様々なジャンルの約150もの職業を、1日体験することができるサービス「仕事旅行」。今回は新しくラインナップに加わった「社会問題を解決する建築家になる旅」に参加してきました(モニター体験)。
旅のホストは神奈川県横浜市にある一級建築事務所「秋山立花」の秋山怜史さん。秋山さんが企画した日本初の子育てと仕事が両立できるシェアハウス「ペアレンティングホーム」は、キッズデザイン賞を受賞するなど、注目を集める建築家です。
当日の秋山さんによるコメントもご紹介しながら、ツアーの様子をお伝えします。
記事:島田綾子(シゴトゴト編集部)
“選択肢”を作ることも建築家の仕事です
訪れたのは、横浜のビジネス街にあるオフィス(関内駅や日本大通り駅から徒歩5分ほど)。異業種のプロフェッショナルが集まるシェアオフィスとして、入居者でリノベしたというこのスペースは、木製の家具や小上がりなど手作り感がありながらも、仕事場として機能的な印象も受けました。
一級建築事務所 秋山立花のオフィス
迎えてくださったのは一級建築士の秋山さん。「みなさん、知っている建築家はいますか?」という質問から、建築や建築事務所での仕事にまつわるレクチャーが始まりました。
秋山さんによれば、建築家という職業で活躍するのは昔より難しくなりつつあるとのこと。その原因は、いまの建築業界を取り巻く世の中の仕組みや社会の現状にあるようです。
たとえば家を建てたければ、たいていの人はハウスメーカーに依頼します。建築家とあれこれ相談しながら作りあげていく、というよりは「商品ラインナップの中から選ぶ」ことが家作りの主流となり、建築家の個性を発揮しにくいとのお話もありました。
さらに現在約80万戸が空き家となっているとも言われる日本では、住居が供給過剰となっています。新しく家を設計する仕事は減っていかざるをえない状況です。
このように夢を持ちにくくなっている建築の世界で、秋山さんが日々考えているのは「どうやれば新たな価値を生み出せるか?」という課題。
「建築という仕事を通して、社会と人生に新しい選択肢を生み出していきたいんです。僕たちにとって豊かさとは、『自分の責任で選べるものが多い状態』だと思います。建築家もそのための選択肢を増やすことができるんじゃないかと」(秋山さん)
住まいが変われば働き方も変わる
そういった思いで秋山さんが取り組んだのは、「子育てと仕事の両立」に対する選択肢を増やすことでした。仕事はあきらめて子育てか、子供をあきらめて仕事か。多くの女性がそういった状況に直面するケースが多くなっていますが、両立しやすくなる選択肢もあっていいはずです。
特に多くのシングルマザーは、それを両立せざるを得ません。「そういう人たちこそ、もっとも困っているのでは?」との思いから秋山さんが4年前に立ち上げたのが、「ペアレンテンィングホーム」のプロジェクトでした。
秋山怜史さん
「ペアレンテンィングホーム」は日本初のシングルマザー専用シェアハウス。「①子供たちが兄弟のように育つ」「②子育ての仲間ができる」「③チャイルドケアを共有できる」といったコンセプトを軸に、運営から空間デザインにいたるまで、子育てと仕事の両立に前向きになれるような様々な工夫が施されています。
「自分がアプローチできる建築の立場から、子育てしやすい生活基盤としての“住まい”をなんとかしたいと考えました。そのためにはどんなデザインで、どんな仕組みならいいだろう? と考えていったんです」(秋山さん)
興味深いのは、金沢文庫や阿佐ヶ谷など、現在4カ所で展開するこのプロジェクトにおいて、建築家である秋山さんが「建物を設計したわけではない」ということ。社会が豊かになるための新しい選択肢を増やすために、暮らしの様々なシーンに建築的知見やデザインスキルを活用する取り組みです。
レクチャーを通じて、建物を作ることだけが仕事ではない“現代の建築家”の働き方も見えてきました。
とはいえ、まずはキチンと建物を設計できなければ建築家とは言えません。お話のあとは、建築模型を作る作業を体験します。カッターで切った線はガタガタに曲がり、窓を切り抜くだけでもかなりの練習が必要なことを実感しました。もちろん刃の向きのコツなども教えてくださるのでご安心を。
設計模型
パン屋のプロジェクトに参加して、自分の選択肢も増やそう
体験ツアーの後半は、事務所を出て相鉄線の上星川駅へ。現在秋山さんが関わっている、商店街のパン屋誘致プロジェクトの会議に参加します。
客の減少や商店の後継者不足といった課題を抱える駅前の商店街を「なんとかしたい」という商店街メンバーの話し合いから、「なぜ上星川にパン屋がないのか?」がトピックとして浮上、パン屋誘致実現に向けて動き始めたそうです。秋山さんも建築家の立場でこのプロジェクトに関わっています。
この日集まったのは地域住民や商店街の店主、パン屋さん募集に名乗りを挙げたパン職人など8名。会議ではパン屋となる建物の屋上の活用などについて話し合われました。
この体験ツアーでは、仕事旅行の参加者も「傍観者」ではなく「当事者」に近い目線で、一緒に会議に参加することができるなど、盛りだくさんのメニューです。この取り組みに対する秋山さんの仕事の進め方や地元の現状などを、リアルに目の当たりにできるのは仕事旅行ならでは。
建築家は町の活性化にどういったアプローチで参加しているのか? をつぶさに見ることで、ご自身のスキルをそういった取り組みにどう活かせるか? のヒントも得られそうです。参加者の選択肢も増える旅となるでしょう。次回「社会問題を解決する建築家になる旅」は7月19日(火)の開催です。
★仕事旅行の体験はこちら
社会問題を解決する建築家になる旅
新しい選択肢を産み出す建築家と、まちを良くする“しくみ作り”の秘訣に触れる。
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