2016年09月14日更新

“元芸人”西野亮廣「仕事」を語る(後編)。ボケはツッコミを征す? 仕事にもっと笑いを

仕事旅行社がお届けする特別インタビュー連載。西野亮廣さん1万字インタビュー後編です(前編はコチラ→“元芸人”西野亮廣「仕事」を語る(前編)。初志なんて貫徹しなくていいんです)。

この10年来、お笑いの仕事をしながら絵本を何冊も描き続けている西野さんですが、その力はどこから湧いてくるのか? 何度炎上しても元気に嫌われ続ける秘訣は? ぶっちゃけの楽屋裏話も聞いてみました。

聞き手:河尻亨一(仕事旅行社・キュレーター/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授)
撮影:内田靖之(仕事旅行社・旅づくりニスト)

僕自身は“広告塔”みたいな感じです


――秋に出される絵本『えんとつ町のプペル』についてもう少しお話を。ブログやインスタグラムでも制作プロセスを公開されてますが、今回は協働制作なんですね?

西野:30人ぐらいで作ってますね。僕、それまでずっと一人で作ってたんですよ、絵本は。でも、「そういや絵本ってなんで一人で作らなあかんねんやろ?」って疑問もあって。

例えば映画とかだったら、監督さんから音響さん、衣装さん俳優さんまでいろんな方がいらっしゃって、それぞれの得意技を持ち寄ってみんなで作るじゃないですか?

バラエティ番組もドラマもそうだし、音楽のライブだってそう。漫画だってアシスタントさんいますよね? ほとんどのことが分業制で回っているのに、なんか知らんけど絵本は一人で作ることになってて。頑張っても「絵と文」で2人とかで。

でも、実際は絵をひとつとっても、空を描くことと建物を描くこと、キャラクターをデザインすること、光の当て具合を描くこと、微妙に「業務内容」は違うと思うんですよ。

で、得意な人がやったほうがうまくいくんですよね。それこそ星を描くのがめっちゃうまい人もいるでしょうし。だったら、分業制で作っちゃえばいいじゃんと思って。


西野さんがこれまで作ってきた3作の絵本(上段)と現在制作中の「えんとつ町のプペル」(下段)(キングコング西野オフィシャルダイアリーより)

――さっき(前編)の「肩書きはひとつで一貫しなきゃ」みたいな話と重なってきますけど、「絵本は一人で作るもの」っていうのも、ある種の思いこみかもしれませんね。それにしても「業務内容」と言ってるところが面白い。会社みたいで。

西野:ハハハハハ。でも「なんで分業制の絵本がなかったんだろう?」って考えたときに、そもそも絵本って5000部とか1万部でヒットって言われるようなすごく市場の小さいところだから、制作費をかけられないのかな? と思ったんです。人件費のことを考えると1人とか2人にならざるをえないんじゃないかと。

だったら、いまはクラウドファンディングもあるわけですから、「こういうのやるよ」ってネットに情報出して、ストーリーから絵コンテまで全部バラしたんですね。「これを分業制でやりたいんです。でも、それをやるにはお金がかかるんです」って。

そうやって支援をしていただいて1000万ちょっと集まったので、次にクラウドソーシングでイラストレーターさんを集めて作りはじめたと。

――次回作は人材だけでなく資金もクラウドなんですね。ところでお話うかがってると、西野さんは結構ロジカルタイプですよね。アイデア自体はとんがってますけど、その後の実現への道筋は順序良く組み立てていってるというか。「方法そのものから作ろう」みたいなところもある。そういうのは癖ですか? 子供の頃からの。

西野:いやー、僕ね、算数が好きなんですよ。ボードゲームとか将棋とかオセロもすごい好きで。

――いわゆる理系?

西野:だと思います。まあ、絵本は現実にはありもしないファンタジーを描いてるわけで、ある意味「嘘」を作っているんですけど、「嘘は一個だけにしとこう」みたいな。でも裏側は、超計算するみたいな。

あと僕自身はバカなんですけど、友だちはね、頭いいやつが多いですね。僕は“広告塔”みたいな感じで「これやろうぜ!」って言ってるだけで。

――でも、人の力を集結させたいときにはそういう人って重要で。そもそもなんで頭いい人たちが西野さんの周りに集まるんですか?

西野:酒ですかね、やっぱり(笑)。いや、みんな酒飲みで、僕んち酒いっぱい置いてるし、集まりやすいし、家遠い人だったら終電なくしたら「うち来る?」みたいな。泊まれるスタンバイもできてますから。

あとね、けっこう理不尽なんですよ、僕(笑)。「こうこうこうだから、こうしたほうがよくないですか?」って話をして、相手が「うーん、でも、こうでこうで…」なんて渋ったりすると、最後だんだんムカついてきて、「『うーん』じゃないですよ。なに『うーん』とか言ってんすか!? いまやるかやらないか教えてくださいよ!」なんて怒っちゃうとか。

あと僕、考えるのがめんどくさいんで、「今週中に考えといてもらっていいですか?」みたいな感じで他人に全部押し付けたり(笑)。だから何もしてないんです、僕は。理不尽なんですよ、非常に。一生懸命考えさせられたりすると怒りますから(笑)。非常に理不尽なんですけど、それで話が進むという。

よく笑いよくボケろ


――理屈っぽい性格と理不尽なキャラが同居してると。そこが「嫌われ西野」たるゆえんかもしれませんが(笑)、物事を進めるには、ある種の強引さも必要なのかもしれませんね。そう言えば「負けエンブレム展」っていうのも面白かったです。公募でダメだったエンブレムばっかり集めて、その中から面白いのを称えようという発想が。


西野亮廣氏と友人作成の五輪エンブレム(キングコング西野オフィシャルダイアリーより)

西野:あれもね、ムカついたんです。五輪エンブレムの再募集がかかって、ラスト4つが残ったときにテレビ見たら、「これもまた八百長じゃね?」みたいなことをタレントとかが言ってて。そういうの「ダサい」と思ったんですよ。何かヘンなことが起こったときに、ツッコんどけばいいみたいな空気が。僕、“ツッコミ”というのが、そもそも古いと思ってて。

――ツッコミはもう古い? それは面白い。もうちょっと詳しく教えていただくと。

西野:たとえば、バンクシーっているじゃないですか。イギリスのストリートアーチスト。あれなんて完全にボケアプローチだと思うんですよね。現代アートに対する。

現代アートって、よくわからないじゃないですか。筆で「一」みたいなの描いてるだけで100万円とか言われて、「えっ!?」ってなりますよね。

それに対して「よくわかんねえよ。なんでこれ100万もするんだよ?」なんてツッコむことは簡単で、だれでもできるんだけど、それってダサくないですか? なんでわざわざ大人が、脳みそ使ってそんなことやるんだっていう。

でも、バンクシーは違うんですよ。その辺に落ちてる石に落書きして大英博物館に勝手に展示して、そのまま2~3日気づかれなかったんですよね。警備員の人は普通にそれを守っているし、お客さんもそれを見て「ほうほう」みたいな感じになっている。

バンクシーがその状態から作ることによって、「実はアートなんてだれもわかってないでしょ?」ってことが見えてくるんですよ。言うならば、全体を俯瞰しながらボケアプローチでツッコめてもいる。

――つまり「ツッコみ」そのものが古いというより、条件反射的なツッコみはダサいということかもしれませんね。なぜならそういうのは笑えないから。

初代エンブレムに関して、僕は佐野研二郎さんから直接アイデアからデザインのプロセスまで聞いていたので、パクリではないということはほぼ確信が持ててたんですが、結局あの流れの中で大炎上になってしまい、このままではシャレにもならんなということで、「この状況をだれか『笑い』に変えないかな?」と思ってましたから。それであの「負けエンブレム展」というのは興味深く見てたんですよね。


西野:全部出揃った後に「やっぱ佐野さんのほうがよかった」っていうのもひどい話ですよね。お前らあんだけ批判しといて、みたいな。

でも、僕もマジで思ったんですよ。「最初のエンブレムって、結構いいじゃん」って。「負けエンブレム」を主催して、僕が見たのはせいぜい500案くらいですけど、あれが中に入ってたらひいき目抜きに「これいいね」ってことで選んだかもしれないと。

やってみて気づいたのは、エンブレムを募集すると9割くらい日の丸か、富士山、桜で、選ぶほうも食傷気味になっちゃうんです。でもみんな審査してないから、そもそもどういうものが集まった上で選ばれているか知らないんですよ。

なので「見える化」は大事だと思いますね。結局、「負けエンブレム」は審査をした僕がしんどかったから、「オレが優勝でいいわ」みたいなことにして(笑)。まあ八百長ですけど。そこも含めてシャレにしてやれみたいな。


西野亮廣さん

――「①友だちを大事にすること」、「②理屈と理不尽の両輪で前に進むこと」、「③ボケアプローチを大事にして炎上を恐れないこと」(笑)。お話をまとめると、だいたいこのあたりがプロフェッショナル・西野亮廣「仕事の流儀」かな? と思えたんですが、ほかにも何かありますか。

西野:うーん、あとは「よく笑う」ですかね。よく笑うとまず単純に話しかけられる回数が増えると思うんです。相槌も打ったり、話す回数も増えておしゃべりがうまくなる。ようは「笑わない人」よりも「よく笑う人」のほうが、打席に立ちやすい気がして。打席に立つ回数が増えれば、腕も上がりますよね。

――笑う人が多いほうが世の中が元気な感じがしますね。最近、街中などで笑ってる人を見かけることが以前より減ってるような気もしてたんですが。

西野:どうなんでしょう? 日本人があんまり笑わないとは思わないですけどね。僕自身はね、ほかの芸人さんが出てる単独ライブ見てゲラゲラ笑って、超おもしれえなんて思うんですけど。

ただ、さっき言ったバンクシーみたいなアプローチで作ってる人はあまりいないし、そういうことへの理解も少ない気はしますね。なんか10年くらい前で止まったまま、ずっときてる感じがある。未だにクラスの後ろでツッコんでるヤツがいけてるみたいな空気がありますけど、もうそんな時代はとっくに終わっていて。

僕は芸人が一番好きですから、全部が全部古いなんて決して思わないですけど。でももっと、ボケたほうがいいですね。特に情報を発信する人は。なぜならもう国民がちゃんとツッコんでくれますから(笑)。

いずれにせよ、もっと選択肢があったほうがいいんですよ。お仕事でも。たとえば僕も「みんなひな壇に出てるんだからお前もひな壇出た方がいいよ」ってすごく言われて。

で、わかるんですよ、それ。すごく気持ちはわかるんですけど、僕はひな壇では勝てないんですよね。だから、ひな壇に出る芸人さんがいていいし、それと別の活動をする芸人さんだっていていい。グルメ番組に出る人出ない人、もう「全部ありじゃん!」にしていかないと前に進んでいかない感じがして。

プロに勝てる方法を考えてから試合を始めた


――それと同時に、仕事は持続できることや実力があることもやっぱり大事で、たとえば西野さん、描く絵がやっぱり独特の力ありますよね。絵本1冊作るのに何年もかけてると聞いたんですが。

西野:25歳のときに一回テレビの仕事やめようと思って、「どうしようかな?」と考えていたら、タモリさんに呼び出されて、「お前、絵を描け」と言ってくださったのがきっかけなんですけどね。

ただ、僕、絵なんて勉強したことないんです。得意でもなんでもなくて。でも「お前の性格だったら絵描けるから」と言われて。

で、そのときひとつ決めたのが、「他流試合はしない」ってこと。最低ラインとして、「あいつ芸人で絵本描いてるけどプロに勝ってるよな」って言われるレベルまで持っていかないといけないと思って、「この方法ならプロにも勝てる」やり方が見えてから試合を始めようと。

「芸人のくせに」とか「芸人だから出せたんでしょ?」なんて言わせたくなくて、そこはつぶしときたかったんですよ。

でも、「どこなら勝てるかな?」って考えると、画力は負けてるし、出版のノウハウ、コネやツテもないし、プロの人に負けてるところだらけだったんですけど、ひとつだけ、「絵を描くことにかける時間だったらプロに勝てるな」って思ったんですよ。絵本を生業にしてるわけではないので、極端な話、1冊に10年かかったっていいわけです。

――それであんなに細かく描きこんでいくスタイルなんですね。そうやって時間をかければかけるほど、ほかにないものになっていきそう。

西野:僕、文章のほうが好きだから、絵だけには興味がなかったんですけどね。でも、テレビをめっちゃ頑張って、次は海外に行けるようなことをしたいと思ったときに、言語だけだとヤバいと思って。絵本だったら抱き合わせで行けるから、やっちゃえと。


『嫌われ西野、ニューヨークへ行く』(宝島社)

ーー海外での活動に興味あるんですね? 『嫌われ西野、ニューヨークへ行く』という本も出されてましたけど。

西野:25歳の頃から、「ウォルト・ディズニー倒したい」って言ったんですよ。ハッピーエンドなファンタジーで人の心を動かすことがやりたくて。

でも難しいんですよね、それって。たとえば、白血病で主人公が死ぬみたいな物語だったら泣いちゃいますけど、ハッピーエンドは共感を得にくい。でも、そこをやって勝ったほうが、勝ち方として気持ちいいみたいな。

なんか一番難しいことをすげえ簡単にしたいと思っていて。で、一番難しいことってなんだ? って思ったときに、エンタメが一番難しいんです。

ーーそれで「打倒ディズニー」が目標なんだと?

西野:ディズニーもそうなんですけど、やっぱ一番大事にしないといけないのって、僕らの場合だったら、お客さんを楽しませたり笑わせることじゃないですか? そのとき目の前にいる人を幸せにしてなんぼの仕事なんですよね。

そのときに「初志貫徹」っていう考え方が、不純な気もして…。人の気持ちは変わるし飽きることだってあるのに、昔の自分に縛られてしまっているのはどうなんだろう? と。自分の見られ方を優先して、もうすでに熱もない状態なのにおんなじ活動続けているのは、お客さんに対して詐欺みたいな話ですよね。

初志貫徹という言葉、あれだれが作ったんかなあ? たとえば僕が支配者で、下のやつが出てこないようにしようと思ったら、初志貫徹って言葉を作ると思うんですよ。邪魔されたら困るから。あれ、人を征服するのにすごい便利だと思うんです。

ーー初志を貫徹してくれてる限り扱いやすい面はあるでしょうね。真面目で純粋なんで予想外のことはしないでしょうし反則もしない。でも、イノベーションみたいなことは起こしにくい。

西野:もちろん、そのまま行ける人もいますよ。イチローみたいに小学校から野球で行けちゃうのも素晴らしいと思うんですけど、そうじゃないんだったら一回無視ですね。一回無視。学校の先生の言葉は一回無視です。嘘ばっか言うんですもん、先生って(笑)。


取材風景

Profile

西野 亮廣(にしの・あきひろ)
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。1980年兵庫県生まれ。1999年梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。総合芸能学院(NSC)在学中である2000年にNHK上方漫才コンテストにて最優秀賞を受賞。テレビで活躍する一方、ソロトークライブや舞台の脚本、絵本執筆を手がける。2016年8月に自著『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』を出版。秋に共同制作の絵本『えんとつ町のプペル』出版予定。

Interviewer

河尻亨一(かわじり・こういち)
銀河ライター/東北芸工大客員教授。雑誌「広告批評」在籍中に、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。仕事旅行社ではキュレーターを務める。
ロングインタビュー: 2016年09月14日更新

メルマガ登録いただくといち早く更新情報をお伝えします。

メルマガも読む

LINE@はじめました!

友だち追加
このページを気に入ったらいいね!しよう
はたらく私のコンパス《170種類の職業体験》 
あわせて読みたい

Follow Me!


PAGE TOP