「ガリガリ君」値上げCMにジワっと沁みる“その会社”らしさ―社員出演コンテンツを作るときに大切な3つのコト―

ご覧になりましたでしょうか? ガリガリ君の「値上げCM」。

ちょっと前のネタですが結構話題になっており、近頃よく見かける「社員出演コンテンツ」について考えたり、商品プロデュースやビジネス全般、働き方とも関わってくる部分もありそうなので「シゴトゴト」でも取り上げてみたいと思いました。

テレビでは4月1日~2日限定オンエアだったそうですが、以下より60秒バージョン視聴できるようです(4月11日現在、約140万ビュー)。

★ガリガリ君「値上げ篇」(赤城乳業youtube公式チャンネル)より

記事:河尻亨一(「シゴトゴト」編集長/銀河ライター/東北芸工大客員教授)

シンプルで派手さもない映像がなぜ伝わるのか?




さて、ここでご紹介するガリガリ君「値上げ篇」ですが、CMの内容はとってもシンプル。コマーシャルにしては地味とさえ言えそうです。

出演者は社長や幹部社員たちでしょうか? 映像の冒頭では、なんだか深刻な表情をした年配の背広の方々が画面に映し出されます(上写真)。バックには懐かしフォークソング風のBGMが…(高田渡の「値上げ」)。

そのシーンに続き、カメラがどんどん引いて行くと、背広を着た人々の周りに、赤や青の作業服を着た幅広い世代の社員さんたちがズラリ並んでいることがわかります。

社員のご家族なのかあるいは内定者? 最後列左にはなぜか詰め襟の学生服を着た人まで。その数約120名。何回か数えましたが、正確にはわからずでした!



出演者はみなとても真剣で、決意を秘めているかのような表情です。

しかし初見の際、この段階では一体なんのことやらさっぱりわかりません。「?」と思いながら見ていると、さらにカメラが引いて空撮になり、「25年間踏ん張りましたが、」のコピーに続いて「60→70」という字幕が。

そして歌のほうで「♪値上げに踏み切ろう」というフレーズにさしかかったその絶妙なタイミングで、全員が一斉にお辞儀となります(記事冒頭写真)。

次にガリガリ君の商品カットが出ることから、「ああ、60円から70円になるのね? 25年間上げずに頑張ったのね?」という感じでメッセージへとオチる仕掛けです。

有名タレントも出ておらず、ロケ地も会社の敷地内。大道具小道具セットなし。衣装は日頃の“仕事着”。そして演技は「カタい表情とお辞儀のみ」というシンプルさにも関わらず、多くの人が視聴し、たくさんの関連記事が書かれ、SNS等でも拡散されるコンテンツとなりました。

働く人の誠実さがジュワッと沁みて来る


私は企業コミュニケーション(広告やPRのクリエイティブ)関連の取材や仕事が多いのですが、映像の制作費等もふまえると、ここ数年では稀に見るほど完成度の高いCMだと思い、ちょっと感動さえしてしまいました。長年の高田渡ファンということもあるのですが…。(特にこの歌はいつかどこかで使えそうだと考えていたので、「やられた!」と思いました)

テーマが「値上げ」にも関わらず、視聴者の感想も好意的なものが多い印象。youtubeのレビュー欄を見てみると、「100円になっても買い続けます安心してください」「25年間よく頑張った!」といった応援コメントが目立ちます。

なかには頼まれてもいないのに「ガリガリ君は梨が一番好き」などと、勝手に商品をPRしてくれているユーザーまで。

もちろんこれは「ガリガリ君(赤城乳業)」がこれまで築きあげてきた、ファンとの“見えない絆”があるからこそ可能になる技です。

それにしても商品の「値上げ」というのは、会社にとってはなかなか言いづらいこと。できれば「さらっとスルーしたい」案件です。この場合「たった10円」とも言えますが、お客さんにとっては「されど10円」ですから。

「お財布のひもがつい締まりがち」な昨今の我々の台所事情に鑑みても、ヘタをすれば商品が売れなくなり、売上げが落ちてしまうリスクさえあるわけです。

社員に「お辞儀させる」という演出も、見方によっては日本風の“家族経営”や“ブラック”なイメージと結びつけられないわけではなく、批判を浴びる可能性も想定されたはずです。

なのに、あえてこんなCMを作り、安くないメディア費を投じてテレビでもアピールしてしまう。

「ガリガリ君コーンポタージュ味」などユニークな新商品が話題になっていた頃、赤城乳業は従業員数350名ほどと聞いたことがあるのですが(2010年代初頭)、この会社は「度胸があってしたたかだな、相変わらず結構攻めてるな…」と改めて感じた次第です。

そうなんです。値上げを「あやまり」ながらも、ちゃっかり「今後ともよろしく!」と言いたいこと言えちゃってます。

このCMが興味深いのは、視聴後に「ガリガリ君の会社って、いい会社なのでは? 社員さんたちがなんだか誠実そう。頑張ってアイス作ってそう」という“読後感”が残ること。

もちろん、実際はどうかはわかりません。しかし少なくとも映像を見る限り、そこで働く方々の“人の良さ”みたいなものが、口の中のアイスのようにジュワッと沁み出てくる作りになっている。弱みをあえてさらけ出して、振り切ったところが肝なんでしょうか?

いずれにせよタレントにメッセージを代弁してもらうのではなく、社員がからだをはってみずから出演することで、メッセージがより身近に伝わってくる部分があります。

つまり、70円で購入できるガリガリ君(とその会社)に見合った“らしい味わい”が出ており、そこにこの映像の「目に見えないPR効果」が実は入念に計算されていたりもするのでしょう。

世間が「そうあってほしい」と思う、商品や会社のイメージにマッチしたある種の“自撮りCM”ですね(それを撮るのはプロだったりするのですが)。

「自撮り」の波は企業にも?−“タレント”としての会社員ー


このコマーシャルは「社員出演コンテンツ」(それを作りたい企業)のお手本になる部分もありそうです。

関係者がズラッと並んだり「あやまる」だけが社員出演モノではなく、このジャンルには、色んなバリエーションの過去事例があります。少し引いた目線で見てみると、「ジャパネットたかた」のショッピング番組などもこれ系の成功例として挙げられるかもしれません。

いまでは情報発信が手軽になったこともあってか、社長や社員が出演して自社や商品をPRするコンテンツは、以前より世の中にたくさん出回るようになっています。

ひと昔前までなら、PRコンテンツの制作はお金・人ともに相当かかるもので(いまも基本はそうです)、メジャーな商品を扱う大企業でないとなかなか難しかったわけですが、いまなら事業規模の小さいベンチャーでも、それに近いことができないわけではありません。

アイデアや工夫があれば、“自撮りCM”を動画共有サイトにポンと流すことで、そこそこ見てもらうということも可能になっています。

映像だけでなく、記事やイベントなどの方法もありますね。いまお読みのこの「シゴトゴト」もある種そういったもの。大手・中小・ベンチャーにかかわらず、サイトで見かける社長ブログ、スタッフが登場するサイト、「こんな会社です!」みたいな社員紹介記事なども、会社をPRするれっきとしたコンテンツです。

SNSでもその類いの企画をよく見かけます。“自撮り”の波が企業活動にも押し寄せていると言えそうな空気もあります。

そういったコンテンツでは、いわば社員は“タレント”。いいイメージでコミュニケートすることができれば、商品や提供サービスだけでは見えて来ない「その会社」や「そこで働く人」のキャラクターが伝わり、愛着を感じてもらえることにもつながります。

中の人の「見える化」という意味でも、いまや自社のPRコンテンツへの出演は、社員にとって“業務”のひとつとさえ言えるかもしれません。

ガリガリ君を人気者にした3つのキーワード


しかし、やってみるとすぐ気づくこととして、これがなかなか簡単ではない。

よく陥りがちなワナとして、なんだかヘンにカッコをつけていたり、目立とうとして盛りすぎていたり、自信なさげにモゴモゴ言ってたり、極端な自虐に走りすぎたりと、うまくいっているとは思えないケースも出てしまいます。

中途半端な見え方になってしまうと、せっかくのコンテンツもスルーされてしまいますし、印象が悪いと逆効果ともなりかねません。

会社が大きい小さいに関わらず、“社員出演”は企業にとっての「本気」を試される場とも言えそうです。

で、ふたたびガリガリ君の話に戻ると、社員出演ものを作る際、やはり「らしさ」をキチンと抑えていて「ジワっと来る」というのは、共感されるためのひとつのポイントなのでしょう。派手さ・キャッチーさでは本職のタレントに勝てないわけですから。

商売の世界では基本と言われますが、もうひとつのポイントは「お客さん目線」であること。

この記事を書くために、ガリガリ君(赤城乳業)に関してネットで色々調べていると、同社のプロデューサー・萩原史雄氏による講演「ガリガリ君物語—1981年誕生から大切にしているコトー」(起業教育研究会)という読み物を発見しました。

どうやら数年前に収録されたもののようです。けっこう読み応えのある記事なのですが、最後のほうに今日のテーマに通じる興味深い話があったので、少し引用させてもらいましょう。

「31年間継続して実施してきたガリガリ君のアイデアですが、ポイントは三つだけです。まず、アイデアをどこから出すかといったら、普段の生活の中で全部考えるということです。(中略)

企画を考えるときに大人になると忙しいからできないとよく言うのですが、そういうことは絶対に言い訳にしない。日常の中で考えるのだから、移動中等、考える時間は生み出せる(中略)。

ガリガリ君に関して注意することは、目線は常に下からです。お客様を上から見るようなガリガリ君は絶対つくらないことが、ガリガリ君の前任者から引き継いでいることです。

まずは0円企画からです。基本的に低予算や0円でできることを考えると、結局、自分から動かないとできないので、自分から動いて人と会って、その中でヒントやアイデアがどんどん生まれていくという現象です。(中略)

あともう一つ、共に創ることで、本当にメーカーとお客様は対等の関係で、 話題商品は一緒につくるもので、基本的には社内も社外もガリガリ君に関しては一緒で、みんなを巻き込みながら、キャンペーンを進めてきました。これが現在までに守ってきた三つのポイントです」(萩原氏)


「①アイデアはふだんの生活の中から、目線は低く」「②0円(低予算)で始めて自分から動くこと」「③対等な立場で人を巻き込み共創すること」——まとめるとこんな感じでしょうか?

今日ご紹介したCMにはこの3つがちゃんと入っていそうです。PR動画やキャンペーン作りだけでなく、起業や働き方、ビジネス全般にも通じる何かがあると思いました。


読みもの&連載もの:2016年04月11日

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