手作りの道具に囲まれた工房で――木彫り職人になる旅【仕事旅行体験レポ】

今回訪ねたのは、東京都大田区にある前島木彫所。神輿や神社、欄間などの彫刻を代々手掛けてきた彫刻師の工房です。4代目の木彫り職人・前島秀光さんのもとで体験した仕事旅行の様子をレポートします。

「道具さえあれば、だれにだって作れる」


前島木彫所は蒲田から3駅、東急池上線千鳥町駅を下車して徒歩3分ほど歩いた住宅街にありました。呼び鈴を押すと、中からは「どうぞ!」と大きな声。

扉を開けると、玄関には船の造形のオブジェや器といった木製品が目に入ります。にこやかで元気な前島さんの声に招かれ、客間に入りました。

「不思議なもので、活気があるところには仕事が来るんですよ。だから昔から、電話に出るときも大きな声を意識しています(笑)」(前島さん)

木彫りということもあり、とっつきにくい“職人さん”をイメージしていたので、前島さんの快活な人柄に少し驚きました。そんな印象を率直にお伝えしてみると、前島さんはこう言います。

「口数が少なく、何を考えているのか分からないほうが、職人らしいと思ってるんじゃないですか?(笑)取っつきにくければ、なめられないだろうと。意識してそう振るまってる人も多いんですよ」(前島さん)

「厳格な職人」イメージを打ち壊すような、気さくなトークでリラックスさせてくれる前島さん。しかし、その後地下へと階段を下り工房へ移動すると、やはりここは「職人の仕事場」なのだと思わせられました。

まるで秘密基地のような空間が広がっています。壁一面に見慣れない道具が何十個も並んでいる様子に、思わず「わぁ…すごい」と声が漏れるほどでした。



この仕事体験では「角盆」「トレー」「カッターの持ち手」のうちから好きなものをひとつ選んで作ることができます。今回はカッターの持ち手を選択。見本に見せていただいたものがあまりにもカッコよく、悩んだ末に決めました。

器用ではない自分にホントに作れるでしょうか?

まずはいままで見たことないような小さな鉋(カンナ)で、おおまかな形を削り出していきます。親指くらいのサイズのこの鉋は前島さんの手作り。見た目がカワイイだけでなく、とにかく削りやすい! この鉋を使うと木がみるみる削られていき、指が痛くなることもありませんでした。



この鉋だけでなく、前島さんは多くの道具を手作りしているそうです。

「ほしい道具は自分で作るのが僕のやり方で、使いやすいようにそれを手入れするのが仕事の基本です。ちゃんとした道具さえあれば、だれにだって同じように作れますよ。でも、どんな道具をどう使えばいいか、ふつうは知らないでしょう? それを知っているのが私たち職人です」

と言いながら、手ほどきをしてくださる前島さん。仕上げていく際のコツを惜しげなく伝授し、「ほら、手作りって楽しいでしょう?」とこちらの気持ちを盛り上げてくれます。



昔の人は、もっと木を知っていた


もちろん実際は「だれだって同じように作れる」わけではありません。前島木彫所のウェブサイトでは、茶道具などの伝統工芸品から帆船といったモダンなデザイン木彫りまで数々の作品が紹介されています。

それらに施された超絶技巧。私には「100年修行しても無理」と思えるレベルです。なぜ前島さんは、初心者向けの体験講座や木彫り教室に力を入れているのでしょう?

「まず体験して楽しんでもらわないと、木彫りのことを知ってもらえないでしょう? 興味があって始めても、仕事になる人はほとんどいません。難しい世界です。だからこそ気軽に楽しんで、作りたいものを自由に作ってみてほしい。そのことで木彫りの魅力に気づいてもらえれば」(前島さん)

現代では「木のことをあまり知らない人が増えた」と前島さんは言います。その言葉からは、斜陽化する木彫り産業への危機感が伝わってきました。

代々続く前島さんの家では、かつて神社や神輿(みこし)、欄間(らんま)などの彫刻を専門としていました。こうした仕事は完全な受注制です。欄間などは家を建てる際にお客さんが自分で選んだ木材を持ちこみ、職人と密にやり取りしながら完成させていったそうです。

多くの人が木に愛着を持ち、知識も豊富でした。

しかし戦後には外国製の安価な木材が輸入されるようになります。そういった木を用いて大量生産される商品は、職人が作る木彫りとは質の上で一目瞭然の差がありますが、昨今ではそうした「違い」がわかる人も少なくなっているそうです。

作業のあいまにそういったエピソードもうかがいながらついに完成。「カッターの持ち手」がこちらとなります! 木蝋(もくろう)という自然素材のワックス材やクルミオイルで磨き、つやを出します。



「ね? 道具があればちゃんと作れるでしょう?」と笑顔の前島さん。うれしくて完成品をつい何度も見てしまいます。木彫りを身近に感じる半日体験となりました。

記事:島田綾子(シゴトゴト編集部)

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木彫職人になる旅~木彫りの世界に現代的デザイン感覚を。彫ってみることでわかるものづくりの魂~
仕事旅行ニュース:2016年09月12日

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