【記事修正アリ】日本で3人だけの銭湯絵師—スキマな仕事から見える世界vol.9—

銭湯の壁一面に描かれた富士山を見上げつつ、「いい湯だなぁ」とゆったりくつろぐ。特にこれからの季節、たまらない瞬間です。

この「銭湯富士」と呼ばれるペンキ絵を描く「銭湯ペンキ絵師」は、現在日本に3人だけと言われています。そのうち1人は、大学生のときに出会った絵師に弟子入りを希望し、足掛け9年で絵師となった田中みずきさん。田中さんは初の女性銭湯絵師とのこと。

参照記事:「日本に3人しかいない銭湯ペンキ絵師のひとり 田中みずき×星野佳路の対談を公開(「星野リゾート」ニュースリリースより)

田中さんは映画「シン・ゴジラ」とコラボして、大田区のとある銭湯にゴジラの絵を描いたことでも話題になりました。

銭湯絵は大正時代のニューメディア


銭湯といえば、描かれているのは富士山が一般的…というのは、実は東京中心の常識のようです。調べてみると、関西ではそもそも絵が描かれていることすらあまりないのだとか。

では、なぜ東京の銭湯で富士山の絵が広まったのでしょう? 

東京千代田区のJR水道橋駅から徒歩数分のビルの玄関脇に「銭湯に初のペンキ絵」と記したプレートが掲げられています。ここにあった「キカイ湯」の富士が初の銭湯ペンキ絵とのこと。1912年(大正元年)、銭湯の主人が静岡県出身の画家に依頼して描かせたところ評判となり、これにならってほかの銭湯も思い思いの絵で客を楽しませるようになったといいます。

そこに目を付けたのが広告会社。絵の下のスペースを銭湯から借り受け、近隣商店の広告を掲載するという新たなビジネスが生まれました。銭湯のペンキ絵は広告メディアとなったのです。

当時、広告会社は専属の絵師を抱え、年1回の広告料改定に合わせて無料で絵を描き換えるというシステムになっていました。これが銭湯絵の普及を加速したそうです。

ちなみに現在は広告ビジネスが廃れてしまったため、3~4年に1度、銭湯経営者が絵師に直接依頼して描き変えているのだとか。東京都浴場組合のサイト「東京銭湯」によると、2013年で東京都内の銭湯は約706軒。それにしてもなぜ富士山ばかり描かれるのか? 

調べてみると、都内でもレインボーブリッジが描かれた銭湯(現在閉店)など富士山以外をモチーフにした銭湯絵もあるようです。しかし、銭湯といえば頂上に雪をかぶった富士山の絵が一般的。それは、子どもからお年寄りまで、だれにでも受け入れられる題材だから、という理由があるようです。

こうした銭湯富士が描く季節は春~初夏がメインで、手前に海や湖を描くのが基本。そうすることで、湯船と絵が空間的につながっており、富士山の清らかな水が銭湯の湯船まで満たしているかのように思える趣向です。

ちなみに、紅葉・夕日・猿は、「落ちる」「沈む」「(客が)去る」を連想させ縁起が悪いとされるので、銭湯絵のモチーフとしてはタブーとされています。赤系の色も、お湯が熱いように見えるので敬遠されていたようですが、現在は朝陽を浴びるめでたい縁起物として「夜明けの富士山」を描く銭湯も存在するなど、その描き方も様々です。

初の女性銭湯絵師が描くゴジラ


では実際に、銭湯のペンキ絵はどうやって描いていくのでしょう? 田中みずきさんの場合、まずは浴室の配置や大きさをふまえて、デザイン画を作成します。作業ができるのは週1回の定休日のみ。道具類を浴室に運び入れた後、絵を描くために壁の養生や足場づくりを行います。

足場は描く場所ごとに組み替え、高いところはハシゴを立てかけての作業となりますから、けっこう体力がいると思われます。

描く準備ができると、まずは壁面の下地を整える作業。古い絵の上にそのまま新しい絵を描くのが原則ですが、古いペンキがめくれたり剥がれかかったりしていると絵を描けないので、スクレーパーという金属のヘラのようなものを使って取り除きます。下地を整えたら、富士山や周辺の山の稜線など下書きをしていきます。

その後、3原色(赤・緑・青)と白のペンキを混ぜ合わせて色を作り、刷毛やローラーで塗っていきますが、絵師によってはこれ以外の色を用意することもあるそうです。

大抵は男湯、女湯の壁がひとつながりで1枚の絵になっており、描き始めてからの制作時間は長くて10時間ほど。富士山はどちらかに寄せて、描きかえるタイミングで位置を交代することが多いようです。

冒頭でもふれたように、日本には現在、3名の銭湯ペンキ絵師がいます。丸山清人さん、中島盛夫さんら2名のベテラン絵師に加え、3年ほど前に3人目かつ「初の女性絵師」が誕生しました。田中みずきさんです。

田中さんは大学生時代に銭湯絵に魅せられ、「この文化を引き継いでいきたい」と中島盛夫さんに弟子入りを打診。断られながらも手伝いをはじめ、見習い期間9年をへたのちデビューしました。

そして今回、田中さんが映画「シン・ゴジラ」とのコラボ企画で描いたペンキ絵が巷で話題になっているのですが(「大田黒湯温泉 第二日の出湯」)、ゴジラだけでなく、羽田空港や多摩川、池上本門寺、かまたえんの屋上観覧車、商店街など大田区の風景も描かれているそう。もちろん、お約束の富士山も描かれています。

どんなゴジラなのか? 以下の記事ではメイキング動画も公開されています。
★ゴジラ 東京の銭湯に出現…女性絵師が壁画

「大田黒湯温泉 第二日の出湯」(定休日:水曜)と言えば、蒲田の天然温泉として知られる有名な銭湯ですね。このゴジラは2016年11月初旬まで公開されていました。

※当記事に関して事実誤認がある旨、ご指摘をいただきました。修正の上、関係各位にお詫びいたします(「シゴトゴト」編集部)。

(参考記事)

★江戸の粋!「銭湯富士」100年の歴史
★ペンキ絵師・田中みずきが語る銭湯ペンキ絵

記事:島田綾子(シゴトゴト編集部)
読みもの&連載もの:2016年10月07日

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