2016年10月21日更新

やりたい本気が“工場”を動かす。燕三条「工場の祭典」現地レポート(後編)

新潟県燕三条地域で行われたオープンファクトリ―イベント「工場の祭典」。前編では、約100もの参加企業の中からいくつかの工場と耕場の様子をお届けしました。

後編では公式レセプション「作業着RUNWAY 2016」の模様をお伝えするとともに、工場の祭典の副実行委員長・武田修美さん(株式会社MGNET代表取締役)にうかがったお話もご紹介します。

来場者必見の「作業着RUNWAY」


公式レセプション「作業着RUNWAY 2016」は参加企業のひとつであるマルナオ株式会社で開催されました。

その名の通りご当地工場の作業着や制服を紹介するファッションショーですが、タイトルからして気になりますね。「どんな作業着が見られるのだろう?」と思うとワクワクします。

ショーには参加企業のほか、新潟出身の日本航空客室乗務員やスタッフ用ピンクストライプのTシャツを着た「工場の祭典チーム」など計17組が登場とのこと。

マルナオは1939年創業の老舗企業ですが、寺社の装飾に用いる彫刻制作から出発し、現在は職人の手技と最先端技術を融合した箸作りでもその名を知られるようになっています。

燕三条といえば、刃物やカラトリーを始めとする金属加工品の産地というイメージが強かったのですが、現地に足を運んでみると、木材や紙など様々な素材を用いたものづくりも盛んに行われていることがわかります。

会場となった工場の敷地内にはショールームも併設されており、マルナオのプロダクトを見ることもできました。


マルナオの箸

さて、いよいよショーが始まります。

まずは女性モデルら約40人が次々と登場。エプロンやスーツ、Tシャツなどを披露するオープニングです。



アップテンポの曲に合わせて焚かれるスモーク。モデルは参加企業の社長や社員さんたちで、それぞれの自社のユニフォームを紹介するのですが、思っていた以上に本格的。ファッションブランドのショーさながら、ライトを浴びてポーズを決めていきます。



MCによるデザイン解説も興味深い。説明を聞くと、何気なく見ていた制服や作業着にも仕事に必要な様々な工夫が施されているのだと分かります。

モデルさんたちは実際に日ごろ、その服を着て働いている方々なのでしょう。ときには客席から「○○さーん!」「かっこいいー!」といった声援も送られます。

終了後、「燕三条 工場の祭典」実行委員会の副委員長である武田修美さん(株式会社MGNET代表取締役)にお話をうかがうことができました。

MGNETは武田金型製作所によるブランド「mgn」の企画、開発、販売などを行う会社。「mgn」ではシリーズ第1弾として、マグネシウム・チタン・真鍮・アルミ・ステンレスの5素材を、同一の金型で成形した「名刺入れ」を展開しています。

「工場の祭典」の副委員長として委員長を支え、委員会仕事を全うされている武田さんですが、この日はご自身もMGNETの作業着で出演されていました。


高度な整形技術を要するマグネシウム合金製の名刺入れ。「mgn」というプロダクトブランドで展開する、MGNETの製品

本気さでは負ける気がしない


「ランウェイの良いところは、地域の工場をひとつにしてくれるところ。出番から戻ってくると、仲間が待ってる。日頃、関わりのない工場同士がつながれる機会として私たちも楽しんでいます」(武田さん)

昨年から実施されている「作業着RUNWAY」は、工場の祭典の5か条のミッション・ステートメントを象徴するかのようなセレモニーとして捉えられています。

KOUBAの祭典 ステートメント

1.工場(こうば)では、誇りを持って何事にも全力で取り組む事
2.工場(こうば)で、ものづくりの本質を人々に体感してもらう事
3.工場(こうば)が活性化することで、地元地域の雇用に貢献する事
4.工場(こうば)での仕事が、子供達にとって憧れや夢となる事
5.燕三条の工場(こうば)を、ものづくりの聖地にする事


4年前、工場の人たち自身が声を上げて始まった工場の祭典は、これらのステートメントを共有しながら広がっていきました。

「こういったイベントで大切なのは、自分たちで作っていくこと。その空気が皆さんに伝わっているのかもしれませんね。東京のプロの方々の力を借りながらも、委託ではなく自分たちの手で作ってきたという自負があります。

やらされてやるのではなく、工場の人たち自身がみずから考えている。その本気度はどこにも負けないんじゃないかと。

かと言って自分たちで好き勝手にやってるわけではないんです。様々な分野のプロの方々と「一緒に作って行こう」というスタンスも大事で。

最初は色々ありましたけどね。『テープの貼り方も手を抜かないでほしい。1mmのズレが5mを超えるキャンバスを駄目にする。』って東京の人たちに怒られたり(笑)。こっちは工場でやってきた職人たちだから、細かい作業は得意だと思ってるけど実は違った。そうやって互いに気づき合える関係を築けていると思います。

テープ貼りみたいな地味な作業も、東京と燕三条の人が一緒になってやってきました。そして、彼らの演出で自分たちの製品や仕事がこんなにも映えること、人に喜んでもらえることを実感したんです。

だから『またやりたい』『一緒にやりましょう』ということになって、年々盛り上がっていってるんじゃないでしょうか」(武田さん)


町中の様々な場に貼られたピンク色のテープは、「工場の祭典」のアイコンとして機能している

前編でもふれたように、工場の祭典の輪はいまでは農家(耕場)やショップにまで広がり、今回は13の耕場と5つの購場(商店、ショップなど)が加わっての開催となったわけですが、それもある農園がみずから「耕場」としての参加を提案したことから始まったとのこと。

武田さんらもスタート当初から「地域で見たとき、産業は工業だけではない。食や他の分野ともコラボできるはず」と考えていたそうですが、まず自分たちが「やりたい」と思うところから始まるこのイベントの特色が伝わるエピソードです。


「耕場」として参加した三条スパイス研究所では、カレーなどのスパイス料理を提供

「内輪」と「外輪」がなめらかに回転することで


武田さんは次のような話もされていました。

「(5か条の)ステートメントの中で自分がもっとも大切にしているのが『工場の仕事が子供達にとって憧れや夢となる事 』。「工場って大変そう」じゃなく「カッコいい」って思ってほしいんです。工場が子どもたちにとっての憧れになるためには、隠すのではなく自然体のカッコよさを見せていくことが重要だと思います。MGNETでは『隠す仕事から、見せる仕事に』とも言ってますね。

今後は、若い人にもっと関わってもらいたいです。ボランティアスタッフなどに関心を持ってくれる学生さんも多いですから、みずから『何かをやりたい!』と手を挙げる若い人ともっと一緒に作っていけたらいいなと思っています」(武田さん)

「工場の祭典」については、以前より人づてに話を聞いたり、記事を読む中で興味を持っていました。「首都圏や大都市から離れた場所で、なぜ、こんなに盛り上がっているのだろう?」「オープンファクトリーなのに、農場も参加しているのはなぜだろう?」などと感じていましたが、実際足を運んでみることでわかったことも多くあります。

武田さんのお話をうかがって気づいたのは、工場の祭典は「内輪」と「外輪」の歯車が無理なく噛み合って回転することで、ほかの歯車もどんどん回り始めるイベントになっていること。

それはあらゆるプロジェクトを成功させる際に大事なポイントだとも思いますが、その仕組みをなめらかに動かすオイルやエネルギー源となるものは、やはり「自分たちがやりたい」「人に伝えたい」という思いの強さなのでは? と感じました。

今回の取材でお世話になった多くの方々にこの場を借りてお礼申し上げます。

参考:燕三条「工場の祭典」公式サイト

記事:島田綾子(シゴトゴト編集部)
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