“魔法使い”落合陽一「仕事」を語る(中編)ー勉強より研究を。オタクではなく変態であれー

計算機文化学者でメディアアーティストの落合陽一さん(筑波大学助教授ほか)へのインタビュー中編です。

前編はこちら→“魔法使い”落合陽一「仕事」を語る(前編)ーAIの時代にギリギリ自分らしく生きるために必要なことー

「自由な意志なんてないほうが人は幸せになれる」「すでに社会はアルゴリズムで動いている」など、前回は考えようによっては「人間ピンチ!」な話でしたが、では、そんな時代に自分らしく生きる方法ってあるのか? それともないのか? “現代の魔法使い”こと落合さんと、引き続き「AI時代の働き方」を考えます。

聞き手:河尻亨一(銀河ライター/東北芸工大客員教授/仕事旅行社キュレーター)
撮影:内田靖之(仕事旅行社・旅づくりニスト)※冒頭写真、落合氏の作業風景はデジタルネイチャー研究室提供。

「うなぎ」でも「猫砂」でもいい。ニッチから攻めろ


ーーインターネット時代には、ほとんどのビジネスがレッドオーシャンに飲み込まれていき、競争相手だらけの世界になるといったお話でしたが(前編)、ネットにはもちろんいいとこもあるわけですよね。

で、いいことのほうで言うと、「これセカ」(『これからの世界をつくる仲間たちへ』)でも紹介されてた「うなぎトラベル」みたいなビジネスっていうのはどうなんでしょう? 「うなぎトラベル」さんは仕事旅行のホストも引き受けてくださってますけど、ぬいぐるみ専門の旅行会社というのはオリジナルな価値も高いのでは?


落合:いままでならニッチで仕事にならなかったことが仕事になるんです。そういう仕事を選んでも、暮らしていける程度にはいろんなことをしても大丈夫になってきてはいます。

いままでならニッチは生きづらかったわけですけど、インターネットによってすべてがグローバルニッチになってますから、可能性としては70億人を相手にビジネスができる。つまり少数派にしか受け入れられないアイデアでもある程度なら戦うことができます。日本の1億人が相手なら100万円しか儲からないビジネスでも、70億人なら7000万円になるかもしれない。

ようは、ニッチが主流になることはないんですが全滅することもない。人間って何かしらの才能があるはずで、それを殺さない程度にはインターネットのサポートは強力だってことですよね。

ーーその才能を活かすためには、ゼネラリストじゃなくて何かのスペシャリストになる必要があるということですね。

落合:専門性は重要なことですね。

ーーでも、ゼネラリストとして働いてる人がいきなりスペシャリストになるのは難しいような気も。

落合:それこそニッチから攻めるしかないですね。例えば猫砂とかから。

ーー猫砂…またなんで?(笑)。

落合:いや、テキトーに言っちゃったんですけど(笑)、例えば家で猫飼ってる人だったら、猫砂から攻めてみるとか。ニッチなもので攻めていくんだったら、自分の持ってるものを切り崩して専門性を見つけるしかないという意味で。

ーーその人しかできない専門を掘り下げていける人は強いんでしょうね。本の中に出てきた「勉強と研究の違い」という話も面白かった。

落合:「勉強と研究の違い」は自分でもけっこう気に入ってるところで、ようするに教科書を読むのが「勉強」で、教科書を作るのが「研究」なんですよ。

以前はたんに勉強してればよかったんですけど、今世紀にはニッチでもいいからある領域の教科書を自分で作れるくらいにならないと意味がなくて。ただ、そうなってくると必要な努力量が全然違いますよね。教科書作るのは結構エネルギーいりますから。コンピューターのおかげで作業量自体は減ってるから、昔よりやりやすくはありますが。


落合陽一氏

ーーそれこそ思考体力のある「変態」にならないとダメなんでしょうか(笑)。「変態」というあの言葉の選び方も興味深い。著者によっては「おたく」などと書くんじゃないかと。

落合:本当は「ギーク」って言いたかったんですよね。でも日本で「ギーク」って言うと、なんかガジェット好きみたいな感じもするから、それを日本語にするなら、性癖や人間性の面が感じられる「変態」という言葉のほうが僕は近いなって思ってるんです。それで「変態」にしてみたんですけど。

ーーなぜこれからの時代は「変態の未来は明るい」のか? 少し解説していただきたいのですが。

落合:「変態」というのはその人間に固有の性癖を持ってるってことですね。「おたく」っていうのは性癖は関わってこないもので、だいたいはマスメディアによって形成されてるんですよ。「アニメおたく」とか「アイドルおたく」とか、全部マスメディアが生んだものですから。

でも「ギーク」っていうのは、マスメディアに関係ないんですよね。個人の異常な執念から発生するというか(笑)。

人間がドライブされるのはマスメディアがあった時代はマスメディアかもしれないけど、いまはインターネットによってドライブされている状態が続いているわけで、いろんなことがどんどん変わっていかざるをえないと思いますよ。

エジソンはメディアアーティストだった!?


ーー「魔法の世紀」における働き方がどういうものなのか、おぼろげにはイメージできてきましたから、今度は落合さんご自身の働き方のお話も。研究室での創作や学生の指導だけでなく色んな面白そうな仕事をやってらっしゃるわけですが、こうなると職業欄に書く肩がきはやっぱり”魔法使い”ってことになるんでしょうか?(笑)

落合:いや、それはメディアが言い出したことで(笑)。自分から言ったことはないんです。僕が仕事としてやってるのは、どちらかと言うとメディアアートですから。

ーーメディアアートをやろうと思ったのはなぜ?

落合:コンテンツの消費速度がもう鬼のように早いですから。こういう状況を考えたときに、メディアアーティストのほうがコンテンツを作るアーティストよりも時代性が高いと思うわけです。

メディアアーティストがどういう職業なのか? ってことはなかなか定義しにくいんですけど、一番わかりやすいのはたぶんエジソンなんですよね。

なぜかと言うと、エジソンって蓄音機を作り、電話の研究をした後で映写装置を作ったり、何かひとつのことに縛られることなく、様々なメディア装置をどんどん開発していったわけですけど、彼がやったことってようするに、「人間と人間がどう通信するか?」「どう対話するか?」「コンテンツをどう見だすか?」という枠組みにおけるイノベーションなんです。

で、そのほとんどの仕事が、エネルギーをメディアに還元するにはどうしたらいいか? という関心から出発している。そこから出てくる発想は極めてメディア的なんですが、まだコンピューテーショナルじゃない時代だったんです。

しかし、いま我々はコンピューテーショナルな時代を生きているわけですから、インターネットで共有可能な、また違う原理で動くものを作ることができる。例えば自然界には存在しないレーザーというものを使ってホログラフィーを作ったり、音響でホログラムを作ったり、僕はそういうものを研究しているんです。

なぜそれをやっているかと言うと、エジソンが光と影、運動とエネルギーによるメディア装置を開発していたとすれば、そことの対比として、どうすれば波動と演算、コンピューテーショナルな処理系によってメディア装置を成立させられるのか? ということなんですが。

エジソンも「メンロパークの魔術師」って言われましたが、いま彼の発明を見れば、全然魔法じゃないんですよ。それはなぜかと言うと、みんなが仕組みを知っているから。いつの時代も、仕組みがわからないメディア装置は魔法に見えるという特徴がありますから、それを作っている人はだいたい魔法使いと呼ばれます。でも、実際には魔法を作っているわけではないんですね。

声が遠くに行ったり、スクリーンに投影したカラダが大きくなったり、それって人間の感覚的な欲求から出てきたものじゃないですか。それを形にするのがメディア装置というもので。いまの時代で僕はメディア装置の探求を行っているんです。


研究室で作業する落合氏(デジタルネイチャー研究室提供)

ーー欲望をテクノロジーで拡張してきたのが人類の歴史でもあるわけなんですけど、その歴史の中で僕たちはいまどこまで来ているのか? あるいは落合さん自身が何に関心があるのか? についてもう少し教えていただきたいと。例えば落合さんは「映像とマテリアル」をテーマにしてらっしゃいますよね。巷ではIoTとかさんざん言われているわけですが、物質はどうなっていくと思いますか。

落合:マテリアルはよりコンピューテーショナルなものになっていくでしょうね。ようはどう見ても計算機ではないが、計算機みたいなマテリアルがいっぱい出てくる。コンピューターで一度処理することで、自然界に存在しない不思議な動きをするものがあってもいいし、見る角度によって違う形状に見える物体があってもいい。

今後、そういうものばかりになっていくはずなんです、世の中って。マテリアルがどんどん操作できる時代ですから。映像の中ですでに我々はあらゆるものを操作してきましたので、今度はどうやってそれを物理世界で起こすか? というのがわりとトレンドではあります。

ちょっとムカつく! くらいが仕事ははかどる


ーーネットに載ってる落合さんのラボの事例映像を見たんですけど、超音波で物が中に浮くとか、触れる空中ディスプレイとか、まさにマジカルですね。


「Three-Dimensional Mid-Air Acoustic Manipulation」(2014)超音波を使ってものを浮かすだけでなく3次元的にコントロールもできる(youtubeより)


「Fairy Lights in Femtoseconds」(2015)レーザーで空中に三次元の像を描き、それに触れる感覚も得られる(youtubeより)

落合:いま、学生さんとやってるプロジェクトが20個くらいあって、そのうち昨日締め切りだったのが16本。それを一気に片付けないといけなかったので、昨日は筑波で徹夜作業でして。海外の難しい学会に出すのはなかなか大変です。

うちのラボは、ディスプレイ、マテリアル、ヒューマンコンピテーションという3つの枠組みの中でやっています。わかりやすく言うと「コンピューターは人間や物質をどこまで制御できるか?」ということに関わってくる研究です。

ヒューマンコンピュレーションの研究をし始めたのは、ここ2年くらいなんですけどね。世の中にあるマジカルな道具って「人間を使う」んです。人間が道具の使い方を考えるのではなく、道具が人間の使い方を考える。そのほうがいま風だしインターネットぽいなと思って。

ーーそれにしてもなかなかの仕事量ですね。そうやっていっぱい仕事するのはなぜ? やっぱりやりたいから?

落合:いやあ、なんなんでしょう? 研究はそこそこ楽しいですけど。

ーーこの記事を読む人はほとんど研究者やメディアアーティストではないですから、少し引いたところから、仕事のモチベーションってどこから湧いてくるのか、といったご質問もしてみたいと。

落合:まあ報酬系は自分でデザインするしかないから。自分が「何を楽しいと思うのか?」っていうのは、当たり前ですけど極めて自分の問題で、そこにつきますよね。

ーーもちろんどこまで行ってもそうなんですが(笑)、やる気が出る報酬系をいかにデザインするかに関して、ヒントというか、糸口みたいなものがあれば是非。

落合:それで言うと、学生を指導するときによく思うのは、「どうやったらこいつ楽しくなるんだろう?」ってこと。そのあたりを見てタスクは決めてます。で、「ちょっとムカつく」くらいがちょうどいいみたい(笑)。

ーーちょっとムカつく? 学生さんのほうが?

落合:そうです。世の中のことにちょっとムカついて、なおかつ手が動いちゃう状態が一番よくて、そのくせ社会がそれを褒めてくれる状態。そこにどう持っていくかは鍵になる気はしますよね。そのとき一番楽なのは、例えば国際的な賞みたいなものに応募するとか。そういう場所で認められるとうれしいじゃないですか。

そういうものを報酬系にして、たまに賞をとらせてあげればいいんですよ。ボスが。でも、その場合やっぱりボス側に力がないとできないし、すべてをお膳立てしすぎてもやる気がなくなっちゃう。プロジェクトが自分の手を離れちゃってる感じになるので。

ようは自分が最大に意思決定している感覚が重要で、そのあたりを自分でもわかると、報酬系のデザインはやりやすんじゃないかと思います。

ただ、そういうのはたいてい一人だとできないですからね。その意味では仲間を見つけることはやっぱり大事なんじゃないかな? 自分よりすごい人が一緒にいて、そういった状況から生まれたことの成果を自分ごととして喜べると、それは報酬系として機能する。うちの研究室にはニッチな人しかいないんですけど、ほんとわけわかんなくて面白い。そのニッチさは大切にしたいですね。

後編はコチラ→“魔法使い”落合陽一「仕事」を語る(後編)ーロールモデルなき魔法の世紀を淡々とサーフィンするー

Profile

落合陽一(おちあい・よういち)
メディアアーティスト/博士(学際情報学)。東大院修了後、筑波大学助教、デジタルネイチャー研究室主宰。経産省よりIPA認定スーパークリエータ、総務省より異能vationに選ばれた。応用物理、計算機科学、アートコンテクストを融合させた作品制作・研究に従事。BBC、CNN、Discoveryなどメディア出演多数。国内外の論文賞やアート、デザイン賞など受賞歴多数。

Interviewer

河尻亨一(かわじり・こういち)
銀河ライター/東北芸工大客員教授。雑誌「広告批評」在籍中に、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。仕事旅行社ではキュレーターを務める。
あの人が語る仕事論:2016年10月17日

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