしOK!」なノリで書かれることも多いネットの記事と異なり、いまの時代、せっかく紙に自分の感じたことを刻印するのなら、やはり文章からふくいくと、「蒸留したての原酒」のような甘みや香り漂う読み物にしたいものだ。

そうやって作り手サイドのことを想像していくとこの本からは、ある人の仕事への向き合い方みたいなものまで香ってくる。

飲んでも飲まれない。そのバランス感覚を仕事に


日本に約400ある有人離島専門のメディア「リトケイ(離島経済新聞)」 を運営する鯨本さんには、幸いこの難しい仕事をモノにするふたつの強みがあった。

ひとつは言うまでもなく、離島に独自のネットワークを築いていること。

私も彼女のお声がけで、「石垣島クリエイティブフラッグ」という地域振興プロジェクトの手伝いを2年前からしているが、そこでの鯨本さんの立ち居振る舞いを見ていると、島のコミュニティにすっと溶けこんでいるようでいて、半歩くらい引いた目で周囲をクールに観察していることもわかる。どっぷりとお邪魔しながらベタッと同化せず、よそ者としての立ち位置もキープできるバランス感覚がある。

実はそれができるか? は「編集者」という仕事のリトマス紙でもある。編集に限らずいい仕事、人の関係はちょうどいい距離から生まれてくると思う。

ふたつ目として鯨本さんはめっぽう酒に強い。妊娠出産をきっかけに近頃ではそのシーンからちょっと遠ざかっているようだが、何年前だったか? トークショーのゲストをお願いしていたら、「朝までコースでそのまま来たんですよー」と何食わぬ顔でケロッと言っていた。

私が仕事でご一緒する女性編集者はそのタイプの人が多いが、ようは飲んでも飲まれない。仕事の上でもそのスタンスは大事で、何かを「飲ま」なければ仕事は始まらない。だけど「飲まれ」てしまうとただフワフワと、「やらされてるだけ」みたいな気持ちになってしまう。

そういった意味で、鯨本さんは頼もしくも繊細な”男前のアネキ”なのかもしれない。だから、出版社の社長から「奄美の本を出したいねん」とオーダーされた鯨本さんは、あえて焼酎というハードボイルドなテーマに挑んでみることにしたのだろう。そこは著者も自問自答したようだ。

「奄美群島を知りながら、黒糖焼酎を知るのか。
黒糖焼酎を知りながら、奄美群島を知るのか。

前者の奄美群島を紹介する本はたくさんあるので、一冊くらい後者があってもいいんじゃないかと。そこで、くじらはくっかるを誘い、奄美群島の島々と黒糖焼酎の魅力をまとめることにした。」(本書より)
 

さらっと書かれてはいるが、こんなディテールにもバリバリの現役編集者らしいシャープな直感とバランス感が宿っていると私は思う。それにしてもこのバランス感覚を鯨本さんはどこでゲットしたのだろう?

ほぼ全ページにわたって掲載されている、筆者の手による漫画が本書のもうひとつの魅力でもあるが、そもそも鯨本さんはイラストレーターを目指して九州から上京、その後なぜか出版社で広告ディレクターになり、かと思うと起業して「離島経済新聞社」を立ち上げ、会う人だれもが思わず3度見するほどノッポな旦那さんの地元である那覇に移住し、いまは子育てをしながら島を飛び回っている。

その行動力はどこから来ているのだろう? 会社を辞めるのはコワくなかったのだろうか? 1日に何時間くらい働き、どんなスケジュールで動いているのだろう? 自身の「働き方」や「仕事」をどう考えてきたのか?

11月からここで始まる新連載では、そのあたりの物語をキリッとふんわりした文章で執筆してくれるだろう。男女を問わず、酒好きかそうでないかも問わず、「何かを始めたい人」「ワクワクしたい人」「仕事をきっちり楽しみたい人」に読んでほしい。


鯨本あつこさん(左)
読みもの&連載もの: 2016年10月28日更新

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