社会に力をくれる「新・珍・奇」なアイデアたち―「カンヌライオンズ2016」に行ってみた vol.4―

10年くらい前でしょうか? 独特の経営哲学で知られる、ある有名企業の“名物社長さん”にインタビューしたときに、こんな言葉を聞いたことがあります。

「結局、世の中を動かしているのは『新・珍・奇』の3つなんですよ」

世の中(人間)は「新しいもの、珍しいもの、ヘンなもの」が好きなもの。これまでの仕事や事業を振り返ると、この3つのどれかの要素がうまく入ったものが成功してきたと思う――という趣旨のお話でした。

そのときは「ふーん、そういうものか」くらいに思っていたのですが、なぜかその後も気になって、おりにふれ脳内でリフレインされるフレーズになっています。言い得て妙だな、と思うのですね。

実際、世の中で話題になるものや成功したものを分析してみると、多くのケースで「新・珍・奇」のうちのどれかの要素が入っている気がします。特に潤沢な資金やマンパワーを持たない企業や個人ほど、こういったゲリラ路線が功を奏すとも思います。

もちろん「奇を衒う」という言葉もあるように、わざとらしいものってバレますから、ただ闇雲にそれらを詰め込んでいればいいというものではなく、理由あっての“新・珍・奇”である必要はありそうです。

この連載でレポートしている世界最大のアイデアの祭典「カンヌライオンズ」では、私の中の「新・珍・奇」メーターが振り切れそうになるような、とんでもない事例をたくさん目にすることができました。

今回はそういった視点から、3つのプロジェクトをウオッチしてみることにしましょう。

ルールを逆手にとって笑いに変える




まずはこちら。アルゼンチンで乳がんの啓発活動をしている「MACMA」という団体によるプロジェクトです。

アルゼンチンでは67%もの女性が乳がんのチェックを継続的にしていないようです。上の映像でも「スマホのチェックは日に何度もやるのに……」ということを言ってますね。

早期発見のための自己チェックはそれほど難しいことではないようで、「MACMA」としてはそのやり方を多くの女性に知らせたい。

いまならSNSを使って広めることもできなくはありません。スマホならみんなしょっちゅう見ているわけですから。

しかし、ひとつハードルがありました。FacebookやInstagramといったソーシャルメディアでは、女性のニップルが映ったコンテンツはNGなのです。

そこでこの団体は色々アイデアを練ったのでしょう。女性モデルの替わりに、“あるもの”を用いた「実演動画」を投稿したところ、これが大ウケで異様にシェアされ、テレビ等もごぞって取り上げることになりました。

南米圏だからこそ、この「笑い」が受け入れられた面もあるとは思うのですが、日本でもたまに目にする乳がん啓発のポスターなどと比べると、これはそうとうヘン(奇)です。

しかし、ルールを逆手に取ってユーモラスな味付けをすることで、それほどお金も使わず、「広がる」という目的はかなり達成できたんじゃないかとも思います。

「正しいことを正しく言うだけでは伝わらない!」の見本みたいなプロジェクトですね。

チェコの甘くてレアな実験




カンヌライオンズには、世界110カ国の人々が参加しています。日本にも多くの情報が入って来るアメリカやイギリスといったメジャーな国以外の取り組みが見られるところも面白いところ。

こちらはチェコ共和国で行われた実験的プロジェクトとなります。テーマは「砂糖」。

米欧圏を旅行するとすぐ気づくことですが、多くの国で肥満はかなり大きな社会問題になっています(さっきのアルゼンチンの動画もそこがネタになってました)。

ただ、砂糖というものはお菓子やケーキといった見るからにスウィーティな食品だけでなく、ハンバーガーやドレッシング、スープといった一見「しょっぱそう」な食品にもかなり含まれているものだとか。

そのことを実証すべく、このプロジェクトでは人間以上に甘いものに目がない、ある昆虫を雇いました。

その昆虫の協力を得て作り出した食品のまあ、珍しいことといったら! スゴい色してますね(冒頭写真)。

「ハンバーガーから○○を作るとこんな色になるのかー、どんな味がするんだろう?」と興味をそそられます。

前回(vol.2「人工知能」)、前々回(vol.3「VR」)では、先端のテックを用いたプロジェクトにフォーカスしましたが、なにも最新技術を用いた取り組みだけが「新しい」というわけではありません。

「イケてる技術を使う」だけが新しさではない


上に挙げた2つの事例もそうですが、従来の常識にとらわれない「その手があったか!」と思わせるアイデアはすべて新しいのです。カンヌはそういったアイデアの宝庫です。

これはアメリカの事例ですが、たとえばこんなものも。



ビールやその他の飲料を6缶パックセットで買ったときに、缶の上部をリング状のビニールで留めていることがありますよね。日本だと紙で包んでいるケースが多いので、ご覧になったことがあるかわかりませんが、海外のスーパーではよく見かけます。

しかし、これ、自然環境には最悪です。海辺でBBQしたときなどに捨てて帰ると、環境を汚すだけでなく、上の動画に出てくるようにウミガメのからだに引っかかって甲羅が変形してしまったり、海の生物が食べて死ぬケースも多いようです。

そこである飲料メーカーが開発したのがこの「EDIBLE SIX PACK RINGS」。ようは“食べられる(edible)”わけですが、これなども「その手があったか!と思わされました。

万一捨てて帰っても、やがては分解され自然に還り、海に流れたとしても、カメや魚の餌になる(やたらめったら流すとやっぱりよくないとは思うのですが)。

「ゴミはゴミ箱に」とパッケージに書いて注意喚起しても、読まない人は読まないし、捨てる人は捨てると考えれば、「むしろ捨ててもいいようにしようじゃないか」と発想を変えたところが新しい。

今回ご紹介した3つのプロジェクトは、新しかったり、珍しかったり、ヘンだったりするアイデアをカタチにすることで、少しでも社会を良い方向に持って行こうとするもの。

「ソーシャルグッド」というワードで言ったりもするのですが、カンヌで受賞するプロジェクトの約半分くらいは、大きな意味での“社会貢献”や“社会改善”を志向するものになっています。

「若者、よそ者、バカ者が世の中を変える」という言葉を耳にすることがありますが、ここで言う「新・珍・奇」もおおよそ同じ意味なのかもしれませんね。

(次回に続く)

記事:河尻亨一(仕事旅行社キュレーター/銀河ライター/東北芸工大客員教授)

★バックナンバー
★世界のビッグなアイデア全員集合!クリエイティブ文化祭「カンヌライオンズ2016」に行ってみた vol.1
★人工知能でここまでの“仕事”ができる時代に—「カンヌ・ライオンズ2016」に行ってみたvol.2
★VRで暮らしや働き方はどう変わる?―「カンヌライオンズ2016」に行ってみたvol.3




読みもの&連載もの:2016年07月15日

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