2016年06月29日更新

世界のビッグなアイデア全員集合!クリエイティブ文化祭「カンヌライオンズ2016」に行ってみた vol.1

こんにちは。仕事旅行社キュレーターの河尻です。いつもお読みくださりありがとうございます。たまにお読みくださっていても大いに感謝いたします。

さて、私は昨日まで約1週間、南仏はカンヌというところに旅行に行ってました。映画祭で有名な海辺の町です。

たとえばこんな感じですね。


写真:筆者

青い空と海、きらめく太陽、豪華なホテルやクルーザーetc。絵に描いたようなリッチな風景(実際、バカンスに訪れた金持ちだらけ)。しかし私の場合、上の写真のようなフレンチリビエラの美しい風物とはほとんど無縁の1週間でした。

なぜなら決して保養ではなく、ワーク目的で来ているある種の“仕事旅行”ですから。

「どんな仕事か?」と言いますと、ここカンヌでは例年、華やかな映画祭が終わったあとのこのシーズン、日本ではあまり知られていない“もうひとつのビッグフェス”が開催されており、私はそこの取材に入っていました。

世界を面白くするアイデアが南仏に集合する1週間


そのビッグフェスの名称は“Cannes Lions International Festival of Creativity” と言います。長いので略して“カンヌライオンズ”です。

「なぜライオンなのか?」はさておき、このフェスティバルはどんなものなのでしょう? 

簡単に言うと、世界中から「斬新な企業プロジェクト」や「社会をちょっと変えるグッドアイデア」の事例が「これでもか!」というくらい集まり、「その中から世界一を決めよう(その他の賞も)」という祭典なのです。

今年は世界の約110カ国から、トータルで4万3000点以上ものエントリーがあったそうです。応募がそれだけ集まるくらいですから、人も大勢来ます。

基本的には「①広告やデザイン」、「②マーケティング・PR」、「③映像や音楽、ゲームなどのエンタメ」、「④放送及び出版、ジャーナリズム」といったメディア産業が中心のイベントですが、近年では「⑤ウェブやモバイルの開発者」、「⑥先端テクノロジーの専門家」から「⑦スタートアップ、VC(ベンチャーキャピタル)」、「⑧NPOの関係者」 らも多く参加しています。

よってこのフェスティティバルには約1週間の会期中、多様な仕事のプロフェッショナルたちが世界から約1万人集います。受賞セレモニーだけでなく、セミナーやネットワークのためのイベント等も複数会場で連日スケジュールびっしりに開催されます。

ひとたび取材に入ると、日が暮れる夜9時頃までほとんど外に出られません。缶詰です。


セミナーの一コマ。このときの講師は映画「プラダを着た悪魔」の“鬼編集長”のモデルとしても知られるアナ・ウインター。ファッション業界のレジェンドです。

そうやって様々な業界の人々がそれぞれの目的で集りつつ、みんなに共通のテーマもあります。

それは「革新的アイデアやクリエイティブ性豊かなコミュニケーションで、どうやれば企業や社会がもっと良い方向に向かうのか?」 というもの。ここでいう“良い方向”には、「会社がもっと儲かるには?」はもちろん、「文化を育むには?」「ソーシャルグッド(社会貢献)を行うには?」までの幅広さがあります。

その意味でカンヌライオンズは、「アイデアとクリエイティブが集う、世界一ビッグなビジネス文化祭」とも言えそうです。そして、ここにはクリエイターやメディア業界人だけでなく、多くの企業やビジネスパーソンにも実は役に立つヒントがあります。

国際平和の日にバーガーキングがやらかした


前置きがあまり長くなってもあれですから、たとえばどんなアイデアやプロジェクトが見られるのか? 早速ひとつご紹介してみることにしましょう。今年話題になった以下のプロジェクトをご覧下さい。



ナレーションが英語ですが、アニメーション付きで解説してくれてますから、なんとなく何を言っているかはおわかりいただけると思います。

アイデアもシンプル。

ようは「国際平和デー(PEACE ONE DAY)」に、「バーガーキングとマクドナルドみたいなライバル同士が、仲良くするといんじゃね?」という風にバーガーキング側が思いつき、ワッパーとビッグマックを半分ずつミックスした“マックワッパー”という商品を限定発売しようとした、ということですね。

それが実現すれば「おおっ!?」ってことで世間の話題となり、国際平和デーが盛り上がるのでは? という目論みだったのでしょう。

ところが、計画なかばでトラブル発生です。映像にも出てきますが、レシピやパッケージ、従業員のコスチューム、店舗デザインまで気合いを入れて考えたにも関わらず、その渾身の提案がマクド側から拒否されてしまったのです。

マクドCEOからは次の返事が来ました。

「(国際平和デーを応援したいという)その思いには好感を持ちますが、我々が何かご一緒するなら、もっとデカいことしたいですね。追伸:今度からまずお電話でお問い合わせくださいませ(事前にヘンなことせずに)」

まさかのプロジェクト断念? 残念!……かと思いきや、ここで思いがけない事態が起こりました。

そのニュースを知った多くの人々が、自分でワッパーとビッグマックを買って来て勝手にミックスバーガーを作り、その写真や動画をSNS上でシェアし始めたそうです。そのことで“マックワッパー”はたちまちバズり始めました。

日本でもよく目にする「やってみた」というやつですね。

これはニュージーランド発のプロジェクトですが、そういったSNS上のムーブメントに国境はありません(英語圏内は特に)。話題は瞬く間に世界に広がり、テレビなどのマスメディアもこの現象をネタとして取り上げることで、「国際平和デー」の存在がこれまで以上に知られることとなりました。

それにより「こんなクレイジーなことやらかすなんて、なかなか面白いヤツじゃないか、バーガーキング。それに比べてマクドのほうは…」と思ってもらえるなど、Wワッパーな“PR効果”が出ています。一回で2度おいしいということですね。

見方によってはなんとなくカタそうに思えるイベント(国際平和デー)も、茶目っ気のあるアイデアひとつで親しみを感じられるようになる、そこがこのプロジェクトの興味深いところ。

そして仕込んでいた企画が途中で失敗したこともあえてネタにする、その正直なさらけ出しっぷりがウケてブレイクというのもネット社会らしい現象です。

「異質に思える何かと何かをひっつけてみる」というのは企画の基本ですが、「その手があったか!」「ありそうでなかった…」と思わせるなど、“マックワッパー”のプロジェクトには色々参考になるところがあります。

実はこの企画、たんなる思いつきでやっているように見えて、アイデアを考えるフェーズから実施まで2年かかったそうですが(最初は「バーガーキングvsマクドナルド」以外の対決アイデアもあったらしい)、広い世界にはそういった仕事に全力で取り組んでいる人もいるということがわかります。

“マックワッパー”は今年、カンヌライオンズの2部門でWグランプリを獲得しました。

★マックワッパー公式サイト

仕事に役立つアイデアの“ブルーオーシャン”


こういったアイデアの事例に「これでもか!」というほど出会えすぎて、最後のほうはもうお腹いっぱいになってしまい、人によっては吐き気さえもよおしてしまうのがこのフェスティバルです(全部で24部門あります)。

しかし残念なことに、ここ数年、SNSの普及がきっかけで知名度も上がってきているとはいえ、カンヌライオンズの存在は、日本ではカンヌ映画祭に比べてあまり知られていません。

欧米ではもうちょっとメジャーなイベントのようですが。

それこそ「The Guardian」「The Wall Street Journal」といったハイソ&インテリ向けメディアから、「USA Today」といったいわゆる大衆紙、「The Daily Mail」のようなゴシップ好きバズ系メディアまでが総力特集を組んできます(英米欧だけでなく南米諸国なども報道体制がすごい)。

一方で日本からのプレスは一部の業界専門メディアをのぞいて少ないのが現状です。

日本の参加者自体は多いこと、年々増えていることを考えると、これはちょっと不思議な状況かもしれませんね。


プレスセンターの模様。こうやって世界中の記者たちが日光も浴びず連日カチカチ仕事してます。しかしビールは飲み放題

ですが、考え方によってはこのイベントは実はちょっとした穴場であり、我々にとっては南仏の海のような“ブルーオーシャン的教材”と言えるかもしれません。

カンヌライオンズで起こっていることのすべてが面白いというわけではないのですが、企業・行政活動、さらには個々人の仕事や暮らしのヒントになるネタの宝庫をスルーするのはもったいない、特定業界の内輪だけで盛り上がっているのもなんだか辛気くさいと思い、一見関係ないようにも思えるこの「シゴトゴト」でもレポートしてみることにしました。

各プロジェクトの説明動画やサイト等を見ていると、英語の勉強にもなりますしね!

——というわけで、これから何回かにわたってお送りしてみます。世界の働き方に関する話題もそのうち出てきます。

記事:河尻亨一(仕事旅行社キュレーター/銀河ライター/東北芸術工科大学客員教授)

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