“元芸人”西野亮廣「仕事」を語る(前編)。初志なんて貫徹しなくていいんです

仕事旅行社がお届けする特別インタビュー連載。第1回目のゲストは西野亮廣さんです。

お笑いコンビ「キングコング」の活動をはじめ、絵本執筆から独演会、落語にパインアメ特命配布主任などなど、あの手この手の芸で楽しませてくれる西野さん。8月には「働き方」に関わる本も上梓したとか。ステージ後の「楽屋仕事話」(前編)です。

聞き手:河尻亨一(仕事旅行社・キュレーター/銀河ライター/東北芸工大客員教授)
撮影:内田靖之(仕事旅行社・旅づくりニスト)

すべての職業には寿命がある


――西野さんは8月に『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』という書籍を出されましたので、まずはその本のお話から。「新しい仕事の広げ方」から「本当のお金の話」「常識の覆し方」など、働き方に関わってくるトピックがてんこ盛りですね。

西野(亮廣さん※以下、西野):むっちゃ分厚くなっちゃったんですよ。主婦と生活社さんの担当の人が、「そういうのやりましょうよ」って企画してくださって。

でも、僕がビジネスや仕事論みたいなこと書いたりするわけでしょう? 「そんなん興味持ってもらえるかな?」って思いつつ、でも企画してくださったということは、「どっかに求めてくださってる方もおんのかな?」と思って書いていったら、すげえ分厚くなっちゃったんですね。


『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』(主婦と生活社)

――カテゴリーに入れるのが難しい本ですよね。エンタメでもなければ、いわゆるビジネス書でもなく。

西野:うーん、微妙ですよね。お仕事のことも書いてるし、ロボットのことも書いてるし。

――ロボット好きなんですか?

西野:いや、人が好きなんです。一番好きなのは人で。

人が楽しそうにしてるのって見てて気持ちいいじゃないですか。うちのばあちゃんがそうだったんですけど、病院に入院しているときって元気じゃないんですよ。人は働いてるとき、しかも好きな仕事をしているときのほうがいい顔してる。

ということは、人間楽しく仕事してるほうがいいなっていう当たり前のことなんですけど。でも、ロボットがここ何年かで急激に来たじゃないですか。

ここから先ものすごいスピードで、ロボットがいろんな仕事を奪っていく。でも、すべての職業には寿命があるし、この流れを止めることは無理ですよね。結局そうなっちゃうんだったら、流れに抗うのもあんま賢くないと思っていて、むしろそれを引き受けて、お金や肩書きとの向き合い方はこうしたほうがいいじゃない? って。

そういうことを書きましたね。あくまで僕の考えですけど。

――西野さんからの提案みたいなことなんでしょうね。「こういう考え方どうでしょう?」的な。

西野:そうです。で、そうやっていままで考えてきたことの試みのひとつとして、最近、肩書き変えたんです、僕。芸人やめちゃって(笑)。

――世間を騒がせてましたね(笑)。テレビ番組で「芸人辞めます。絵本作家になります」と宣言してブログにも書いたところから炎上したという。

西野:深夜番組のノリだったんでシャレ半分だったんですけど、実はもう半分はマジで。

なんかみんな肩書き超好きじゃないですか。「お前は何屋さんなんだ?」みたいなことすぐ聞きますよね? コロコロ転職する人は悪で、イチローとか本田圭佑みたいな人が良しとされてるというか。

――アイデンティティが明確で「一本筋が通ってる人がエラい!」みたいな?

西野:そうなんです。初志貫徹が正しく美しいっていうわけですけど、これはちょっと危ないと思ってまして。もちろん、イチローや本田圭佑さんはスゴい人だと思うし、世の中にはそういう人も必要なんですけど、そうじゃない人が生きづらいみたいな風潮はヤバい気もします。

例えば、タクシードライバーさんが副業でラーメン屋とかやっていたら、タクシードライバー業界の中では、「なんでタクシードライバーのくせにラーメン屋やってんねん? どっちやねんお前は?」みたいに結構言われると思うんですよね。

だけど、今後ロボットタクシーみたいなものが登場したときに、タクシードライバーの仕事なくなっていくじゃないですか? そうなったときに生き残れるのは、かけ持ちでラーメン屋やってた人だと思うんですよ。

――初志貫徹はカッコいいことかもしれないけれど、未来のことを考えるとその常識も疑っておいたほうが長く楽しく仕事を続けやすいのでは? ということですね。

西野:はい。「別の方向に手を打つことが、結局生き残ることにつながるんなら悪いことじゃないよな?」と前から思っていたので、テレビのカメラ回ってる前で「芸人辞めます」って言ってみたと。何が何でも肩書きを変えたほうが正しいと言ってるわけではなく、「こういうのもアリにしちゃおう」ってことなんですけどね。

でも、けっこう怒る人が多くて。色んなワイドショーとかでも、「なんなの? 何がやりたいの?」みたいな。で、絵本作家を名乗った次の日にそれも辞めて、パインアメの特命配布主任になったんです。絵本作家になったら「そっちのほうがいいね」とか言われたから、それもムカついて(笑)。

他人の肩書きなんてどれだけ変わろうが、その人には何の影響もないし、生活にも1ミリも迷惑かからないのに、なんか知らないけど、人の肩書きがコロコロ変わることに対して怒ったりする。そういうのは間違っているという先入観が植えつけられているんじゃないですかね。

――ふざけていると思うのかもしれないけど、西野さんはお笑いが仕事ですからね。ふざけてくれないと仕事にならないというか…。ちなみにパインアメも仕事?

西野:なんなんでしょうね?(笑)。前からライブや路上で自主的にパインアメを配ってたら、製造元の「パイン株式会社」さんがその役職に任命してくださったんで。まあ、いまは肩書き「ヘンテコロボット博士」になってるんですけど、また変えるかも(笑)。


パイン株式会社から感謝状を受け取る西野さん(写真左)。(キングコング西野オフィシャルダイアリーより)

――どこまで変わっていくんでしょうか?(笑)ブログにも「芸人とは職業名(肩書き)ではなく、生き方の名称」と書かれてましたけど、本来そっち(生き方)のほうが大事な気もするんですが。

西野:その意味ではなんでもいいんです、肩書きとか。そんなことより、人を笑わせているほうがいいし、人を楽しませているほうがいい。そっちのほうがはるかに重要で、肩書きなんてどんどん価値がなくなっていく時代に、それ自体に価値を持たせちゃうと、こっから先はやばいんじゃないか? って思います。

失敗なんてそもそも存在しない


――芸人さんやクリエイターだけでなく、これからはほかの仕事でもそういう面が大きくなってくるんでしょうね。社名や肩書きに依存せず、自分やその会社だけがつくれる価値で勝負しないと、ロボとのバトルに勝てるかどうかわからないわけで。となると「道なき道」を行っておくのもひとつのやり方だと思います。

このインタビューが掲載される「仕事旅行」というのも、色んな職業体験をして世界を広げてもらうことで「道なき道」へのちょっとしたトレーニングになるといいなという考えからやっているサービスでして、西野さんの考えに近い部分もあるかなと思い、一度お話をぜひうかがってみたかったわけです。

でも、「道なき道」は難しくもあると思います。仕事旅行のユーザーにヒアリングしていても、「その一歩がなかなか踏み出せないんだ」という声が多くて。どうしたらいいんでしょう? そういう場合って。何かヒントみたいなものがいただけないかと。まあ、さっきの本を読めということかもしれませんが(笑)、少しくらいは。


西野:人によりけりだとは思うんですけど、やっぱり友だちは大事かもしれませんね。僕は友だちがすごく好きで、しょっちゅう飲んでるんです。週一ぐらいで僕の家でみんなで飲むんですよ。

実は“癒着”がすげえ大事だと思っていて(笑)、まずそれができる場を作りたいと思って家を買い、壁とかブチ抜いて30人ぐらいで飲めるスペースを作ったんです。なので、常にだれかいます、僕んち。映画監督だ、ミュージシャンだ、いろんな仕事の人がいて、いつの間にか僕の知らん人までおったり(笑)。

そこに集まる人たちがすごく好きなので、「こいつらにウケてればいいや」と思ってます。世間でどんだけ悪口言われても、帰ってきたらその人たちは「お前、また炎上してんな」って笑ってくれますから。

小学生とかと一緒で、朝礼で先生に怒られたらちょっとへこむんですけど、グループの中に戻ったらみんな笑ってくれて、それで万事オッケーみたいな。

そうやって盛り上がれる場ってすごく大事で。

ルネッサンスとか幕末とか、時代がごっそり変わるときってあるじゃないですか? そういう時代のことを調べてみると、癒着の場が絶対あるんですよね。芸人さんから画家や音楽家なんかが情報交換して、そこから「新しい時代が生まれる」みたいなことってあると思うんです。赤塚不二夫さんたちが暮らしていた「トキワ荘」なんかもそうですよね?


西野亮廣さん

――いわゆるコミュニティみたいなことですね。その場を自分でこしらえたというのが面白いと思うんですが、そこで盛り上がってるうちにアイデアが湧いてきたり?

西野:そうです、そうです! ハロウィンの渋谷ゴミ拾いプロジェクトも、みんなでしゃべってるうちに出てきましたから。なので友だちは大事にしたほうがいいです。

あと、挑戦したいことには絶対挑戦したほうがいい。精神論ではなく理屈で説明すると、たとえば僕らはいまこの瞬間に未来を変えることはできなくて、10年後のことなんてよくわからないじゃないですか? 

でも、過去のことはいまこの瞬間に変えることができる。たとえば、僕がすごく貧乏したことだとか、女の子にフラれたことだとか、ネットで炎上したりとか。

僕の過去にネガティブな出来事があったとして、これをほっといたらネガティブなままですけど、笑い話にした瞬間に「あ、ネットで炎上してよかったな」とか「フラれてよかったな」とか、いくらでも変えていくことができるんですよ。

どういうことかと言うと、たとえ明日何かに挑戦してそれが失敗したとしても、2日後にはもう過去の話なんですね。失敗はその次に何をやるかで変えられる。だったら挑戦したほうがいい。挑戦しなければ失敗のままですから。

失敗なんてそもそも存在しないんですよね。失敗のまま止まっていたら失敗ですけど、それを存在させているのは、そこで止まっている自分自身だと思うんです。

――挑戦しているかぎり失敗はないということですね。だとすれば、挑戦しないほうが損というか。それはすごく力強い言葉で、そういうふうに考えている人の周りには人も集まりそうです。

西野:いや、僕はただ飲んでるだけです。ほんとに飲んでるだけで(笑)。

そうやってると友だちが友だちを連れて来てくれて、「この人おもろいでー」みたいな。で、「何やってんすか?」「こんなサービスやってます」「えっ!? それ超面白いっすね。今度一緒に何かやりましょうよ」みたいな。いやほんと、小学校のときのあのノリのまんま。



現在制作中『えんとつ町のプペル』のワンシーン(キングコング西野オフィシャルダイアリーより)

僕、次の絵本(『えんとつ町のプペル』)はもう間もなく完成するんですけど、それも飲みの席から始まった話で。もう何年か前なんですけど、イラスト特化型クラウドソーシングの代表の方が来てくれたんですね。

そのとき、僕、勉強不足でクラウドソーシングを知らなかったんですけど、話聞いてるうちに「おもしれえっすね。じゃあ、次の絵本で一緒にやりましょうよ!」みたいなことで始まって。

後編に続く→“元芸人”西野亮廣「仕事」を語る(後編)。ボケはツッコミを征す? 仕事にもっと笑いを

Profile

西野 亮廣(にしの・あきひろ)
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。1980年兵庫県生まれ。1999年梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。総合芸能学院(NSC)在学中である2000年にNHK上方漫才コンテストにて最優秀賞を受賞。テレビで活躍する一方、ソロトークライブや舞台の脚本、絵本執筆を手がける。2016年8月に自著『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』を出版。秋に共同制作の絵本『えんとつ町のプペル』出版予定。

Interviewer

河尻亨一(かわじり・こういち)
銀河ライター/東北芸工大客員教授。雑誌「広告批評」在籍中に、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。仕事旅行社ではキュレーターを務める。
あの人が語る仕事論:2016年09月05日

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